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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十三章 新米メイドと封じられた真実
311/410

310 待っていたのは2

 どうして、ゼオがここに? 今、このタイミングで現れるのか。

「ずっと待ってた」

 だから、なんで。

 私だってゼオには会いたかった――会って問いただしたいことがあったのに。

 ゼオは逃げた。監禁されていた場所から姿を消して、それきり行方が知れなかったのだ。


「あんたがここに来ることはわかってた」

 そんなの、わかるわけない。私がこの場所に来たのは、今朝まで予定にもなかった行動である。

「今日来るか、明日来るかってずっと待ち続けて……」

 って、ちょっと。

「ずっと」っていつからだ。まさか別れた時からひたすら待ってたとは言わないよね?


 ――魔女の霊廟って知ってますか?


 思い出す。かつて自分が、この男に尋ねたことを。

 ゼオはひどく動揺していた。おそらく何かを隠しているんじゃないかと、私をその場所に近づけたくない事情でもあるんじゃないかと、そう言っていたのはカイヤ殿下だ。


「いったい、ここに何があるんですか?」

 あの時は答えてもらえなかった問いを、もう1度、口にする。

 ゼオは怪訝けげんな表情になった。

「……弟とばあさんに聞いてきたんじゃないのか?」

「はあ?」

「あいつら、もう本当のことをおまえに話すべきだって……。これ以上は隠せないって……。おまえのおふくろからの手紙を持ってきたんだ……。でも、俺は絶対に……。じいさんとシムとの約束だから……」

 様子が変だ。

 何を言っているのかわからないし、ろれつも怪しい。見るからに疲れきった顔で、足元もフラついている。


「ちょっと、だいじょうぶですか?」

 近づこうとしたら、ジェーンに止められた。

「危険です。あの男、武器を持っています」

「そもそも何者だよ?」

 ダンビュラも聞いてくる。ヨレヨレの不審な男をいかにも怪しむように見て、クリア姫を背中にかばうようにして。


 この場でゼオの正体を知っているのは私だけなのだ。説明しないと。

「ええと彼は、私の父の友人で……」

 伝説の巨人殺しです、っていうのはマズイかな。ジェーンは即座に斬りかかるかもしれない。

 見た目も素性も怪しいが、敵というわけではないのだ。どう説明したものだろうと悩む私は、少々のん気過ぎたのかもしれない。


「帰れ」

 まばたきするほどの刹那せつなに、ゼオが剣を抜いた。

 騎士や兵士が使う剣とは違う、小回りのきく短剣だ。

 白刃が、傾き始めた太陽の光を照り返す。同時に、ゼオの闇色のまなざしも鈍く光る。

「ここは通さない。痛い目にあいたくなかったら、今すぐ引き返せ」

 無言のまま、ジェーンが剣を構えた。

 ダンビュラの重心が下がる。四つ足を踏ん張って、いつでも飛びかかれる体勢をとる。

「嬢ちゃんは下がってろ」

「ちょ、待ってください!」

 問答無用。ゼオは私の静止の声など聞く耳持たずで地を蹴った。

 硬いもの同士がぶつかる音。交差し、駆け抜ける3つの影。

 戦いが起きているのはわかるが、何がどうなっているのかはさっぱりだ。3人とも速すぎて、とてもじゃないが目で追えない。


 そんな中、ファイだけが悠然と首を巡らせ、私とクリア姫の顔を順に見た。

「今のうちだな。我らは一足先に魔女の霊廟を目指すとしよう」

 え、私たちだけで? ダンビュラとジェーンを置いて?

「あの男が何者かは知らんが、『ここは通さない』というセリフからして、我らの足止めに来たのであろう?」

 ならばダンビュラたちが戦っている間に、目的を果たすべきだろうと。


 私たちの目的は、魔女の霊廟に眠っているという「封印の力」とやらを手に入れることだ。

 マーガレット嬢が知らせてくれた「恐るべき陰謀」を阻止するため。今夜、儀式の場に現れる(かもしれない)巨人に対抗するために。

 ゼオはそれを邪魔しに来た? ……違うな。政治とか陰謀とか、あの人には関係ないはずだし。

 何か個人的な事情で現れたのだとは思うが……、その事情については不明で、聞いても答えてくれそうにない。


「行こう、エル」

 迷っていると、クリア姫が私の手を引いた。

「ここでこうしていても意味はないのだ。……できることをしなければ」

 その顔は青ざめ、色をなくしている。本音はダンビュラのことが心配で置いていきたくなどないのだろうに、気丈な姫様だ。

「わかりました」

 ここで突っ立ってるだけじゃ意味がないのは、クリア姫の仰る通りだ。

「行きましょう。魔女の霊廟に」

「……やめといた方がいいと思うよ」

 引き止める声は、ファイではなく、もちろんクリア姫でもなく。

 今し方、ゼオが出てきたばかりの森から姿を現した、こちらも薄汚れた格好をした少年のものだった。


「……カルサ?」

 信じられない思いで、私は名前を呼んだ。

「久しぶり、姐さん」

 行方不明だったはずの警官隊の少年は、ひどく決まりが悪そうな顔で私にあいさつしてきた。

 その姿を見た瞬間――。

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