表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十二章 新米メイドと魔女の杖
283/410

282 襲撃2

 いやはや、自分で言っていても何が何やらである。

 ごく普通の木の枝が、折れて、集まって、人型になって襲ってきました、って。

 あまりに意味不明ってなものだ。


 とはいえ、それが現実に起きている以上、何らかの対処をしなければならない。

 黙って襲われるわけにはいかないからね。

「姫様――」

 最重要なのはもちろん、クリア姫を守ることだ。

 しかし私が姫君の手を引いて逃げるより早く、襲ってきた人型は動きを止めていた。

 駆けつけたジェーン・レイテッドの剣に一刀両断され、さらに念入りにブーツのかかとで踏みにじられて。

 元が木の枝だから、グロい光景では全くない。ただ。

 あんな怪物( としか呼べないよね?)相手にひるむこともなく、いきなり剣を振り下ろすってどうなの。戸惑いとか、ないんだろうか?


「ジェーンさん!」

 思わず名前を呼ぶも、彼女は私の方を振り向くことすらなく。

 再び、横薙ぎに剣を振った。死角から彼女に近づこうとしていた、別の人型の怪物に向かって。

 そちらは木の枝ではなく、土くれのようなものでできていた。子供が泥遊びで作った人形みたいにいびつな形をしている。


「あれはいったい――」

 つぶやくクリア姫。私たちはみんな同じ気持ちだった。あれは何だ。何が起きている?

 困惑しているうちに、他の近衛騎士たちもお屋敷の周囲に集まってきた。

 ……正確には、逃げてきたのかもしれない。

 彼らの後を追うように現れる、正体不明の怪物たち。

 木の枝や土くれを固めたもの、森の下草を集めて作ったようなもの……。

 その数はおそらく、10や20ではきかない。わらわらと。後から後からわいてくる。


「おい、化け猫! 見てねえで手を貸せ!」

 クロムが叫ぶ。彼もまた剣を抜いて戦っていたが、その顔にはジェーンと違い、混乱と恐怖がくっきりとにじんでいた。

「あれは何だ! どっから出てきやがった!?」

 叫び返すダンビュラ。

「知るか! いきなり現れたんだよ!」

 クロムの言葉を肯定するかのように。

 庭の隅っこに積み上げられている枯れ草の山――あれって、何日か前に私がお庭の草むしりをした後で積んでおいたやつ――突如、命を得たかのように動き出し、騎士たちに襲いかかった。

「せいっ!」

 ジェーンが剣を振り下ろす。

 べしゃっと人型がつぶれた。斬れたのではない。ジェーンの剣の勢いに頭( に当たる部分)をつぶされて、もぞもぞと地面の上でうごめくだけになる。

 くどいようだが、グロい光景ではない。

 見た目は枯れ草の固まりだからね。お屋敷が襲われているという状況でさえなければ、ユーモラスな眺めと言ってもいいくらいなんだけど。


「むう」

 ジェーンが眉をひそめた。「剣ではらちがあきませんね」

 相手は人ではない。木とか土とか草だ。彼女が手にした剣は土くれや草の汁で汚れ、本来持っているはずの銀の輝きを失っている。

「どこかに鈍器のたぐいはありませんか? こんぼうや金棒、斧槍やモーニングスターなどは」

 そんな恐ろしいものがお屋敷に常備されているわけがあるか。

 ジェーンの目線がこっちを向いていたので、私は「ありませんよね?」とお屋敷の人たちに尋ねた。

 オジロもうなずいて、

「あるのは園芸用の農具くらいですね」

 地面を耕すクワやシャベル、草刈り用の鎌ならあるとのこと。

 ジェーンは思案げに眉を寄せて、

「なるほど、いいかもしれません」

「いいんですか!?」

 突っ込む私に構わず、

「場所は? どこにあるのですか?」

と聞いてくる。

 裏の物置に、とオジロが答えれば、「取りに行きます。ここは任せました」と言い置いて姿を消した。

「勝手に行くんじゃねえ!」

 クロムが絶叫する。「主力のてめえが抜けたら、ここの守りが……!」

 彼の言う通りだった。ジェーンが居なくなったことで、騎士たちは明らかに押され始めている。


「加勢した方がいいな」

とつぶやくダンビュラ。

 サーヴァインもうなずいて剣を抜く。さらにアイシェルまでも、メイド服の中から短剣を抜き放ち、

「ここは私たちが出ます。ダンビュラ殿はどうか、姫君のおそばに」

 窓から外に出ようとする2人を、しかしダンビュラが止めた。

「逆の方がいい。俺が出るから、あんたらは嬢ちゃんを守ってくれ」

「ダンビュラさん?」

 彼がクリア姫のおそばを離れようとするなんて珍しい。そう思って見れば、彼もまた私の方を見て、

「なあ、あんた。さっきのルチルみたいなフローラみたいな奴が持ってた杖のことなんだが」

 あれが本物の魔女の杖だと思うかと、そう問われて首をひねる。

「わかりませんけど……、何かおかしな力は使ってましたよ」

 私を金縛りにしたり、オジロを見えない力で押し飛ばしたり。あれが魔法だと言われれば納得できなくもない。

「だとしたら、これもあの野郎の仕業か?」

 これ、とはすなわち、お屋敷を襲う人型の群れのことか。


 まあ、ね。タイミング的に、怪しいのは確かだよね。

 目的はわからないけど、ファイ・ジーレンがあの杖の力で、この事態を引き起こしている可能性は高いと思う。


「ってことは、あいつを見つけ出して締め上げない限り、どうにもならないってことだろう?」

 だから自分が行く。獣並みに鼻がきく彼なら、匂いでファイ・ジーレンを探せるから。

「ダン……」

 クリア姫が心配そうに口をひらく。止めようとしたのか、何か他のことを言おうとしたのか。

 が、それ以上、話をしている暇はなく。

 派手な音を立てて、窓ガラスが割れた。あの人型の怪物が1体、騎士たちの隙をついて窓から侵入してきたのである。

「姫を書庫へ!」

 オジロが叫ぶ。ダンビュラが前に出る。私はクリア姫をかばいながら、大わらわになって書庫の扉に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ