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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十三章 新米メイドと封じられた真実
312/410

311 心配

 私は脱力し、ぺたんと地面に膝をついた。

「はあ……」

 よかった。無事で。

 暗殺予告状の送り主を探していたとか、どこぞの貴族の屋敷に忍び込んだとか。……私とお祭に行くために無茶をしたとか、色々聞いてたから。

 よかった、生きてて。ひとまずは元気そうで。


「エル、だいじょうぶか?」

「急にどうした?」

 へたり込んでしまった私を見て、クリア姫とファイが目を丸くしている。

「ちょ、姐さん?」

 当のカルサも、ひょこひょこ近づいてきた。

 私はすっくと立ち上がり、その胸ぐらをつかんで締め上げるまでを一呼吸ひとこきゅうでやってのけた。

「姐さん、じゃない! いったい今までどこに行ってたの!?」

 無事だったのなら連絡しろ。心配するじゃないか。

 私だけじゃない、警官隊の人たちには? ジャスパー・リウスやユナにはちゃんと無事を知らせたのか?


「姐さん、ぐるじい……」

「いいから、答えて」

 ほんの少しだけ腕の力を緩めてやると、カルサはまた決まりの悪そうな顔をして、

「えと、証拠と一緒に、手紙を届けたから……」

 自分が無事だということは、警官隊の人々に伝わっているはずだとのこと。


「なんで、さっさと会いに行かないの」

 ユナに聞いた話によれば、ジャスパー・リウスはこの炎天下を歩き回ってカルサを探しているという。

 カルサに危険な任務をさせた息子のカイト・リウスに対しては、顔を見るたび決闘を申し込むほど怒っているというのに。


「ご隠居が……? なんで……?」

 なんでって、そんなの考えるまでもない。

「心配だからに決まってるでしょーが!」

「…………」

「会いに行きなさい! 早く! 今すぐ!」

 胸ぐらを放し、少年の肩をぐいぐい押す。


「ちょ、待って」

 カルサは慌てて私の手から逃げると、「俺の話はいいから」とふざけたことをぬかした。

「はあああ!?」

「怒らないで、聞いて。姐さん、あの建物に行くつもりなんだよね?」

 森の木々の向こうに見えている石造りのお堂を指差し、「やめといた方がいいと思うよ」と小声で告げる。

「姐さん、多分ショック受けるから」

「……どういう意味?」

 なぜ、カルサが私を止める。……そもそも、あそこに何があるのか知っているのか?

「うん、知ってる」

「なんで」

「ヤンとおばあさんに聞いた」

「……ヤン?」

「うん。弟なんだってね? あんまり似てなかったけど」

 私は何度目かもわからない「なんで」を口にした。

 なんで、カルサがうちの弟のことを知ってるんだ。本当にもう、わけがわからない。


「えっと、順を追って説明するね?」

 そんな場合じゃない。今も私たちの背後では戦いの音が響いている。ダンビュラとジェーンが「巨人殺し」と戦っているのだ。

 早く霊廟に行かなきゃいけないのに、私は動けなかった。

 クリア姫は困惑顔で私たちを見比べている。ファイは事情も何もわからないだろうに、悠然と様子を見ているだけ。


「俺、この前の任務でケガして――あ、大したケガじゃないからだいじょうぶ。……本当だってば! そんな怖い顔しないで。とにかくその時、助けてもらってさ。巨人殺しとか呼ばれてるあのおっさんに」


 カルサとゼオは元から顔見知りらしい。いったいどこで知り合ったのかと疑問だが、聞いている暇がないので今は流す。

 ともかくゼオの隠れ家に逃げ込み、体力の回復を待っていたところ、たまたま来客があった。それが私の祖母と弟だった、と聞かされて頭がくらくらした。

 私の家族が、ゼオのもとを訪ねた? 伝説の暗殺者の隠れ家を知っていた?

 どうして、何のために――。


「ヤンはお母さんから手紙を預かってきたって言ってたよ。俺は横で聞いてただけで、よくわかんなかったけどさ。姐さんが昔のこと知りたがってるとか、これ以上はもう隠すべきじゃないとか、本当のことを教えてあげるべきじゃないかとか言って、あいつのこと説得しようとしてた」


 私はさらに頭が混乱した。

 もうこれ以上は隠すべきじゃない? 本当のことを教えるべき?

 それはつまり、私の家族は私が知らない「何か」を知っているということか。祖母はもちろん、4つ年下の弟まで?


「でも、あいつは『そんなこと絶対にできない』って言い張ってさ」

 それが友人であるシム・ジェイドと、その義父との約束だから。

「ずーっとそればっかり言ってるから、ヤンもあきれ顔してさ」

 だったら祖父を説得してからまた来ます、と言って、隠れ家を出ていったらしい。

「あいつ、それからちょっと変になっちゃって。姐さんがすぐにでもここに来るんじゃないかと思ったみたいで」

 誰も近づけないよう、霊廟を見張ると言い出した。


「どうにも理解しがたい話だな」

 混乱で何も言えない私の代わりに、ファイが口をひらいた。

「あれは王家の所有物。扉の中にあるのは王家の秘宝だ」

 少し先に見えている石造りの建物を、次いで私のことを指差して、

「その娘と王家が、何ぞ関わりがあるとでも?」

 私には答えようのない問いかけに、カルサはあっさり答えて見せた。

「王家がどうとかじゃなくて。なんか姐さんのお父さんが、昔、魔女に願い事したことがあるらしいよ」

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