3.彼女の部活
結果から言うと、彼女はバレー部にもバスケ部にもいなかった。
新入生用に解放されていた体育館の入り口から覗いただけだが、彼女の姿は見当たらなかったのだ。
勿論席を外していたり、欠席していたりする可能性はあるが今は考えても仕方がない。
いくら新入生の見学が歓迎されているからといって、女子部の部活風景を男子が覗いているのは居心地が悪い。
仕方がないので他の部活を覗きに行くことにした。
それからソフトボール部やテニス部など手当たり次第見て回った。
果てには男子部のマネージャーの線を疑ったりもした。
だが残念ながら彼女の姿を見つけることはできなかった。
見て回っているだけとはいえ、時間は経つ。
既に日は傾き始め、部活を終了して帰宅する生徒の姿も見え始めた。
「今日はここまでにするか」
これ以上は時間の無駄だろう。
勿論諦めるわけではない。
彼女に会うために必死に勉強してここまで来たのだ。
これしきのことで諦められるのなら、創はこの学校にはいなかっただろう。
どこか自身の行動がストーカー地味ていることに気がついて、首を振る。
(そんなんじゃない。
俺はただあの日のお礼を言いたいだけだ。
勿論、できれば仲良くなりたいし、あわよくばつき合ったりなんて……)
暴走しかけた思考を頬を張ってリセットする。
創の中での彼女の存在は、この半年で揺るぎのない神聖なものへと昇華されつつあった。
そんな彼女を自身の邪な感情で汚すわけにはいかない。
拗れているなと自分でも思う。
だが、それでも彼女へのこの思いを否定したくはなかった。
荷物を取りにロッカーへと向かう。
校内は静まり返っており、遠くから吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。
普段は気にならない上履きの音が廊下に響く。
(明日はどの部活を見に行くか)
正直、十中八九彼女は運動部にいると思っていた。
その為、捜索に当たってのプランはもうない。
後はしらみ潰しに探すしかないだろう。
それでも見つからなければ、最終手段として校門で張り込むという手があるが、あまりやりたくはない。
張り込むということは、見つけたとしても何のきっかけもなしに話しかけることになる。
創にとって彼女が掛け替えのない存在だとしても、彼女からすれば創など取るに足らない存在だろう。
そもそも創のことなど憶えていない可能性の方が高い。
そんな相手に話しかけるだけの度胸があるならば、中学の内に高校まで押し掛けていただろう。
その点、同じ部活の後輩として接点を持つことができれば、会話も切り出しやすい。
(あれ?
女子部に彼女がいたら部活の後輩にはなれないのでは?)
衝撃の事実に頭を抱える。
盲点だった。
これではたとえ部活を特定しても意味がない。
いや、諦めるのは早い。
まだ彼女が女子部に所属していると決まったわけではない。
その時ふと廊下の掲示板が目に入った。
掲示板には手作りであろう各部の勧誘のチラシが所狭しと貼られていた。
それぞれが思い思いに貼りつけたのであろうチラシは配置など考えられているはずもない。
重なるように貼られたチラシは、一目では何部か判別できないものまである。
(この中から選ぶか)
既に当てなどないのだ。
どの部活を選んでも変わりあるまい。
掲示板の端からざっと眺める。
こうして見ると、チラシ一つとっても部活の性格が出ているように思える。
球技系の部活はそれぞれ用いる球のイラストが必ずと言って良いほど描かれている。
音楽系なら音符や楽器、科学系なら試験管など。
美術部は流石といったところか、たかがチラシにも熱の入り方が凄く、クオリティが他の部活とは段違いだ。
ただ個性があるのはイラストだけで、どの部も「初心者歓迎!」「みんなで楽しく」など判で押したかのように同じ文言ばかりだ。
捻りがないとは思うが、高校の部活勧誘チラシなどそんなものだろう。
そんな中、1枚のチラシに目が止まった。
(ヒモ部?)
聞いたことがない。
ヒモ、というのは結んだり縛ったりするあれのことだろうか。
まさか、女性に経済的にすがる男の部活ということはないだろう。
いったいどんな部活なのか想像ができない。
荷造り代行でもしているのだろうか。
行きたい部活があるわけではないのだ。
どうせなら興味を惹かれた所に行くのも良いだろう。
場所と時間を確認すると、どうやら明日の放課後は活動しているようだ。
取りあえず覗いてみて、彼女がいないようなら次を探しに行くとしよう。