表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第一章 主人公、求職中
24/410

23 魔女の憩い亭にて2

 厨房に移動した私を待っていたのは、「店員の賄い」とは信じられないような豪勢な食事だった。

 たっぷりの肉と野菜を煮込んだシチュー、ハーブの香る白身魚のソテー、フライドチキンにポテト、とろっとろのチーズ入りオムレツ、ふんわり白パン、ベーグルにジャム、エトセトラエトセトラ。


「魔女の憩い亭」の料理人は、親切そうな初老の夫婦と、その娘だという30代くらいの女性が3人。全員そろってふくよかで健康的な体型をしており、おそろいの白いコック服を身につけている。

 彼らは面倒見のいい人たちで、突然やってきた私に嫌な顔ひとつせず、せっせとご飯を食べさせてくれた。

 さらには、食後のお茶とクッキーまで振る舞ってくれる。


 渡る世間に鬼はない、とはこのことか――。

 お腹がふくれて満足し、ついでに正気を取り戻した私は、食事のお礼として、自主的にお皿洗いを手伝うことにした。食事時で忙しそうだったし、お皿洗いのスキルは実家で身につけている。

 そうこうしているうちに1時間ほど過ぎたが、カイヤ殿下は戻ってこない。


 料理人一家に礼を言われ、こちらもお礼を言って、店内に戻る。

 セドニスにもお礼を言おうと思ったのだが、姿が見えない。職安のカウンターは既に明かりも落とされ、ひとけがなくなっている。

 店内の客は、食事率が下がり、飲酒率が上がってきているようだ。

 誰も居ない待合席に腰掛け、さらに待つこと30分。カイヤ殿下は、まだ姿を現さない。


 カタン。

 

 小さな物音に顔を上げる。

 明かりの落ちた職安のカウンター内に、人影が見える。

 セドニスだ。何やら書類の束のようなものを片付けている。

 私は席を立ち、彼に近づいた。

「あの、セドニスさん。お夕食、ごちそうさまでした」

「別に礼の必要はありませんよ」

 セドニスは手元の書類から顔を上げずに答えた。「あのまま放置していたら、営業に差し支えそうでしたから」

 口が悪いのか、正直なのか。本当は親切な人なのか、本気で迷惑がっているのか。どちらとも判断がつきかねて、私は口を閉じた。


「殿下はまだお見えにならないようですね」

「はい……。1時間くらいで戻るって言ってたんですけど」

 さすがに、ちょっと心配になってきた。

 もし、このまま殿下が来てくれなかったらどうしよう。明日の予定どころか、今夜泊まる場所すら決まってないのに。


「律儀な方ですから、約束を忘れることはないでしょう」とセドニスは言った。「多忙な方ですから、約束の時間に遅れることくらいは珍しくもないでしょうが」

「そんなに忙しい人なんですか?」

 そもそも、王族とか貴族って、普段は何してるんだろ。

 仕事とか、するものなんだろうか?

 優雅にお茶したり、狩りをしたり、舞踏会をひらいたり……、そんなイメージしか持ってなかった。


 セドニスはこちらの問いには答えず、

「このまま殿下がお見えにならなかったら、どうしますか」と聞いてきた。「物置のような部屋でもよければ、タダでお泊めしますよ」

「……いいんですか?」

「もはや、乗りかかった船です」

 セドニスは声に諦観をにじませつつ、返答した。

 やっぱり、見た目によらず親切な人なのかな、とそう思った時。

「待たせたな」と背後で声がした。

 振り返ると、暑苦しい外套をまとったカイヤ殿下が、息を弾ませて立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ