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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第一章 主人公、求職中
23/410

22 魔女の憩い亭にて1

 数日ぶりに訪れる「魔女の憩い亭」は、以前来た時と変わらず都会的でにぎやかだった。

 ちょうど夕食の時間だからだろう。ほとんどのテーブルが埋まっている。仲の良さそうな家族連れや、1日の仕事を終えた労働者たち。誰もが、つかの間の憩いを楽しんでいる。

 職安のカウンターはまだひらいていたが、順番待ちの席はほとんど空になっていた。

「エル・ジェイドさん」

 中で書き物をしていたセドニスがこちらに気づき、「仕事をお探しですか?」と声をかけてきた。

「本日分の整理券は既に掃けておりますので、ご希望の場合は明日の朝一になりますが……」

 私は彼の差し出す整理券を受け取った。

 受け取ってから、事情を説明する。「実は……前にここで聞いた仕事のことで、カイヤ殿下と待ち合わせていて……」

「そうでしたか。では、おかけになってお待ちください」と言われて、私はがらがらの待合席に向かった。

 にぎやかな店内で、ここだけが静かだ。

 疲れもあってか、頭がぼうっとしてくる。思えば、ベリーハードな数日間だった……。


「失礼」

 ハッと顔を上げると、前にも見かけた覚えのある年配のウエイターが、銀のトレイにグラスを乗せて立っていた。

 グラスの中には、紅茶色の液体が揺れている。

「よろしければどうぞ。疲れがとれますよ」

「これは……」

「ノン・アルコールのホットカクテルです。当店からのサービスですよ」

「……いいんですか?」

 ウエイターはにっこりうなずいた。

「ありがとうございます」

 私はグラスを受け取った。ごゆっくりどうぞと頭を下げて、ウエイターは立ち去っていく。

 紅茶色の液体は、口に含むとほのかにオレンジの香りがした。

 優しい甘さに、疲れが癒やされていく――。


 ぐう、と私のお腹が鳴った。

 おいしいカクテルで温められたことで、胃袋が目覚めてしまったようだ。

 余計な出費は痛いが、何か料理を頼むべきか。

 カイヤ殿下が来たらまた奢ってくれるかもしれないけど、それをアテにして待っているというのは、あまりにもいじましい。

 所持金とメニュー表を確認。……あきらめよう、と小さく首を振る。


「暇そうですね」

 通りすがりに声をかけてきたのはセドニスだった。大きな木製のお盆を持っている。

 お盆の上には、肉、魚、野菜、煮物に焼き物、スープにサラダにパン……と豪華な料理がてんこもりだ。フルーツやケーキまで乗っかっている。思わず凝視していると、

「これはオーナーのお食事です。今からお届けするところですよ」

 ああ、そうだよね。

 この人が私に奢ってくれるわけない。そんな義理ないし。

「……そう恨めしげな目つきをされても困るのですが」

 そんな目した? そっちの気のせいじゃない?

 ああ、でも。本当にお腹すいた。すいたと思ったら、もう食べ物のことしか考えられなくなってきた……。


 ぐるぐると胃袋を鳴らしつつ、じっと無言で見つめる若い娘。

 ちょっとしたホラーのような状況に、セドニスは根負けしたらしい。軽く天井を仰いで、「店員の賄いでよければ、召し上がりますか」と聞いてきた。

 私は自分の耳が信じられず、「そんな……いいんですか?」と聞き返す。

「早く来てください。今更遠慮されても面倒なので」

 投げやりかつ不本意そうに言って、セドニスは私を奥の厨房まで案内してくれた。

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