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社畜と魔女03

 あーはいはい、魔法ね。魔女ね。わかったよ三間坂くん。一緒に世界を敵に回しましょう。

 とは、当然なるはずもなく、有栖川は僕と魔女を交互に見つめて困惑している。

 いつの間にか、有栖川も僕と魔女に向い合せるように正座しており、重たい異様な空気が有栖川の部屋に立ち込めていた。


「わたくしは三間坂の崇高な理想に心の底から惚れ込み、共にこの世界を変えてみせようと、本気でそう思っていますの。貴女はどうしまして?」


 魔女の言葉で、異様な雰囲気が更に増した。

 どんなに素晴らしい理想を掲げようとも、現実は僕たち社畜に容赦などしようはずがない。それは十分に理解している。

 貴族に意見しようものなら、もしかすると、僕の存在など最初からなかったかのように闇に葬られるのかもしれないのだ。社畜は貴族にとって都合の良い世界を作るための道具なのだから。

 長い人生の中で、大きな分岐点である進学、就職、結婚。これらは全て、社畜に選ぶ権利はない。

 身分の差による圧力や、生きていくうえで必要な賃金を得るために働かされ、生かされているだけに過ぎない。


「魔女さん……三間坂くんに惚れているんだ。格好いいね。そうやって、自分の意思をはっきり口にできるのって。あ、私が三間坂くんに対して同じ思いを抱いているけれど言えないからとか、そういう意味じゃないからね。ただ、社畜の私たちはそういう感情を持ったら辛くなるだけだから」


「三間坂からこの世界のことを色々と聞いていますけれど、それって、おかしいと思いませんの? 人間は思考する生き物……自ら考え、自ら行動した方が楽しくありませんこと?」


「それができる世界を創ることが、三間坂くんの目標なんだね」


「そうですの。わたくしは最期まで見届ける覚悟ができていてよ。三間坂が死ぬ時は、わたくしが死ぬ時。だから、わたくしは最期まで三間坂とともに戦いますの」


 魔女の、その聖女とも悪魔とも取れる表情に有栖川は尻込みしてしまう。


「さて、もう一度聞きますの。貴女はどうしまして?」


「ははは、まるで悪魔の囁きだね」


「ごめん有栖川。別に、僕は困らせるつもりで来たわけじゃないんだ。僕がやろうとしていることは大きな危険が付いて回る。断ってくれて構わないんだ」


 魔女に出会い、魔法という存在を知ったからといって、その魔法を研究している貴族に勝つことができるのだろうか。当然、有栖川を巻き込むことは危険すぎる。


「三間坂くん。ひとつだけ、聞いてもいいかな。どうして私に話をしてくれたの?」


「それは……」


 一瞬、言葉に詰まる。しかし、これこそ有栖川に伝えなければいけないことだ。先ずもって、話さなければいけないことだったのかもしれない。

 有栖川に理解してもらったうえで、協力してしてもらわないと意味がない。


「僕が望む理想の世界に、有栖川は必要なんだ。身分の差がなく、誰もが平等に自由で、進学も就職も結婚相手も自由で、思想や考え方だって、人それぞれでいいと思う。もし、そういう世界がやってきたとして、そういう世界で、僕は有栖川と一緒に生きていきたいと思っているんだ」


「なにそれ、不思議な人だね、三間坂くんは」


 想像していた反応と違い、有栖川は呆れたようなため息を混じらせて微笑んでいた。 


「だから有栖川は、今日聞いたことを忘れてくれてかまわないんだ」


「うん……わかった」


 その言葉に、僕も魔女も伏し目がちになる。

 当たり前の返答だっただろう。このまま社畜として生きていけば、不自由や制限こそあれ、危険にさらされることはない。有栖川も二十代半ばだ、時期が来れば婚姻の通知が届き、貴族から与えられた幸せを得ることだろう。


「私の人生、三間坂くんに預ける。だから、魔法の使い方を教えてよ」


 ――え?

 有栖川は、何を言ったんだ。


「魔法、使ってみたいじゃない。というか、魔法補助装置……だっけ、どうして三間坂くんが持っているわけ? まさか盗んだわけじゃないよね?」


「……有栖川、自分が何を言っているのか――」


「わかっているよ。危険だろうけれど、そっちの方が面白いに決まっているじゃない」


 まさか、こんなにすんなり事が運ぶとは思っていなかっただけに、僕は驚いていた。

 隣に座っている魔女も、安堵と驚きが入り混じったような表情を浮かべている。


「ありがとう、有栖川」


「お礼を言われるようなこと、なのかな。まあ、それで、どうして三間坂くんは魔法補助装置を持っているの? それって、社畜でも買えるような物なの?」


「あ、ああ……実は僕、来週、親会社の方に出張するんだけれど、その時にこの製品のプレゼンを行うんだ」


「え!? 三間坂くん、すごくない!? 出世コース?」


「いや、これは貴族による社畜虐めだよ。僕たちの会社は魔法補助装置の一部しか作っていないし、完成して製品化されたものは課長に渡された時に初めて見た。課長も親会社から送られてきて初めて見たらしい。まあ、つまり、無理なプレゼンを要求して、僕たちの会社を潰すつもりなんだろう。理由はわからないけれどね」


「まさか、そんなのって……」


「でも大丈夫。むしろこれはチャンスが舞い込んできたと思ってもいい。なにせ、僕はこれの使い方を知っているからね」


 そう言って、僕はワイシャツの胸ポケットからスマホを取り出した。

 どういうわけか、社畜でも買い求めることができるスマホに魔法補助装置の挿入口があるのだ。


「スマホにメモリーカードの挿入口があるけれど、そこにセットすることでAIを起動できるんだ。僕は来週、親会社の社畜や貴族だけでなく、この世界に魔法の存在を知らしめてやろうかと思っている」


 親会社への出張は僕と課長だけなので、有栖川は留守番になるだろうが、魔女はいつでも僕の傍にいる。先ずは、僕と魔女で世界に一石を投じてやろう。


「出張から帰ってきたら、お土産に魔法補助装置を持ってくるよ。有栖川に魔法を教えるのは、その後になってしまうけれど、構わないか? 魔法補助装置がなければ魔法が起動できないし、シェリーは僕のアカウントを登録してしまって、どうやら他のアカウントを登録できない仕様になっているみたいなんだ」


「もちろんだよ。それにしても、不思議だね。なんだか、三間坂くんなら本当に世界を変えられるような気がするよ。でも、無事に出張から帰ってきてね」


 こうして、僕と魔女と有栖川は、世界を変えるための同志となった。

 しかしまだ、1億人総活躍社会を実現させるための、第一歩を踏み出しただけに過ぎない。

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