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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十三章 新米メイドと封じられた真実
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296 竜と巨人

 王国の大地を、巨人が闊歩かっぽしている。


 流れる川を、森や畑をひとまたぎにして、ゆっくりゆっくり移動している。

 大きい。途方もなく。頭のてっぺんは雲にも届くほどだ。


 まるで巨大な岩山が意思を持って歩き出したみたいだった。

 事実、その見た目は巨岩を荒く削ったような大ざっぱな人型で、顔には目も鼻も口もない。のっぺらぼうだ。

 当然、服とかも着ていない。苔むした岩肌に似た体には生き物っぽさが皆無で、巨人と呼ぶより、ゴーレムとでも呼んだ方がふさわしいかもしれない。


 まあ、ひとまず巨人と呼び続けることにするが――その巨人が向かう先に、街がある。

 キラキラと陽の光を照り返して輝く街並み。複数の街道が交わる交差点。ぐるりと城壁に囲まれた――あれは王都だ。天にも届くような巨人が、王都に近づいている。


 その光景を、私は見ていた。空から見下ろしていた。

 漆黒の竜の背に乗って。

 上空の風の冷たさを頬に感じながら、竜の翼が羽ばたく音を聞きながら、空を飛んでいたのだ。


 ――なんだ、夢か。


 色も、音も、匂いも。

 妙にリアルで夢とは思えないほどだが、間違いない。

 私はカイヤ殿下のお屋敷で、与えられた自分の部屋で寝ていたはずなのである。それが気づいたらこの状況。夢以外のいったい何だというのか。


「何を1人でぶつぶつ言っておる」

 声がした。私から見て前方、竜の頭に近い方から。

 ぱっと見はローブをまとった10代前半の少女、しかし中身は一癖も二癖もある成人男性。

 ファイ・ジーレンことアダムス・クォーツだった。

 魔女オタクの研究者で、実は悪名高き先代国王でもあるという、いろんな意味で理解しがたい人物がそこに居る。


「なんで、あなたが」

 私の夢に出てくるのか。別に親しい間柄でもないのに、ずうずうしい。

「我の知ったことか」

 そんなことよりあれを見ろ、と手にした杖で眼下の巨人を指す。

 ちょ、それ。「白い魔女の杖」じゃないか。殿下に取り上げられたはずなのに、なんで持ってるんだ。や、夢なんだから、細かいことをいちいち気にしても仕方ないんだけど。

「あれは魔法だな。実に興味深い」

 魔法って、あの巨人が?

「うむ。強大な魔力を感じる。おそらくは魔法であれを作り出し、操っている者がどこかに居るはずだ」

 おもしろそうに話してる場合じゃない。あのまま巨人が進んだら、王都が大変なことになってしまう。

「どうにかできないんですか?」

「あの巨人をか? ふむ、そうだな――」

 ファイは思案顔でしばし黙り込み、「人の身であらがうのはまず不可能だろうな。剣も矢も通りそうにない」

 そんな常識的な解答、この人に求めてない。


「魔法で作られたものなんですよね? だったら、魔法でどうにかするとか……」

 たとえば、ファイが持ってるその杖で。

「教えてやったであろうが。この杖は使えば使うほど腹が減る――つまり使用者の体力を魔力に変換するのだと。どれだけ腹いっぱいにしたところで、あのような化け物に勝てるわけもない」

 だああ、使えない。王国の秘宝、魔女の七つ道具なのに。

「秘宝か」

 ふと、ファイは何かに気づいたような顔をした。

「そういえば……。昔、アレクサンダー王が話しておったな。クォーツ家には代々、悪しき魔法を封じる宝が伝わっているのだと……」

 魔法を封じる宝? それって?

 思わず身を乗り出した時、

「エルさん、起きてください!」

 緊迫した誰かの声が、私の夢を唐突に終わらせた。

 薄暗い寝室。まだ太陽も昇りきっていない早朝。

 ベッドで寝ている私を、メイドのアイシェルが強張った顔で見下ろしていた。

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