表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第十章 新米メイド、お屋敷で働く
228/410

227 お屋敷の住人たち1

 1人で寝ていたら、またアイシェルが姿を見せた。

 大きな袋を抱えているので何かと思えば、そこには着替えや細々とした身の回りの物が入っていた。

 今日の昼間、わざわざ買いに行ってくれたのだという。着の身着のまま焼け出された私には、この上なくありがたい品々だった。


「他にも必要な物があったら、遠慮なく言ってくださいね」

 アイシェルはあまり長居せずに出て行った。

 やはり私の体調を気遣ってくれているのだろう。クリア姫にも心配されたし、今夜はゆっくり休むことにしよう。

 そう決めて、また横になったはいいのだが。


 まるで眠気が訪れなかった。

 考えてみれば、当たり前の話だ。真夜中に執務室で倒れ、目覚めたのが夕方。少なく見積もっても、14~5時間は寝ていたことになるのだから。

 しかし、意識のある状態で横になっていると、あの火事のこと――ごうごうと燃えさかる炎や、煙に囲まれた時の恐怖が取りとめなく頭を巡って、少々つらかった。


 何かで気を紛らわせたい。本を読むとか、人としゃべるとか。

 置き時計の針は11時を差している。この時間なら、まだ起きている人が居るかもしれないが――。

 眠れないので話し相手になってください、なんて言えるほど、気安い相手は思い浮かばなかった。

 ここには本もない。わずかな私物は、あの火事の中できっと失われてしまったはずだ。

 ものすごく大事な物は持っていなかったけど……ああ、でも。

 まだ王都に来たばかりの頃、クロサイト様にサインしてもらった本。もとは警官隊のカメオが差し入れてくれた、あの本も燃えてしまったんだな……。


 カチコチ、カチコチ。


 時計の音が、やけに耳につく。

 喉が渇いていた。どうしてこんなに、と思うくらい水がほしい。

 喉の奥がひりひりして、その感覚がまた、あの火事の記憶を呼び起こす。

 煙に巻かれて、息が苦しくて、喉が痛くて――。


 私はむくりと起き上がり、部屋の中を見回した。

 ――暗い。

 光源は、サイドテーブルに置かれた淡いランプの明かりのみ。

 窓際に、花瓶がひとつ。白いアイリスの花が一輪、活けてある。

 その花瓶の水にさえ渇きを刺激されて、これはまずいと私は思った。

 花瓶の水を一気飲み、なんて非常識な真似をする前に、台所に行って、水だけもらってこよう。

 勝手知ったる家ではないが、台所なんて、だいたい決まった場所にあるものだ。


 ベッドから下り、何か羽織るものはないかと探す。さすがにパジャマのまま、よそさまのお宅を歩き回れない。

 さっき、アイシェルが持ってきてくれた着替え。備え付けのクローゼットに全部入れていってくれた。

 開けてみると、ちょうど目の前にぶら下がっているハンガーに、白いタオル地のガウンが1着かけてあった。その下に、花柄のスリッパが一足。

 いいものが見つかった。

 パジャマの上にガウンを羽織り、スリッパをつっかける。

 部屋を出る前、一応、鏡の前で顔のチェックもした。

 寝起きでちょっと疲れた顔だが、許容範囲だと思っておく。ばさついた髪は軽く梳いてから、アイシェルの持ってきてくれた髪留めでまとめた。


 ――よし、行こう。


 ドアの前に立った時、今更のようにどきどきした。

 別に、台所に水を飲みに行くだけ。とはいえ、知らないお屋敷の中を歩き回るのだ。ちょっといけないことでもしているような、ささやかな冒険気分だった。

 音をたてないよう、細心の注意を払い、私はドアを開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ