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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第一章 主人公、求職中
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17 思わぬ再会

 カルサはそのまま私の体を支えて、騒ぎの中心から連れ出してくれた。

 ヴィル・アゲートの店からは少し離れた、細い路地の入口。何に使うのか、一抱えほどの木箱がたくさん積んである。

 カルサはそのうちひとつを借りてくると、私に座って休むようにと言った。崩れ落ちるように、箱の上に腰を下ろす私。


「びっくりしたなあ。詰め所に行って戻ってきたら、姐さんがあんなことになってるし」

 そりゃ、びっくりしたでしょうよ。ついさっきまで一緒に居たはずの相手が、刃物男の人質になってたら。

 誰だって、そんな展開、予想できないに違いない。

「これ、飲む?」

 カルサが水筒を差し出してくる。

「ありがと」

 ごくごく。冷たい水を夢中で飲み干す。はあ、生き返る。

 

 顔を上げると、警官隊の制服をまとった男たちが忙しく働いているのが見えた。

 野次馬の整理をしたり、当事者に事情聴取したり。

 その中にはカメオも居て、アゲートと何か話している。

 アゲートは楽しげだが、カメオは渋面を浮かべている。


「姐さんって、もしかしてかなり運が悪い人?」

「……認めたくはないけど、そうなのかも」

 私はふうっと肩を落とした。

 王都に来てから、まだ1週間もたっていない。それなのに、

「盗っ人の濡れ衣を着せられて、3日も留置所に入れられて――」

 ようやく外に出られたと思ったら、今度は金貸しと貴族のいざこざに巻き込まれた。

「往来で人質に取られて、刃物を突きつけられて――」

「それは災難だったな」

「そうだね。本当に、災難としか言えないと思う……」


 って、え?

 下を向いて自分の影とにらめっこしていた私は、ハッと顔を上げた。

 今の声は、カルサじゃない。

「……カイヤ殿下?」

 いつからそこに居たのか。

 自称・第二王子殿下は、以前会った時と同じ、暑苦しい黒の外套を全身に着込んでいた。フードは下ろし、顔を見せている。あいかわらず、後光が差すほど美しい顔だ。


「あれー、殿下だ。久しぶりー。なんでここに居るの?」

 カルサがやたらフレンドリーな口調で話しかける。

「久しぶりだな。……その問いに答える前に聞くが、この娘が今言ったことは本当か?」

「本当だよ」

「それは、また。数日見ない間に、随分と特異な経験をしたものだ」

 なぜか感心したような目で私を見下ろすカイヤ殿下。

「……好きで経験したわけじゃありませんけどね」

 私の皮肉めいた返しに、

「そうだな。好んで経験する人間はめったに居ないだろう」

と、真顔でうなずいて見せる。……この人と話すと、なんか調子が狂う。


「どうして、こんな所にいらっしゃるんですか?」

 私は先程のカルサと同じ問いを発した。

「呼ばれたからだ」

 カイヤ殿下は例によって簡潔に答える。

「誰に」

「ヴィル・アゲートだ」

 あの濃いおっさん??

 カイヤ殿下は、あちらでカメオと話し込んでいるアゲートの方に目をやって、「緊急の書状で呼び出された」と言った。


「店の客が刃傷沙汰を起こし、若い娘を人質にとっている。その娘はエル・ジェイドという名で、俺の……第二王子の情婦だと聞いたが、事実か。事実なら助けるか、それとも見捨てるか選べ――という趣旨だった」


 私は飲みかけの水を吹き出した。

 ちょっと待て。……誰が誰の情婦だと?

 申し訳なさそうに手を上げたのはカルサだった。

「あー、ごめん。それ、俺が言った」

「はああ!?」

「そんな怖い顔しないでよ。姐さんを助けるためだったんだからさ。そうでも言わなきゃ、あのアゲートのおっさん、行きずりの女の子を助ける気なんてなかったと思うし」

 待て、待て。

 私は自分の頭をかきむしった。

 つまり、どういうこと?

 混乱する私に、カルサとカイヤ殿下が順にいきさつを説明してくれた。


 カルサが警官隊の詰め所で応援を呼び、カメオらと共に現場に駆けつけた時には、あの中年男は私に剣を突きつけていたそうだ。

 力づくで取り押さえようとすれば、人質の身に危険が及ぶ。

 そこで警官隊の人たちは、事態を穏便に解決するため、中年男のトラブル相手であるアゲートに協力を求めることにした。

 ちなみにその時、アゲートが何をしていたかといえば、立派な建物の中にある自室から、騒ぎの様子を悠然と眺めていたんだそうな。


 人質は第二王子殿下の情婦だと、カルサから(嘘の)事情を聞いたアゲートは、確認のため、カイヤ殿下に遣い(伝書鳩)を出した。

 で、カイヤ殿下が現場に到着したのは、今し方。王都郊外にある自分のお屋敷から、馬で駆けつけたばかりとのこと。


 私が2人の話を飲み込むより早く、ヴィル・アゲートがこちらに近付いてきた。

「これはこれはカイヤ殿下、ご機嫌麗しゅう」

 王都一の金貸しは、ニヤニヤと嫌な感じの笑みを顔いっぱいに浮かべていた。

 対するカイヤ殿下は、これといった表情もなく淡々と、

「別段、麗しくはない。久しぶりだな、アゲート」

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