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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第五章 新米メイド、街に出る
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122 貴人の訪問2

 ヴァイオリンを演奏していたのは、藤色のドレスに身を包んだ美女だった。

 ふっくらした白い肌、柔らかそうな茶髪。何よりも、なめらかに弦の上を踊る指に、私は惹きつけられた。

 なんて美しい。

 なんて美しい演奏――。


 呆然と、涙を流さんばかりに感動し、聞き惚れて。

 演奏が終わった時には、思わず力いっぱい手を叩いていた。

「あら……、ありがとう。そんな所で聞いてくださっていたのね」

 演奏者が弓を下ろす。

 そして、ふくよかな体を揺らして、こちらに近づいてきた。

「素晴らしい演奏でした。感動しました」

 私は心からの賛辞を述べた。

「ありがとう。感動させるつもりで弾いているのだけれど、実際にそう言ってもらえると嬉しいものね」

 藤色のドレスの美女がにっこりする。


 美女……だよね?

 つぶらな瞳に白い肌、意外に短い手足と、丸みを帯びた体つき。

 なんか……えと、なんて言うか……。

 演奏していた時と、若干、印象が違うような……。

 いや、けっして不美人だとは言わないが! むしろ可愛い、チャーミングな部類だと思うけど。

 たとえるなら、くまのぬいぐるみにドレスを着せたような可愛らしさ……って、失礼だろ、おい!


 私が微妙に戸惑っていると、ドレスの女性のにっこりが深くなった。

「うん、なかなか正直な反応。よく言われるのよねー。演奏にだまされたとか、弾いてる時の方がキレイに見えるとか」

「えっ、いえ! けしてそんなことは――」

 慌てて否定しようとしたら、女性は「いいのいいの」と手を振った。

「別に気にしてないから。むしろ、見た目がくらむくらい曲に力があるって、ほめ言葉でしょ。少なくとも、私はそう思ってるし」

「あの、その……」

 どう答えればいいのかわからず、私が口ごもった時。女性の背後から、ひょいと知らない顔がのぞいた。


「もう、エンジェラったら、そんなこと言って。彼女、困ってるじゃない?」

 知らない、中年の女性――しかしながら、その外見にはものすごい既視感があった。

 黒髪に黒い瞳、女性にしてはきりりとした中性的な顔立ちは、後光が差すほど美しい。


「カイヤ殿下……?」

が、女装して、20年くらい年をとったら、こんな感じかもしれない。

「ええ、そうよ。カイヤの叔母でーす」

 黒髪の女性が笑う。

「その娘でーす」

 ヴァイオリンを弾いていた女性が真似をする。すぐに笑みを消して、「似てないけどね」とため息。

 私は目の前の母娘を見比べた。


「えと、つまり……、宰相閣下の……?」

「妻でーす」

「娘でーす」

 再びノリを合わせる2人。娘の方が軽く口の端を持ち上げ、「そっちは似てるでしょ?」と不敵に笑って見せた。

 ああ、はい。確かに。

 つぶらな瞳とか、ちょっと手足が短めなところとか、すごい似てる。なんで今まで気づかなかったんだろってくらい、そっくり。


「で、あなたは?」

 問われて、私は大いに慌てた。本来なら、先にごあいさつしなければいけなかったのに。

「失礼しました! 私は――」

「エル・ジェイドさんね」

 そう言ったのはお母上の方。カイヤ殿下そっくりな瞳をキラキラさせて、

「まあ、聞いていた通りの可愛らしい方ね。その服、しっとり落ち着いていて、すごく素敵。うちの娘には負けるけど」

 私は酸欠の金魚みたいに口をぱくぱくさせた。

 聞いていた通りって、誰がそんなこと言ったんだ。いやそれよりも、絶世の美女から可愛らしいとか素敵とかほめられて、どんな反応をすればいいのやら。


 すると娘の方が母親の顔を指差し、

「ごめんなさいね、返事に困ること言って。これ、別に嫌味じゃなくて素だから」

「あら、どういう意味かしら?」

「そのまんまの意味よ。その顔で他人の容姿をほめるな、って意味」

 皮肉交じりの娘のセリフに、母親の方は軽くまなじりを尖らせ、「ま、この子は。そんな憎まれ口言って」とふくれて見せた。


「……2人とも、エルが困っています」

 母娘の後ろから顔を出すクリア姫。ようやく知った姿が現れて、私はホッとした。

「エル、驚かせてすまない」

 クリア姫はいかにもすまなそうな顔をして、まずは部屋に入るようにと言った。

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