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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第五章 新米メイド、街に出る
132/410

131 レイテッド家の人々1

 私たちは全員、音のした方を振り向いた。

 貴賓きひん席の出入り口。派手な意匠を凝らした扉がいつのまにか開いていて、そこに1人の青年が立っている。

 ブラウンの髪とブラウンの瞳。中肉中背で、年齢は20代半ばから後半くらい。

 穏やかで優しそうな、言い替えれば少し気弱そうな風貌。

 その手に、キレイな鈴を持っている。


「ミケ、おいで」

 もう1度、鈴を振りながら、メイドさんに笑いかける。

「ケインさまー」

 ミケと呼ばれた彼女は、嬉しそうに飛んでいった。

 ゴロゴロと喉を鳴らしつつ、小柄な体を青年にすり寄せている。

「ごめん、うちの子が迷惑かけて」

 その頭を優しくなでてやりながら、ほほえむ青年。一見、人畜無害そうな感じだけど――。


「どういうことだ、ケイン。あの事件を仕組んだのはおまえなのか?」

 殿下はあからさまに疑っている顔で、ストレートに問いかける。

 どこの誰だか知らないが、この青年が、あの事件の黒幕??


「……そんなに見つめないで」

 青年は恥ずかしそうに視線をそらした。「あいかわらずキレイだね、君。その瞳。……まるで宝石みたいだ」

「げほっ」

 背後にバラの花が咲き乱れそうなセリフに、聞いていた私は思わずせき込んでしまった。

「ごまかすな」

 殿下は1ミリも動じていない。青年は苦笑して、「違うよ。僕が黒幕ってわけじゃない」

「……ならばなぜ、宴で事件が起きることを知っていた」

「別に、僕だけが知ってたわけじゃないでしょ」

 青年は軽く肩をすくめて見せる。

「逆に聞くけど、君は本当に知らなかったの? 例によって過保護な叔父上と兄上に、肝心なことは何も教えてもらっていないのかな?」

「…………」

 殿下は憮然とした表情になった。


「そんな顔しないで、笑ってくれない? 僕は君の父上じゃないから、さげすみの視線に萌えたりはしないんだ」

「親父殿の話はやめろ」

と殿下。

「もう1度言う。ごまかすな。こちらの質問に答えろ」


「もちろん、君が望むならいくらでもそうするつもりだけど」

 青年は開いたままになっている扉の方に目をやって、「続きはみんなで話した方がいいんじゃないかな。2人とも、入って」

 手にした鈴を振る。

 チリンチリンと涼しげな音色が辺りに響き――。


 その残響が消える頃、貴賓席の扉が音を立てて閉じた。

 開いたのではない。閉じたのだ。

「…………?」

 何が起きたのかと、疑問に思う間もなく。

 バタンと大きな音を立てて、再び扉がひらく。そこに立っていたのは――。


「皆さま、お待たせしましたわね」

 ゴージャスな金髪とゴージャスなドレス、孔雀くじゃくの羽飾りがついた扇を持った美女と。

「こちらも待ちくたびれたぞ」

 同じく金髪で孔雀のように派手な格好をした、背の高い美青年。


「……みんなレイテッド家の人なのだ」

 唖然とする私に、クリア姫が教えてくれた。

 女性の方は、魔女の宴で会ったレイリア・レイテッドの双子の妹レイシャ。

 男性の方はその弟で、レイテッド家の現当主レイルズ。


「あー、なるほど……」

 あのレイリアの血縁者か。言われてみれば、外見、雰囲気、堂々とした立ち姿までよく似ている。

 わざわざ遅れて入ってきた理由は……。多分、注目を浴びるためなんだろうな。うん。


 姉のレイシャは、年頃は30代半ば、妖艶な雰囲気のただよう美女だった。

 同じグラマラスボディでも、筋肉質なレイリアに対し、ふくよかで女性的な感じ。

 胸元を強調したあでやかな紫色のドレス。かなり濃いめのメイクを施した美貌に、蠱惑的こわくてきな微笑を浮かべている。

 外見は確かに似ているが、受ける印象はけっこう違うかも。つい「毒婦」という言葉が頭をよぎり、差別語だよなと私は反省した。


 弟のレイルズは、殿下より少し年上だろう。

 派手なサングラスをかけているせいで瞳は見えなかったけど、細面ほそおもての端正な顔は、おそらく並以上の美形だと思う。

 派手な柄物のジャケットとスカーフを重ね、シルバーのアクセサリーを全身いたる所に身につけている。

 体にぴったりした黒革のズボンと、膝上まで覆うロングブーツ。

 長い金髪を首の後ろでひとつにまとめ、大きな宝石のついた派手な髪留めをしている。

 要するに上から下まで派手なんだけど、それが変には見えない。むしろハマっている。

 まるで役者みたいな存在感があって、さっきの劇に出ていた花形俳優もかすんでしまうほどだ。


「えと、あの男性は?」

 残るもう1人。レイテッド姉弟に比べるとだいぶ地味な、鈴を鳴らして現れた男性は誰なのか。

「ケイン殿だ。兄様の友人、幼なじみなのだ」

「レイテッドの人なんですか?」

 それにしては全然似てないけど。

「いや、あの方は……。レイシャ殿の夫だ」

 なぜか微妙に口ごもりながら、教えてくれるクリア姫。

「ご夫婦だったんですか……」

 けっこう年が離れてるよね。10歳差くらい?

 まあ、その程度の年の差カップルは珍しくもないか、と思って本人を見ると、向こうもこちらの会話には気づいていたようで、目が合った。


「どうも、はじめまして。レイシャの5人目の夫です」

 にっこり笑ってあいさつされる。

「5人目? 6人目ではなかったか?」

 真顔で首をひねるカイヤ殿下。

「入籍したのは5人目のはずだよ。その前の男は、挙式直前に変死したそうだから」

「嫌だわあなた、そんな話、恥ずかしい」

 もじもじと頬を赤らめるレイシャに、「何も恥ずかしくなんかないよ。素敵じゃないか」と意味不明な反応をするその夫。


 ……さっきクリア姫が口ごもった理由がわかった。

 見た目の印象なんて普通はアテにならないものだが、例外もあるのかもしれない。


「3人とも、何の用だ?」

 殿下がレイテッド家の人々を順に見る。

 そう、それだ。派手な登場シーンにすっかり気をとられていたが、そもそも彼らは、何のために現れたのか?


「愚問だな」

 ふっとかっこつけて答えたのはレイルズだった。「いったい、ここをどこだと思っている?」

「王立大劇場だな」

「そう! つまり俺たちは観劇に来たのだ」

 すちゃっとサングラスを外してウインクを決める。……かっこつけて言う必要はどこにもない答えだった気がするけど、現れた顔は、予想以上にイケメンだった。

 金色の瞳も、どこか悪戯いたずらっぽい表情も魅惑的だし、背は高いし足は長いし、ついでに美声だし、そんなにいらないだろってくらい魅力にあふれている。


「つまり、ここで会ったのは偶然だと?」

「そんなわけがないだろう。無論、おまえに会うことも目的のひとつだ」

 小馬鹿にしたように口元を歪めるレイルズ。

「何のために?」

と冷静に問い返す殿下。

「あいにく、答えられんな」

「なぜ、答えられない」

「出がけに姉上とケインに説明されたが、かなり面倒な話だったのでな。理解することはもちろん、覚えることもできなかった」

「……そうか。残念だな」

 確かに残念だと思う。殿下もちょっとそういうところあるかもしれないけど、「無駄な美形」を絵に描いたようなレイルズ・レイテッドほどではあるまい。


「レイルズはこう言っているが、目的は何だ?」

 殿下はケインとレイシャ夫婦に目を向けた。待っていたように、2人がにっこりする。

「招待状をもらったのよ」

「君の叔父上からね。今日、君がここに来るはずだっていう情報と、観劇のチケットと一緒に」

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