19 後始末2
事件の話をするとはいっても、今回の件では、私は純粋に巻き込まれただけの被害者であるからして、話せることは少ない。
しゃべっていたのは、主にアゲートだった。
普通、こういう事情聴取っていうのは1人ずつ行うものらしいが、カイヤ殿下への説明も兼ねて、2人まとめてすることになったのだ。
あの中年男は、最初カルサが推測した通り、王都の貴族なんだそうだ。
例の、私に盗っ人の濡れ衣を着せてくれた「セイレス家」と同様、もとはけっこう由緒正しい家柄で、今現在は傾いている。
土地を売ったり、新たに商売を始めてみたりしたものの、うまくいかず。アゲートの店から何度も金を借り、その借金で首が回らず。ついには、例の「家宝」を手放すに到ったと。
その決断をしたのは、あの中年男ではなく奥さんの方なんだって。
「大変聡明なご夫人ですよ。いずれ家を建て直すことでしょう。幸いなことに、現実の見えていない夫は、しばらくシャバに出てこられない」
アゲートは立派な口ひげをいじりながら、妙に楽しそうに話を続ける。
ちなみにあの「家宝」、そこそこ高い物らしい。宝石としての価値ではなく、細工した職人が名工だから。
かつて――何百年も前に王家から送られたもので、名誉の証であり、家名の象徴なんだとか。
「それをいくらで買った?」
カイヤ殿下が問いを挟む。
「親愛なる殿下でも、商取引の詳細についてはお答えできませんなあ」
とぼけるアゲート。
もしかしなくても、安く買い叩いたのかな、と私は思った。
「極めて正当な商取引ですよ。ご心配なら、あの家の者たちに確認されても構いません」
「別に、そこまでする気はない」と殿下は言った。「およその事情はわかった。俺は帰るが……、その娘を連れていっても構わんか」
この場で娘と言えるのは私しか居ない。
問われたカメオは、「聴取は終わったんで、構いませんが」と答えつつ、理由を聞きたそうに私と殿下の顔を見比べた。
私も聞きたい。殿下が私に何の用だろ? 仕事の件なら断られたし、他に思い当たる用件もないし。
「どうした、行くぞ」
殿下が言う。私が一緒に行くのが当たり前みたいに。
おかげでカメオも納得してしまったのか、第二王子殿下のすることなら怪しむ必要もないと思ったのか、敢えて引き止めようとはしなかった。
私も、早くここから――アゲートから離れたかったので、ひとまず席を立った。何の用かは、外に出てからあらためて聞けばいい。
「またねー、姐さん」
カルサが気楽に手を振ってくる。
「ごきげんよう、殿下。またお会いしましょう、お嬢さん」
なぜか、アゲートまで。
そっちは正直、2度と会いたくない――と私は思った。まあ、残念なことに、その願いはかなわないのだけど。




