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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第五章 新米メイド、街に出る
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139 じっとしてなどいられない

 物騒な話を長々とした後で、

「どんな成り行きになるか、とても興味深いですね」

とセレナは締めくくった。

 興味深い……かな。

 確かに、これが他人事なら、野次馬として楽しめないこともないかもしれないけど。


「事実、『淑女の宴』の出席者は、例年よりも多くなりそうだという話ですよ。特にフローラ姫の出席が決まってからは、姫の婿選びが行われるという噂もあって、希望者が殺到しているんだとか」


 どこの世界にも野次馬は居る。貴族でもそれは同じ、か。

 本当に、他人事なら、ある種の見世物と言えなくもないのかもしれないが。

「兄様は宴に出ると言っていた……」

 そう。クリア姫にとっては全然、他人事じゃない。


「行ってみればどうだ?」

 そう言い出したのはダンビュラだった。

「気になってしょうがないんだろ? 殿下のことが心配で、じっと待ってなんかいられないんだろ。だったら、自分も一緒に行けばいいじゃねえか」

 殿下が許してくれないなら、こっそり忍び込めばいい、と彼は言った。「場所さえわかれば、俺が連れてってやるよ」


 クリア姫は明らかに心を動かされた様子だったが、彼の提案にうなずくことはしなかった。むしろ、きっぱりと首を横に振った。

「そんなことはできない。叔父様や兄様たちに迷惑をかけてしまうのだ」

 それは確かにその通りで、バレたら色々とまずいことになるだろうね。

 クリア姫は王族だ。子供のしたことだから……と見逃してもらえればいいけど、下手したら政治問題になってしまう。


 もっとも、そんな大人の事情など、ダンビュラにはどうでもいいらしく。

「無理していい子になろうとするんじゃねーよ」

 半ばケンカ腰で食い下がる。どうもクリア姫のこととなると、彼はいつもより子供っぽくなる傾向があるようだ。

「私はいい子などではない」

 クリア姫もムキになって言い返す。

「むしろ、悪い子なのだ。自分は子供で、何の力もなくて、兄様たちのお役に立つことなどできないとわかっているのに」


 自分だけ何も知らせてもらえない、なんて不満に思う権利はないのに、我慢できなくなってしまう。

 兄たちは自分のためを思って、自分を守ろうとしてくれているのに、言う通りにできない。悪い子だ。


「それを言ったら、カイヤ殿下も随分悪い子でしたわねえ」

 セレナがのんびりと相槌を打つ。

 何のことかといぶかしむ私たちに、彼女は懐かしそうに笑って、

「殿下も色々と無茶をなさったんですよ。クリア姫様と同じように、とても家族思いな方ですから。兄殿下や宰相閣下が心配して危険から遠ざけようとしても、言うことを聞かずに」


 7年前の事件の時もそうだったらしい。

 当時、カイヤ殿下は王妃様の離宮に居たのだが、謀反の疑いをかけられて幽閉された兄の身を案じて、王都まで出てきてしまった。


「騎士団長殿にしてみれば、飛んで火に入る夏の虫といったところでしたわねえ」

 クリア姫は困惑顔になった。

「そんな……、そんなことがあっただろうか?」

「覚えていませんか」

 セレナに問われて、こっくりうなずいて見せる。

「兄様がいくさに行ってしまった時のことなら、よく覚えているが……」

「それより少し前ですね。王都から、殿下のもとに使者が――変事を知らせる使者が来なかったかしら」

「…………」

 クリア姫は眉間にしわを寄せて考え込んだ。必死で記憶を辿っていたようだが、

「覚えていない……」

 半ば呆然となってつぶやいている。

「姫様はお小さかったのだし、無理もありませんよ。きっと安全な場所に隠されていたのでしょうね」

 セレナはいたわるように言った。

 それでも、クリア姫の表情は変わらない。自分だけが安全な場所に居たと知って、余計にショックを受けているみたいだった。


 しばらくの間、気まずい沈黙が場に満ちて――。


「……たまには悪い子でもいいんじゃないですか?」

 気づけば、私はそう言っていた。

 守られるだけではいたくないと、無茶をする。

 それは愚かなことかもしれない。正しいか間違っているかで言ったら、おそらく正しくはない。

 だけど、そうする気持ちがまるで理解できないかと言ったら、そんなこともない。

 私も、どうにもならない自分の気持ちに従って突っ走り、ここまで来てしまった。だからわかる。

 頭ではまずいとわかっても、心が言うことを聞いてくれない。そういう時ってあるものだ。

 カイヤ殿下も多分そうだったんじゃないかな?


「ええ、そうですね。仰る通りだと思いますよ」

 セレナも私の言葉に同意してくれた。

「さすがに、姫様みずから宴に忍び込むというのには賛成できませんけど――」

「って、おい」

 ダンビュラが顔をしかめた。

あおるだけ煽って、結局止めるのかよ」

 セレナは上品に口元に手を当てて、含み笑いをもらした。

「いいえ、私はクリア姫様のお味方ですから、できる限りの協力はさせていただきますよ」

 って、なんで私を見るんですか。

 その意味ありげな視線は何? なんで笑ってるの?

 にわかに雲行きが怪しくなった。


 悪い予感におののく私に、セレナはどうやって「協力」するつもりか、その具体的な方法を話し始めたのだった。

次回から新章になります。

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