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魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第一章 主人公、求職中
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10 主人公は檻の中2

 警官隊、それは。

 60年以上の歴史を持つ、民間の武装集団である。

 かつて、権力争いに明け暮れて民を守ろうともしない騎士団に絶望した、1人の若い騎士が立ち上げた。王国内の治安維持や、犯罪の捜査なんかが主な仕事だ。

 ちなみに、創始者は現在も存命中。既に90歳を越えた、王国の「生きた伝説」である。


 彼らの行動理念は、「正義」の名のもと、力弱き人々を守ること。

 利益は求めない。ただ、民のために悪を裁き、道理を貫くのみ。

 王国の民で、「警官隊」の名を知らぬ者など居ない。私の故郷にも、常駐の警官が居た。

 だったらなんですぐに気づかなかったのか? といったら、その警官はこんなスマートな制服着てない、こんな悪人顔でもない、普通のおじさんだったからだ。


 村はずれに派出所があって、おじさんはいつもそこに居た。その派出所も、元は民家だったという普通の建物だ。

 特徴といえば、入口のドアに、警官隊の理念がでかでかと張り出されていたこと。


「一、か弱き人々のため。

 二、名もなき人々のため。

 三、己が信じる正義のために。

 

  迷うな、ひるむな、ためらうな。


  警官隊はあなたの味方、もしもの時の警官隊!」


 …………。

 まあ、なんだ。ちょっと馬鹿っぽい標語だったし、近所の悪ガキが、よくいたずら書きして怒られたりもしていたっけ。


 そもそも、民間の組織が犯罪の捜査をするって、少しおかしい……いや、かなりおかしいんだけど。

 本来、その任に当たるべき役人の手が足りず、特に地方では、王都から遠くなるほど監視の目も行き渡らず。

 発足から60年、警官隊は「力弱き民を守るため」という大義名分のもと、なし崩しにその縄張り、もとい活動領域を広げ、いまや王国中の街や村に派出所を置いている。

 つまり相当、規模のでかい組織なのだ。

 それが王国の「法」に従ってというのではなく、「正義」のために戦うという。控えめに言っても、なんかヤバイ気がするのは、多分、私だけではないと思う。


 さらに突っ込んだことを言えば、警官隊は、その活動資金も謎である。

 正義の名のもと、力弱き民を守る。守るべき民から、報酬など受け取らない。

 それが警官隊なのだが、先立つものがなければ、普通は何もできないはずだ。


 王国一の大富豪がバックに居るって噂もある。

 その大富豪は、名のある貴族らしいって噂も。

 だけどこの国では、貴族が勝手に兵力を所持することは禁止されている。いわずもがな、内乱やクーデターなんかを防ぐためである。


 私は、目の前の兵士が――いや、警官が、なんとなく気まずい顔をしている理由がわかった気がした。

 警官隊が、「民間の組織」を建前にしたどこかの貴族の私兵だとしたら、実は違法スレスレの微妙な存在なのである。


 それはともかくとして。

 なぜ、私を雇ったセイレス家の人たちは、役人ではなく「警官隊」を呼んだのだろうか。

 盗みの濡れ衣を着せて売り飛ばすのが目的なら、ひげの警官が言う通り、息のかかった役人を呼ぶべきだ。

 警官隊は弱者の味方。間違っても、貧乏貴族にしっぽを振って、無実の人間を泥棒に仕立て上げる手伝いなんかしない、はず。

 そういう信頼があるからこそ、王国の大多数の民は、その存在に若干グレーな部分があると知りつつ黙認しているのだ。

 何かあれば守ってくれるし、謝礼もいらない。便利だからいいんじゃない? って。


「さあな。手違いでもあったか……。あるいは、あの屋敷の奉公人の中に、良心的な奴が居たのかもしれんな」

 ひげの警官の言葉に、私はまた思い出したことがあった。

 銀食器が消えた、という騒ぎの中、やせた家政婦長が下働きの子供に耳打ちして――そのすぐ後に、青い制服を着た男たちが現れたこと。


 もしかして、助けてくれた?

 それは別に、無実の罪を着せられた私に同情したからではなく、犯罪の片棒をかつぎたくなかっただけなのかもしれないけど。

 それでも、ほんの少しは救われる話だ。胸を覆っていた怒りとやりきれなさが、すっとやわらいでいく。


「で、この先の話に戻るが」

 ひげの警官いわく、やってもいない盗みで罪に問われることはない。

 ただ、無実を証明するにも多少の手間はかかる。事件の捜査、必要な書類作成等のため、最低でも数日はこちらに泊まってもらうことになる――。


 前言撤回。

 怒りとやりきれなさを再燃させる私に、ひげの警官が慰めの言葉をかけてきた。

「ま、そんな顔するな。うちの飯は、そこらの宿屋よりうまいぞ」と。

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