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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第八章 新米メイドと不死身の暗殺者
202/410

201 長い夜はまだ終わらない

 それからさほどたたないうちに、クロサイト様と近衛騎士たちが馬に乗って到着した。

 ただちにクンツァイトの元当主とその部下らを拘束。私を誘拐した馬車や例の木箱など、事件の証拠を押収する。


 後で知ったことだが、あの広いお屋敷にはほとんど人が居なかったらしい。

 クンツァイトの元当主は、目的のために必要な最低限の人員しか置いていなかったのだ。

 もとから居た使用人たちは、事件の数日前に暇を出されていた。犯罪行為を隠蔽いんぺいするためなのか、単にお金に困ってリストラしたのか、理由はわからない。


 騎士たちがお屋敷を捜索している間、私は自分がさらわれた時の状況をカイヤ殿下にくわしく説明した。

 オーソクレーズ家の護衛がそばに居たはずなのに、あっさり連れ去られたこと。それに、ティファニー嬢ことアルフレッド・ギベオンが関与した可能性が高いことも。


「アルフがそんな真似を?」

 殿下はひどく意外そうにしていた。「それは妙だな。ケインならいざ知らず……」

 そうですね。ケイン・レイテッドなら別に何をしても驚かない……って、今はあの男の話はどうでもいい。

「ギベオンとクンツァイトは親戚同士なんですよね?」

 あの人のお母上がクンツァイトの出身だと聞いた。それにギベオンだって、殿下の味方ではない。妹姫のメイド誘拐に関与したとして、そこまで意外?


「確かにギベオンは味方ではないが、アルフは実家とは距離を置いていたはずだ」

 家族との折り合いが悪く、もとより家を継ぐ必要のない次男であるために、成人後すぐに家を出ていたらしい。

「もっともそれは、俺が知っているアルフの話だ」

 殿下とあの人が親しかったのは子供の頃で、王都に凱旋帰国した後は表面的な交流しかしていないのだという。


「今回の件に関わったのが事実なら、当然くわしく話を聞かせてもらうことになるな。場合によっては、法的措置も検討する」

「…………」

「エル・ジェイド? どうかしたか?」


 や、別に。

 殿下と幼なじみが争うことになったら、とか。

 あの人はマーガレット嬢の従兄でもあるわけだし、クリア姫が心を痛めやしないだろうか、とか。

 そういうことが少し気になっただけだ。誘拐は犯罪だし、十分過ぎるほど身の危険を感じた。殿下の言う通り、きちんと法的措置をとるべきだと思う。


「気になるのは、アルフの目的か。なぜ、誘拐行為に荷担などしたのか……。クンツァイトの隠居は何か言っていたか?」


 言っていた。それはもう、こっちが聞かないことまで色々しゃべってくれた。

 私の父がクンツァイトの密偵として働くことになった理由や、7年前の事件が起きた経緯。そして、父と「巨人殺し」のつながり。

 あの老人は、落ち目のラズワルドを見限り、ハウライト派への寝返りを考えていた。

 そのために取引の材料が必要だった。だから「巨人殺し」と関係のある私を利用しようとして、誘拐行為にまで及んだのだ。


「…………」

 殿下は黙って話を聞いていた。

 一通りの説明が終わっても口をひらかない。伝説の暗殺者と私の父が知り合いだったと聞いても、驚いた様子を見せないことに違和感を覚えていると。

「ああ、すまん。少し考えていた」

 何を? とは聞いても教えてくれず。

 とにかく「巨人殺し」と会って話がしたいと言い出した。

「それは、私も……」

 もう少しくわしく聞きたいと思っていた。父との関係も、7年前の事件についても。

 しかしその「巨人殺し」は、アイオラが竜でどこかに連れて行ってしまったが……。

「問題ない。アイオラの行き先はわかっている」

 そんなわけで、私とカイヤ殿下は「巨人殺し」の後を追うことになった。


 お屋敷の捜索はクロサイト様に任せて、近衛騎士を3人、護衛に連れて出発する。

 外は真っ暗だった。今夜は月も星も見えない。完全な闇夜だ。

 危険なので馬を走らせるわけにもいかず、私たちはゆっくりと並足で進んだ。


「その行き先って遠いんですか?」

 既に真夜中も近いはずである。気が張っているせいか、疲労も眠気も感じてはいなかったけど。このスピードだと、目的地に着く頃には日付が変わっているかもしれない。

「遠くはない。30分もあれば着けるだろう」

 殿下の声は、私の耳元で聞こえた。同じ馬に乗っているせいで、やたら距離が近い。

 なんでそんな体勢になっているのかといったら、馬の数が足りなかったからだ。

 近衛騎士たちは殿下の乗る馬は連れてきていたが、私の分の馬までは用意していなかったのである。


「アイオラは王都の郊外に倉庫を持っている。竜で運んできた交易品を一時保管するための場所だ」


 竜で移動するのは便利だが、誰かに見られたら騒ぎになってしまう。

 なので、人目につかない郊外の森に倉庫を構え、竜の発着場として使っているんだそうだ。


「今回は時間がなかったので、『魔女の憩い亭』に直接、竜を呼んだが……」


 待て。今、何て言った?

「魔女の憩い亭」があるのは王都のど真ん中、大勢の人が行き交う一等地である。


「ご冗談ですよね?」

 殿下は冗談ではないと首を振る。

「アイオラは『竜を呼ぶ笛』を持っている。だからその気になればいつでもどこでも竜を呼べる」

 どこでも呼べるからって、どこにでも呼んでいいわけじゃない。

「めちゃくちゃ騒ぎになったでしょう?」

「…………だいじょうぶだ」

 ぜっっったいに、嘘だ。

「既に日が落ちて、薄暗かったからな。目撃者の数はそう多くないだろう」

 多くないってことは、居ないわけじゃないってことだよね。


 まあ、仮にけっこうな数の目撃者が居たとしても、その何割が自分の見たものを信じるか。……多分、信じない人が大半だとは思う。

 それでも変な噂はたつだろうなあ……。オーナーさんが起こした事件のこともあるし、「魔女の憩い亭」の今後が心配だ……。

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