表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第一章 主人公、求職中
19/410

18 後始末1

 最初にアゲートが口にしたのは、私のことだった。つまり、「このお嬢さんが殿下の情婦というのは本当ですか?」と確認したのだ。

「違う」

 あっさり否定するカイヤ殿下。その嘘をついたカルサは、そわそわと落ち着きなく視線をさまよわせている。

「ほほう。つまり偽りを口にしたと……」

 にんまりと口元を歪めるアゲート。だまされたというのに怒るでもなく、むしろ嬉しそうなのはどうしてだろう。

 そう思っていたら、

「情婦ではないが、知り合いではある」

と、カイヤ殿下が続けた。「命を救ってくれたことには感謝する。これは借りだ、いずれ何らかの形で返す――と、そう言えばいいか?」

 ……なるほど。アゲートにとっては、王族に貸しを作った、って話になるのか。やけに嬉しそうなのも道理だ。


「確かにそれなら、非常にありがたいことではありますがね」

 アゲートは笑みを消し、立派な口ひげを指でいじくった。

「もとは店の客が起こした事件だ。仮に、私の部下が先走って、そのお嬢さんに傷ひとつでもついていた場合――殿下の覚えがめでたくなったとは思えませんな」

 殿下と私の顔を見比べて、

「情婦ではなく、ただの知り合いでも。無情に見捨てたと聞けば、いい顔はしない。殿下はそういうお人柄でしょう? その点では、そこの坊やの嘘に感謝してもいいくらいですよ」


 アゲートの言葉に、顔を見合わせるカメオとカルサ。

「……警官隊に貸しを作った、とは思わんのかね」

 疑わしそうに尋ねるカメオに、アゲートは意味ありげに笑って見せた。

「そう思うのなら、この件はひとつ、表沙汰にしない形でお願いしますよ。往来で刃傷沙汰など、店の評判に傷がつくのでね」

「これだけ目撃者が居たら、嫌でも噂になると思うけど」

 ぼそりとつぶやくカルサを、「余計なことを言うな」とカメオがひっぱたく。

 アゲートはニヤニヤしている。

 なんか不気味っていうか、ちょっと怖い人だな。


「顔色が悪いな。だいじょうぶか」

 ありがたいことに、カイヤ殿下が私を気遣ってくれた。「どこかで少し休むか?」

「よろしければ私の店で」

 アゲートが申し出る。

 こちらは正直、ありがた迷惑だった。これ以上、関わり合いになりたくない。さっさと退散したい。

 そこに、カメオが助け舟を――。

「悪いが、その前に詰め所に寄ってもらいたい」

 助け舟、ではなかった。

「話を聞かせてもらいたい。事件の調書を作らにゃならんのでね」

 ってことは、何? ようやくシャバに出られたと思ったら、数時間もたたずに逆戻り?

 私はがっくりとうなだれた。

「俺も行こう」

とカイヤ殿下が言い出した。「くわしい事情が知りたい」

 殿下にしてみれば、わけもわからず呼び出されたのだ。それも当然か。

「では、共に参りましょう。親愛なる第二王子殿下」

 アゲートが笑う。一見フレンドリーに。しかしその目は、獲物を狙う蛇みたいにギラリと輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ