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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第五章 新米メイド、街に出る
122/410

121 貴人の訪問1

 ようやく解放されたのは、城門をくぐり、長い階段を上り、庭園の入り口に着いた時だった。

「では、ご機嫌よう」

 ジェーンは短いあいさつだけを残して去っていく。しつこくついてきたのが嘘のようにあっけなく。

 その後ろ姿を見送りながら、私は今世紀最大級のため息を吐いた。


 疲れた。休日のはずなのに、疲労困憊こんぱいである。

 ……そういや、前の休みの時もそうだったな。

 休日とは名ばかりの災難日だった。やはり私は呪われているのだろうか……。


 癒やしがほしい。休日にふさわしい、心の癒やしが。

 などと思いながら、ふらふら歩いて行くと。

「……ん」

 耳に届く、かすかな旋律。

 高く、切ない、歌うような響き。

 何だろう、これ。楽器の演奏みたいな……。


 どうやらお屋敷の方から聞こえてくるようだ。歩むほどに、音が大きくなっていく。

 この音色。……もしかして、ヴァイオリン?

 多分そうだと思う。

 先日の夜会で、一流のオーケストラの演奏をたっぷりと聞かせてもらった。

 聞こえてくる音色は、その演奏と比べても遜色そんしょくないほど、なめらかでよどみなく。

 いったい誰が弾いているんだろうと、私はお屋敷に向かう足を速めた。


「……おい」

 道端から声がかかる。

 見れば、しげみの奥に光る一対の瞳。ギラギラと、獲物を狙う肉食獣のような。

「ダンビュラさん?」

 そんな所で、何をしているのか。

「客が来てるんだよ。面倒だから、ばっくれた」

「客?」

「行けばわかるよ。それより、殿下からあんたに伝言だ」

「何ですか?」

 私は1歩しげみに近づいた。ダンビュラは姿を見せないまま、

「急用で出かける。晩飯は食品庫の中に入れてあるから、ちゃんとあっためて食えってよ」

 どこぞの主婦のような伝言を残し、気配がかき消える。

「ちょ、ダンビュラさん……」

 慌ててのぞいたが、姿がない。

 また言うだけ言って居なくなってしまった。

 急用って何。殿下が出かけたら、姫様は今1人で「客」とやらの相手をしてるってこと? ちゃんと説明して行けっつーの。


 とにかく急いでお屋敷に向かうと、そこには見慣れぬ人だかりがあった。

 帯剣した、体格のいい男の人たちが5、6人。

 全員が仕立ての良さそうな服を着て、立ち居振る舞いも優雅で洗練されている。武器を持っていても、野蛮な空気はまるでない。いかにも貴人の警護、って感じの人たち。


「……こんにちは」

 私は見慣れない男たちに目礼しながら歩み寄った。男たちも目だけで礼を返す。

「あの、クリア姫は……」

 中にいらっしゃいます、と1人が答えた。

 その場で立ち話をするような雰囲気じゃなかったので、私はそそくさと男たちの前を通り過ぎた。


 お屋敷に入ると、ヴァイオリンの音色がいっそう強く響き渡った。

 優しく、切なく、包み込むような、聞いているだけで心が澄んでいくような、そんな音色。

 いったい、誰が――。

 私は吸い寄せられるように廊下を奥に進んだ。


 音の出所は、大きく開け放たれたリビングのドアだった。室内には複数の人の気配があって、色鮮やかなヴァイオリンの音色が満ちあふれていた。

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