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挿話37 ヴァルカニア国民の場合

 ――(カチリ)

 ――ヴァルカニア地区、時計塔城。午前9時32分。

 ――記録開始。


 ――(大きな指先と、覗き込む騎士団長の姿。その背後に、魔術師の女)


「この辺でいいか?」

「ええ、充分だと思うわ。微調整はカイン様が来てからね」


 ――(ガチャッと奥左手側にある扉が開き、亜人が二人入ってくる)


「……む」

「あれ? 早いネー。何してんノ?」

「おう、ちょっと頼まれゴトをしてな」

「ふーん。あ、それ迷宮で見つかった魔導機関だよネ。調査終わったノ?」

「おう。今日の会議で使ってみるんだとさ」


 ――(ガチャッと続いて扉が開き、男女が数名入ってくる。年齢はバラバラ)


「おっ、もう集まってんな」

「おつかれさまです」

「おつかれー。何それ?」

「今日の会議で使う奴だとさ。後から陛下も来るから、時間まで適当に話しててくれって」

「ふーん? それにしてもグレックが今の時間から居るとか信じらんない」

「おうおう、言ってくれんじゃねぇか。今日の進行役様は俺だぞ」

「より不安感が増したな」

「そりゃどういう意味だ!?」

「言いたいことはわかるヨ」


 ――(それぞれが中央の円形テーブルに向かって歩き、椅子に着席する)


「しかし、進行役の持ち回り制も問題ありだなあ」

「おい、お前らだってそれで同意しただろうが」

「だって国王陛下が決めたことだし」

「都合のいい時だけあいつにぶん投げるなよ」

「心外だなぁ、ちゃんと国王陛下だと思ってるから同意したんだよ」

「でも毎回思うんだけどサァ、国家中枢の会議ってこんな村会議みたいな感覚でいいノ?」

「とは言ってもな。わしらはこの間までこうやって来た」

「……しかし、我々には既に王がいるのに……」

「ふむ。陛下は絶対君主制と立憲君主制の違いとおっしゃっていたな」

「それ俺も聞いたなあ。なんだっけ」

「なーにそれ?」

「絶対君主制はいわゆるバッセンブルグや他国のような、王が全てを決めるもの。立憲君主制は、君主は国家の象徴となり、会議で決まることだとか」

「へー、そんなのあるんだぁ」

「それって王がいる意味はあるの?」

「国の象徴だと言っただろう」

「よくわかんないなー」

「要は村だった時にやってた事とそんな変わらないんじゃない? 大人が話し合ってー、リーダーが後は決めるみたいな」

「うちの王様は『適材適所』が十八番だからな。下手に自分が全部口出すより、今みたいに要所でリーダー決めて定期的に報告とか話し合うとかの方がいいんでしょ」

「『人には得手不得手があるんですよ……!』」

「ぶっ!」

「んふふふっ!?」

「おいやめろ不敬だろ……」

「って言いながら笑ってるじゃん!」

「こら。公の場で他国に馬鹿にされないよう、一応、こういう場では敬称をつけようと……」

「いま、一応って言った?」


 ――(ガチャッと音がして、男が一人ばたばたと入ってくる)


「すいません遅れました!」

「いや、まだ何人か来てないヨ」

「まだ時間があるから適当に喋ってるところだ」

「えっ!? あっ、よ、良かった!」


 ――(入ってきた男は、円形テーブルの椅子にいそいそと歩く)


「でもさー。さっきの話じゃないけど、王様が何でも決めなきゃ国が困るんじゃないの?」

「王の器ってやつ?」

「カイン様も言ってたけど、どこの分野でも一人が中心になって目立つと、その人がいなくなった時にどうしようもできなくなるから。全員がその仕事を肩代わりできるほうが効率がいいみたいな事言ってたな」

「ほー?」

「そのカイン様の仕事は誰も肩代わりできないけどね」

「まあなー」

「そういえば陛下、また部屋で鉢植え一個ダメにしたらしいぞ」

「またかよ。何度目だ?」

「それ、まだ諦めてなかったんダ?」

「めっちゃ凹んでた」

「討伐直後の豊作で一気に忙しくなったから、しょうがない気はするけど」

「でもあの時って大地の影響受けてるやつが一気に活性化しただろ。それでもダメだったのか」

「ダメだったみたい」

「なんか変な魔力でも出てんじゃねぇのか」

「陛下から?」

「陛下から」

「……小さな庭の主、なのになあ……」

「運だけは鬼強いから、反動が一気に出てるんじゃないの」

「あー」

「確かに運だけは良さそうかもね。まさかブラッドガルドと交渉して、土地を奪い返す人間がいたなんて……思わなかったもの」

「そういえばアンタは取り返した後にやってきたんだったな」

「そうね。魔女として追放された時は、どうなるかと思ってたけど。今はここに来て良かったと思ってる」


 ――(僅かに顔がほころぶ。和やかな空気)


「……そういえばさ、林檎酒の試作でようやくいいのが出来たんだ。陛下に献上がてら差し入れに行くってアリかな」

「毒味は必要か」

「毒味は必要だナ!」

「毒味は絶対に必要だ」

「その毒味ってちゃんと本来の意味で言ってる?」

「林檎酒製造は順調みたいで良かったぜ」

「でもあそこ微妙に遠いからなぁ。農地からも遠いしさ、みんな製造所の休憩室で泊まってて大変だったんだよ」

「あそこの一帯を整備して、酒専門の集落作ってもいいんだけどな」

「どこからそのお金出すのよ……」

「やるにしても、国のゴタゴタが落ち着くまではなぁ」

「問題は山積みだからねー。食糧問題は一気に解決したけど、一時的だから」

「えっ、そうなんですか!?」

「今はいいけど今後はどうすんだよ。食いもんなんていつまでも保存しとけるモンでもなし」

「まあ食糧問題は魔力嵐があった時からの重要課題だったしな」

「うんうん」

「カイン様の現状把握は早かったよねぇ」

「色々とやらなきゃならんことを短縮できたのは良かったよな」


 ――(ふふっ、と誰かが笑い声をあげる)


「しかし正直、一番の問題はこの城だろ。中身もよくわからんもんが満載だしな」

「わかる……。なんで時間によって階段の進む場所が違うの……」

「階段だけならまだいい方でしょうよ。この間、ただの壁だと思われてた所に幻影操作されてるのが発見されたんですよ」

「嘘でしょまだ仕掛けがあったの!?」

「また調査班の胃が死んじゃう……」

「変な商店街みたいなところがあったネ……」

「なんで隠されてんだよ意味わかんねぇ」

「まさか城仕えになってからも『体で覚えろ』が生きるとは……」

「作ったのがあの魔人だからなあ……」

「教会から文句とかないのかな……」

「今のところ、教会からの文句は無いから大丈夫です!」

「教会は陛下と会えないだろ。多分」

「あー」

「うん」

「もう会うとしたらそのことには触れない、が一番なのかもしれないネ」

「でもほら、カイン様って勇者様とも会ってますし。女神様もいたのでは?」

「勇者ってバッセンブルグから来てなかったっケ?」

「勇者もよくわからんけどなあ。女神から任命されてるのに、なんでバッセンブルグの冒険者になったんだ?」

「そのほうが都合が良かったんじゃないの。ほら、宵闇迷宮になってたとき、冒険者ギルドが出張ってきてたし」

「あれはマジでよくわかんなかった」

「でも、勝手にヴァルカニアの使者を名乗ってる奴らをどうにか出来たのは良かったよね」

「ギルドのやり方は意味がわからなかったがな」


 ――(ガチャッと音がして、少年が一人入ってくる)


「あっ」


 ――(全員がばねのように立ち上がると、胸に手を当てる)


「おはようございます」

「おはようございます」


 ――(少年は一礼すると、中に入る)

 ――(円形テーブルに向かいかけるものの、途中で足を止めて近づく)


「あ、これ設置してくれたんですね」

「おう」

「……あれ?」

「どうしました」

「これ、スイッチ入ってません?」

「えっ? ホント?」

「そうそう、ずっと思ってたんだけどサ、それ何に使うヤツ?」

「えっとこれは……」


 ――(少年の手が近寄って大きくなる)


 ――(カチリ)

 ――ヴァルカニア地区、時計塔城。午後10時5分。

 ――記録中断。







 持ち込まれた水晶板に映し出された光景は、そこで止まっていた。


 その場にいた、カインを除く全員が押し黙っていた。

 特にこれといった反応を示さない者。

 単純に興味から目を輝かせている者。

 あまりの事に口を開けっぱなしにしている者。

 恥ずかしさで顔を覆う者。

 反応は様々だった。だが、自分達のさっきまでの姿をもういちど見ることが出来ているという不思議さと、今の会話が聞かれていたという気まずさと、それ以上の興味とが渦巻いていた。


「えーっと……ま、まあ、こういうものらしいです」

「そういえば目のあたりがカメラアイにそっくりだなこれ……」

「こっちのほうがまだ可愛げがある造形をしてる……!」

「ウアアァア!! すいません陛下ァア!!」


 ちなみにこの日の会議は初っぱなから阿鼻叫喚で、開始が三十分遅れたのは言うまでもない――。

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