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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十二章 新米メイドと魔女の杖
282/410

281 襲撃1

 気がつけば、私は1人、隠し部屋の床にへたり込んでいた。

「エルさん、ご無事ですか!?」

 オジロが駆け寄ってくる。

「はい……」

 無事である。ショックで頭がぼうっとしているが、ひとまず無事ではある。

「オジロさんは、だいじょうぶですか……」

 さっき、ファイ・ジーレンにおかしな力でこの部屋から追い出されて――確か、かなり派手な物音がしていたはずだ。ケガはないのだろうか。

「私は問題ありません。あなたは」

 オジロは私を気遣うように見て、「ひどい顔色だ。少し休んだ方がよさそうですね」と言った。

 とっさに、自分の顔に触れてみる。

 顔だけじゃない。さっきファイ・ジーレンに触られた髪にも。

 何だろう、この感じ。形のない不快感が、べったりと張りついてでもいるみたい。

 ああ、お風呂に入りたい。できれば今すぐに。


「さあ、行きましょう」

 オジロに手を引かれるようにして、隠し部屋を出る。

 階段を下りると、そこは玄関ホールだった。ドアが開きっぱなしで、外が見えている。

 森の中をのびる道と、風に揺れる緑の木々。そんな平和な眺めの中に、ふいに殺気立つダンビュラの姿が現れた。

「ダンビュラさん!」

 あいつはどうしたのかと視線で問えば、彼は舌打ちしながら「森に逃げやがった」と答えた。


 彼はクリア姫の護衛である。ファイ・ジーレンを追い、その挙げ句にまかれ、戻ってきたあいつが姫君に危害を加える、なんてことにならないように、途中で追跡を切り上げて帰ってきたのだという。

「なんだったんだ、あれは。わけがわからねえ……」

 ダンビュラの声には怒りと困惑がにじんでいる。

「フローラだった。……だが、匂いはルチルだ。背丈も声も。なのに、顔だけフローラとか、わけがわからねえだろ」

「…………」

 私は何も言えなかった。確かにわけがわからない、ということ以外わからなかったからだ。


「とにかく、今は嬢ちゃんだ。行くぞ。あんたらも来い」

 ダンビュラに先導されて、また移動。

 クリア姫は書庫に居た。お屋敷に何者かが侵入したことを察知したダンビュラが、そこに隠れているようにと言ったらしい。

 アイシェルとニルスの姉弟も一緒だった。不安そうに顔を曇らせて、「今度は何があったんですか?」と聞いてくる。

 私たちは代わる代わる状況を説明した。


 お屋敷の2階に、隠し部屋があって。

 そこにお城から盗まれた杖らしきものを持った、魔女のような格好の人物が隠れていて。

 自分はファイ・ジーレンだと――30年前に行方不明になったはずの研究者を名乗り、しかしその人物の顔はフローラ姫にそっくりで、声はルチル姫のものであったと。

 説明している私でも「はああ? 何だそりゃ」という感じなのだ。当然、話を聞いている側は困惑するばかりである。


「それより、これからどうする」

 ダンビュラが口を挟む。彼はまだ警戒を解いていない。見れば、背中の毛が逆立ったままだ。

「どうすると言われましても、ここで殿下のお帰りを待つ以外には……」

 強い声でオジロの言葉を遮り、

「いや、だめだ。あいつがまた来たらヤバイ」

 先程、騎士たちが押しかけてきた時にも悠然としていたダンビュラが、今は焦っている。つまりファイ・ジーレンは騎士団よりも危険だってこと?


「どうすればいい?」

 クリア姫が緊張した面持ちで自分の護衛に尋ねる。

 ダンビュラは少し考えてから、「この屋敷を出て、もっと安全な場所に全員で避難する」ことを提案した。

 戦える人間が大勢居て、守ってもらえる場所。例えば、王城とか。

「しかし、移動中の安全のこともあります。殿下の許可なく姫君にお移りいただくわけにも……」

 オジロが難色を示した時。

 どこかのドアがバーンと勢いよく開く音がした。

「大変です! 姫! クリスタリア姫はどちらにいらっしゃいますか!」

 この声はサーヴァインだ。お屋敷を守る近衛騎士たちと共に、不審者が居ないか、周囲の森を探していたはずの――。

「少々、お待ちを」

 オジロが書庫を出て、声のする方に駆けていく。そしてすぐに戻ってきた。「一大事です!」と血相を変えて。

「何だ、何があった!」

 怒鳴り返すダンビュラに、「あれを、あれを見てください!」と窓の外を指差す。

 私たちは全員書庫から飛び出し、1番近くにある窓に駆け寄った。


 少しずつ日暮れが近づき、西日が差し込み始めた森の中。

 最初は何が起きているのか、よくわからなかった。


 パキ、ポキ、ベキ。


 耳に届く、奇妙な音。

 お屋敷を囲む木々が――その枝が折れていく。

 ポキポキと。

 まるで見えない巨人の腕にへし折られてでもいるかのように、簡単に木の幹から離れて、落下していく。

 やがてこんもりと地面に山を作るほどの量になった木の枝は、次の瞬間、集まって人型を作り――。


 ギイイイイイイッ!!


 突如、奇声を発して、お屋敷に襲いかかってきた。

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