俺は最後まで……。
海から帰り、数日が経った。
夏休みで予定があるとすれば香織達との祭りだ。
現在の日付は8月3日。
予定の日は8月23日。後20日もある。
「……雨宮のお見舞いにでも行くか。」
俺も暇だし、花蓮の話し相手でもなれれば良いな。
俺は支度して、家から出た。
***
花蓮がいる部屋をノックする。
「…………いないのかな?」
病院へ来て、花蓮が入院している部屋に来たのだが、人の気配が無く、実際にノックしても誰も答えてくれなかった。
「また抜け出してるんだろ。」
仕方なく帰ろうとした時、1人の女性がこっちへ向かって来た。
年齢は40代前半だろうか?その人は俺を見ると驚いた顔でこっちに来た。
「もしかして山本慎二君?」
「えっ?あぁ、はい。そうですけど。」
「花蓮のお見舞いに来たんでしょ?ならこっちへ」
「あ、あの。あなたは?」
突然どこかへ連れてこうする女性に尋ねる。
「あぁすみません。私は花蓮の母の雨宮花子と申します。」
「山本慎二です。あらためてどうも。」
「花蓮は今はそこにはいないわ。案内するからついて来て。」
「あっ、はい……」
言われるがままについて行き、静かな廊下を渡った先の通路の右側の壁にはガラス窓がありその向こう側には俺の知る人物がいた。
「雨宮……!」
なんで?雨宮が……こんな所にいるんだ?なんで?
「あのね山本君––––」
花子さんの話しによるとここは集中治療室…… ICUと言われる部屋で雨宮の状態が悪化した為、ここへ移動したらしい。
そしてそこにいたナースに割烹着のような物と帽子を渡される。
大人しくそれを着ると、ナースは「どーぞ」と言われ、俺はICUの中に踏み込む。
中はとても静かで聞こえるのは医療機器のそんな小さな音のみ。妙な静かさだ。
「雨宮………。」
小さな声で、花蓮に呼びかける。
すると、花蓮はゆっくりと目を開け、俺を見つめる。
「……山本君?」
「あぁ。そうだ。」
「来て……くれたんだ。」
「そりゃそうだろ。聞いてなかったか?また来るって言ったろ?」
「うん……。聞いてたよ。」
「………大丈夫だよな?」
意識してたわけじゃないが俺の声が弱々しくなっていく。
「大丈夫だよぉ。……ちょっと悪化しただけだから。」
「そうか………なら治るように俺も祈っておくよ。だから頑張れ……!」
「……うん。ありがとう」
親がいるなか、長居はしない方がいいと思い、花蓮に一言伝える。
「また、遊びに行こうな。」
そう言い、俺は花子さんとナースに会釈した後、ICUから出る。
「ちょっと待って。」
そう言い、俺を止めたのは花子さんだった。
「もしもの時の為に連絡先を交換しておきませんか?」
「………そうですね。」
花子さんと連絡先を交換した後、再び会釈をし、静かな廊下を歩く。
雨宮は絶対に治る。
だから俺は最後までおまえを信じてやる。




