表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十四章 新米メイドとひとつ目の巨人
320/410

319 儀式の夜2

 王室図書館の司書を務めるセレナは、実は結構いい家の出身だったりする。

 くわしくは知らないけど、前に、とある宴に一緒に行った時。

 貴族の世界に顔が広いようだったし、彼女の家名を聞いた相手が、ハッと息を飲むような場面もあった。

 そして今夜の儀式は、王国にとって重要な行事だ。名のある貴族が一同に会する場だ。

 彼女も当然、招待されていたとのことで、「本当に偶然ですねえ」と笑いながら、私を馬車に乗せてくれた。


「人の多い場所は苦手なものだから、出席を見送る年もあったのだけど」

 セレナはフフ、と意味深に笑って、

「今年は何だか面白いことが起こりそうだと聞いて、これは是非とも行かなければと思って」

「……そうなんですか」

 私は控えめに相槌を打った。


 温厚な老婆のような見た目に似合わず、セレナは情報通である。

 その「面白いこと」の具体的な中身も知ってるんだろうな。

 たとえば、騎士団長が隣国の貴族と組んでクーデターを起こそうとしているとか、その計画を知った宰相閣下が、逆にそれを利用して相手の(政治的な)息の根を止めようとしているだとか……。


「さすがに、巨人がどうこうなんて話は聞いてないですよね?」

「まあ、興味深い。いったいどんなお話なのかしら」

「あ、いえ。聞いてないなら別にいいんですが……」


 言葉を濁す私を、セレナは小首をかしげて見つめた。

 彼女のおかげで、私は無事、礼拝堂までたどり着くことができた。

 今居るのは、入り口の扉を入ってすぐの場所。豪奢で広々としたエントランスホールだった。

 これから係の人が席まで案内してくれるらしい。……本当はすぐにカイヤ殿下の所に行きたかったのだが、セレナいわく、「今からでは間に合わないでしょう」とのこと。

 もう儀式が始まっていてもおかしくない刻限で、彼女はかなり遅れて来たのだという。


「出がけに少し、膝が痛んでね。できれば行かない方がいいと止められたくらいなんですよ」

 セレナは苦笑しながら、背後に視線を向ける。そこには黒スーツに身を包んだ狐目の青年が1人、立っている。

 彼女の従者だ。前に1度だけ会ったことがある。確かセレナの家に昔から仕えてる一族の人だ、って言ってた。

「お嬢様は言い出したら聞きませんので」

「もう、その呼び方はやめてちょうだいってば」

 もう若くはないんですよとセレナが訴えても、青年は涼しい顔だ。

「そのように思われるのでしたら、危険な場所に敢えて足を運ぶような真似はおやめください。無論、お嬢様の御身は何があってもお守り致しますが……」

 危険な場所ってことは確定してるんだ。……まあ、クーデターの話が事実なら、普通に流血沙汰だって起きかねないしね。

「今から動き回るより、私たちと一緒に居た方がいいと思いますよ」

とセレナも言ってくれた。

 仕方ない。ここは先に行ったジェーンを信じるしかないか。


 それから程なく、案内の人が来てくれた。

 メイドとか執事じゃなくて、武装した騎士だった。それも1人ではなく、2人。

 多分、殿下の暗殺予告のこととか、色々影響してるんだと思う。礼拝堂の警備は、中も外も、それは厳重で物々しかった。

 セレナの家名のおかげか、騎士たちの案内は至極丁重であったが、それでもピリピリした空気は伝わってきた。

 王国の観光名所にもなっている最古の礼拝堂。しかしゆっくり見物する余裕などはなく。

 警備兵がひしめく長い廊下を通り、古びた木の階段を上がって、たどり着いたのは観音開きの大扉の前。

 両側を守っていた屈強な騎士たちが、「どうぞ、お入りください」と扉を開けてくれる。

 一歩、足を踏み入れるなり、私はまぶしさに目がくらんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ