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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十一章 新米メイドと水晶の姫
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267 青い押し花

 言われた通り自室に下がったものの、とてもじゃないが眠る気にはなれず。

 メイド服のまま寝台に横たわり、ぼんやりと天井を見つめながら物思いに耽る。


 ついにクリア姫の「事情」を聞き出すことができた。しかし。

 肝心の解決策は何も浮かばなかった。


 ダンビュラはいつか言っていた。「俺にはどうしようもねえよ。嬢ちゃんが自分で解決するしかない」と。

 その言葉の意味が、ようやく理解できた。

 確かにこれは、他人がどうにかしてあげられるようなことじゃない。私も彼のように余計な口出しをせず、クリア姫を信じて見守るべきなのか。


 ……でもなあ。

 恋愛って、そう簡単に割り切れるものじゃないしな。

 道ならぬ恋なら尚のこと。自分で自分の想いがどうにもならなくなる。


 や、別に経験豊富なわけではないけどね? 物語の中では、大抵そうだし。


 私はごろりと寝返りをうった。

 枕元には、黒い革表紙の本が1冊。

 私が本好きだと知ったニルスが、「お暇な時に読んでください」と貸してくれたものだ。

 タイトルは『解呪不可能』。

 オカルト本ではない。運命の恋を解けない呪いにたとえた、王都で人気のロマンス小説である。


 読書する気分では全くなかったが、気分転換にはなるかもしれない。

 私は寝台の上に身を起こし、黒革の表紙をめくった。

 敵対する貴族家に生まれ、しかも互いに婚約者の居る身で、実は異母姉弟かもしれないという疑惑まである。

 そんな障害てんこもりの恋に落ちた男女の愛と葛藤が、数百ページに渡って綴られている。


 ヒロインは既に少女を卒業した、成人間近のご令嬢だ。

 しかしお話を読んでいるうちに、なぜか私の目にはヒロインの姿がクリア姫と重なって見えてきた。


「どうして、好きになる人を選ぶことができないのかしら。けして許されない恋だとわかっていながら、それでも惹かれてしまうのはなぜ?」

と深いため息をつくクリア姫。


「あの人への愛を知ってから、私の世界は全て塗り替えられてしまった。もう何も知らなかった頃には戻れない。いばらの道でも、前に進むしかないのだわ」

と覚悟を決めるクリア姫。


 そして愛する人と引き裂かれそうになり、

「この想いを捨てるくらいなら、いっそ――」

とナイフを振りかざすクリア姫の姿に息を飲み、悲しい結末に涙が出そうになり。

 直後、いやいやと自分に突っ込みを入れる。


 だめだ。これじゃ気分転換にも何にもなりゃしない。

 私はぱたりと本を閉じ、立ち上がった。この本、どこか視界に入らない場所に片付けてしまおう。

 そう思って机の引き出しを開けて――そこにしおりが1枚、入っていることに気づく。

 青い押し花の栞だ。ちなみに自作である。

 元は王宮に咲いていた花をカルサが私にくれた。それを枯れる前に押し花にしたものである。


「…………」

 私は栞を手に取った。

 カルサが無事に見つかったら、私にも知らせてくれるとユナは言った。

 あれからもう何日もたっている。しかしいまだに彼女からの連絡はない。


 代わりに、カイト・リウスの遣いを名乗る警官が、カイヤ殿下のもとを訪れた。

 つい昨日のことである。私にも関係がある話だからと、同席を許されたのだが。

 彼が持ってきたのは情報だった。巨人殺しを騙り、偽の予告状を出した犯人がわかったという。

 その意外過ぎる犯人の名前に、私は仰天し、この事実をクリア姫に話すのか、それとも隠しておくのかと殿下に問うた。

 殿下の答えは「今しばらくは伏せておく」というものだった。


「犯人」はまだ捕まっていない。偽の予告状を出した動機もわからない。そんな状況でクリア姫に告げても、いたずらにショックを与えるだけだから、と。


「それにしても、さすがは警官隊と言うべきか。よく犯人を特定できたものだ」


 感心する殿下に、遣いの男は曖昧な笑みを浮かべただけで、情報元については明かさなかった。

 カルサのことも聞いてみたのだが、「本官は存じません」というそっけない答えが返ってきただけ。必要なことのみを短く告げて、男は去っていった。正味30分にも満たない滞在時間だった。


「あの男、ただの警官ではないかもしれんな」

 男が去った後で、殿下がぽつりと言った。

 表向きは警官でも、裏の顔を持っているかもしれない。つまりカイト・リウスの密偵かもしれないとのこと。


「そんな人も居るんですか……」

 私のつぶやきに、殿下はなぜか不思議そうな顔をした。

 まあ、警官の仕事って、身元調査とか情報収集とか、密偵の仕事とかぶる所もあるしね。今更驚くほどのことじゃないか。


 1人で納得していると、「そうか、知らなかったのか」と殿下が言った。

「親しくしていたようだからな。てっきり聞いているのかと思っていた」

「はい? 何のことですか」

 意味がわからず問い返せば、殿下は特にタメも作らず、わりと重大な事実を告げてきた。


「カルサもまた、ジャスパー・リウスの――」


 次回は三人称・他者視点の間章になります。


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