表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女の末裔~新米メイドの王宮事件簿~  作者: 晶雪
第四章 新米メイド、夜会へ行く
106/410

105 遭遇1

「うー……」

 こみ上げる吐き気に呻く。

「気持ち悪い……」

 宴の会場に隣接する、王宮内の中庭。その隅っこに設置されたベンチに、私は腰掛けていた。


 あの後、クリア姫やユナたちと一緒に料理をつまんでいたら、途中で気分が悪くなってしまったのだ。

 ……ご心配なく。別に、毒を盛られたとかではないと思う。同じ物を食べた2人は全く平気そうだったし。

 多分、慣れない宴の空気に酔ったのだ。

 言っては悪いが、お化粧とか香水の匂いとか、すごかったもんなあ。しかもホールではお香も炊いてたし、慣れないと気分くらい悪くなると思う。


 医務室に行こうとクリア姫は言ってくれたが、そこまで深刻な症状ではない。

 ちょっと外の風に当たれば吐き気もおさまるはず、と私は宴を中座させてもらい、この場所にやってきた。

 そこに居るのは私1人。少し離れた場所に警備兵が2人立っているだけで、他に人の姿はない。かすかに聞こえてくる、オーケストラの演奏も遠い。


「はあ……」

 我ながら、情けない。

 慣れない場所とはいえ、ひたすら圧倒されっぱなしで、挙げ句このザマ。クリア姫をサポートするどころか、ただおそばに居ることすらできないなんて。


「はあ……」

 疲れたようなため息が聞こえた。

 一瞬、自分のものかと思ったくらい、かもし出す空気が似ていた。

 驚いて辺りを見回し、気づく。

 中庭に咲き誇る、いばらの影。

 白い小さなベンチに、小柄な人影が座っている……いや、うずくまっている。

 侍女や使用人ではないことはすぐにわかった。

 清楚な桜色のドレスをまとい、柔らかそうな金髪をアップに結い上げ、真珠のティアラを飾っている。

 美しい装いに不似合いな、フレームの大きい眼鏡をかけて。

 回廊の方から差してくる淡い照明の中で、その小柄な誰かはうずくまるように本を読んでいた。


 向こうも私の気配に気づいたらしい。驚いたように振り返り、手にした本をすさまじい勢いで閉じる。

「……フローラ姫?」

 あまりに意外で、あっけにとられた。なんで、こんな所に1人で――。

「あ、あなたは……、クリスタリア姫の……」

 あいかわらず聞き取りにくい、ぼそぼそした声だ。

 妹のルチル姫は性悪だが、その声だけはカナリアのように可愛らしい。

 姉のフローラ姫は気立てがよいという噂だが、声質は似なかったらしい。


 それはともかく、彼女もまた「なんでこんな場所に居るのか」と言いたげな目を私に向けてきた。

「すみません、別にお邪魔するつもりじゃなかったんですけど……」

 フローラ姫は私の弁解など聞いてはいなかった。

 大急ぎで眼鏡を外し、ドレスのスカートの中にすべりこませると、物も言わずにその場を立ち去ろうと……。


 ばさっ。


 慌てた彼女の手から、本がすべり落ちた。


「あ、本、落ちました……よ……」


 とっさに拾おうとしてかがみ込み、私は固まった。

 文庫本よりちょっと大きいくらいのコンパクトなハードカバー。ちょうどひらいたページに、挿絵が描かれていた。

 美しい男性が2人。一方は精悍な騎士で、もう一方は黒髪の美男子。

 男性同士の、耽美な濡れ場の絵が――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ