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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十章 新米メイド、お屋敷で働く
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245 再調査

「……なるほど。これは確かに新事実ですね」

 封書の中身を読み終えたセドニスがつぶやく。

「あなたの父上が姿を消す直前、最後に言葉を交わしたとおぼしき人物が今現在も王都に居る、と」

 そう。それが封書に書かれていた新事実だ。


「その人物はクンツァイトが運営する孤児院の職員で、既に20年以上、身寄りをなくした子どもたちのために働いている」


 表向きは心正しい聖職者であるクンツァイトは、御用商人であるアベント商会と共に、さまざまな慈善事業を行っている。孤児院の運営もそのひとつだ。


「が、それは表の顔であり、正体はシム・ジェイドと同じ、クンツァイトの密偵である可能性が高い」


 その人はうちの父と同年代で、いわゆる幼なじみ的な関係だったらしい。

 身寄りはなく天涯孤独、成長して孤児院で働く以前は自分も孤児だったようで、その境遇も父とよく似ている。


「孤児の世話をしているのも、次代の密偵候補を物色している可能性がある。7年前に分家筋との内部抗争でつぶれた孤児院と同様、人身売買や暗殺者の養成にまで手を染めているかもしれないと」


 セドニスはもう1度なるほど、と言って書面から目を上げた。


「あなたの父上の交友関係については、こちらでも調べたつもりでしたが――どうやら見落としがあったようですね。申し訳ありませんでした」

「いえ……」

 別に謝ってもらわなくてもいい。「魔女の憩い亭」の調査員だって、短い期間に色々調べてくれたし。

 それに、その人と父は、親しく交流していたというわけではないみたいなんだよね。ただ事件の直後に顔を合わせていた、という目撃情報があるだけなのだ。

 宰相閣下の調査員がどうやってそれを突き止めたのか、その手段や方法までは書かれていない。

 また、1番肝心なこと――2人が7年前に会って何を話したのか、という点についても書かれていない。

 そこを調べる前に、調査が打ちきられてしまったのだろうか。宰相閣下にとって、必要な情報ではなかったから? ……まさか、私への意地悪で調べなかったとかではないよね?


「この情報が確かなら、その人物から直接、話を聞いてみたいところですね。さらに新たな事実が出てくる可能性もある」


 そうなのである。是非とも話を聞いてみたい。

 あの事件の後に、父と顔を合わせていたというのが事実なら――ただ、問題は。その人がクンツァイトの密偵かもしれない、という点である。

 ついこの前、私を誘拐した家に雇われている人間かもしれないのだ。当然、のこのこ会いに行くわけにはいかない。


「承知致しました。まずは当店の方でその人物と接触し、事実関係を確認しましょう」

 セドニスはこういう時、話が早い。こちらの要望を言わずとも察してくれる。

「お願いします」

と私は頭を下げた。「依頼料はちゃんとお支払いしますからね」と付け加えるのも忘れずに。

「……その件に関しては、またおいおい話し合っていくということで」

 話し合うことなどない。人に仕事を頼んでその報酬を払わないだなんて、そんな人の道に外れたことをするわけにはいかないから。


「それはともかくとして、今現在のクンツァイトがどうなっているか、についてですが」

 内偵中の調査員の報告によれば、大層混乱しているようだ、とセドニスは言った。

 元・最高司祭が誘拐事件を起こして捕まったのだ。混乱するのも当然である。

「この件が明るみに出れば、王国にとっても立派な醜聞です。彼の罪がおおやけになるかどうかは微妙なところでしょうね」

 とはいえ、仮に大多数の国民には事実を伏せておくことになったとしても、無罪放免になるわけではない。


「ついに最高司祭の地位を失う、とか?」

「ええ。それは当然ですね」


 クンツァイトは王国の祭事を取り仕切る家でもある。

 カイヤ殿下の「儀式」も、本来はクンツァイトの当主が執り行うはずだった。


「そちらは、代理を立てることが既に決まったそうです。代々聖職者を務めてきた貴族家の人間で――宰相閣下に近しい派閥の司祭だとか」


 おそらくはその司祭こそが次の最高司祭になるだろうと言われて、私は「ははあ……」と感心した。

 さすがは宰相閣下、そつがない。

 敵の失態を逃さず、味方の勢力をのばす。クンツァイトに近いギベオンやラズワルドは、今回の件で苦しい立場に追い込まれることになるわけだ。


「そんな状況ですから、クンツァイトが行っていた社会奉仕活動や慈善事業も、今後は行われなくなっていく可能性が高いでしょう」

「え……」

 それって、つまり。

 孤児院とかも全部閉鎖されて、孤児たちが路頭に迷うことになってしまうかもしれないってこと?

「誰かが引き継ぐ、って話にはならないんですか?」

 たとえば、次の最高司祭の人とか。

「それが理想ではあるでしょうが、現実には難しいかと」

 クンツァイトと新たな最高司祭の仲が良好であればいざ知らず、実際はそうじゃない。

 クンツァイトは騎士団長派、新たな最高司祭は宰相派。

 スムーズに引き継ぎが行われるとは思えない、とセドニスは断言した。


 と、そこまで聞いたところで私の頭に浮かんだのは、なぜか王都一の悪徳金貸しの顔だった。

 そういや、アベント商会から慈善事業を受け継ぐ、みたいな話してたな。あれって本気だったのかなあ?

 正直、あの人が孤児たちを助けてくれると言っても、あんまり信用はできない気がするけど……。

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