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8話・ユメセカイとそれぞれの変化


 俺が中学生時代の時期をスライドショーと共に母が話す、第2回ユメセカイは無事に終わった。


 今回も、俺の中学生時代に起きていた出来事が聞けた。俺が小学生時代の彼氏とは別れた事。新しい彼氏を探していたが、見つからなかった事。母の父であるジイさんが死んで後悔が残った事。ジイさんがボケてしまったが、もう少し介護をちゃんとしておけば良かったという内容などだった。


 それと、抜け毛が増えて育毛剤を使っていた事――は俺も知っていたな。父親とは言えボケていて、自由に歩くのも出来ない人間の介護はキツかっただろう。それから解放されると、自分の活力まで消えたのは辛かったようだ。


 現在の母は体調は悪くもあるが、体力はあるのでまだそこまで苦しんではいない。母は弱いフリもするが、負けず嫌いな面もある。そして、肺ガンの件を俺は夢の館の事務所で幽木さんに話していた。


「やはり母は病院というのがあまり好きじゃないから、病院自体行きたく無いようです。なので、本当にダメにならないと病院へは行かないと思います」


「そうですよね。洋子さんは決意が固いので、病院そのものに抵抗を示しているのかも知れません。病院に行ったら、病院に今度は入れられてしまうという考えがあるのだと思います」


「おそらくそうだと思います。ここと病院を比べて、病院を拒否するなら夢の館を気に入っているとも思います。けど、何かあればすぐに駆けつけるので大変かも知れませんがよろしくお願いします」


「わかりました。洋子さんの気持ちを尊重しつつ、危険になれば病院に行かせます」


 とりあえず、母の肺ガンの件は幽木さんだけが知る内容にした。

 トイレ詰まり事件以降、山田さんも落ち着いて働いているが、どこから聞いたのか幽木さんが俺の自宅に来ていたのを知っていた。けど、何回かファミレスで食事などをしてスーパーとかでも買い物をしているが、その件については話しては来ない。


 それに夢の館の一部のスタッフは、俺が幽木さんと山田さんを同時狙いという話もされているようだ。まぁ、この夢の館全体が戸田家中心に回っているのが気に入らないスタッフもいるんだろう。


 母もそれを耳にしたのか、変な噂してんじゃないよ! とキレていた。

 変な所で元気があるのが母だ。





 その後、半月程経っても母の様子に変わりは無かった。体調こそ良くは無いが、記憶だけは冴えていて他の入居者への手伝いも率先してやっていたんだ。この人は何が好きで、何が嫌いとかいうのも覚えている。

 最近の事が覚えられない母の症状は、何故か改善されて来ていた。




 夜に夢の館を訪れていた俺は、母に必要なティッシュとか飴とかを山田さんに預けていた。すでに夜の八時なので、殆どの人間は自室にいて夢の館は静かだ。山田さんも夜勤の人間との交代の為、後一時間勤務したら終わりだ。


「これで必要な物の補充は大丈夫だと思う。後は、母が何か言ったら教えてくれればいいよ」


「ありがとうございます和樹さん、私もやる事が無いのでコーヒーでも飲んで行きません?」


「あぁ、そうだね。じゃあ少し休憩していこうかな」


 そして、山田さんが淹れたコーヒーから事件が起こった。テーブルにカップを置こうとした時に溢れてしまい、俺のシャツにコーヒーが浴びせられたんだ。すぐに俺は山田さんに連れられて、風呂場に向かう。汚れたシャツを脱いで腹の辺りを水で流した。


「和樹さん。下も脱がないとダメですよ。コーヒーの汚れがあるので」


「え? 下も?」


 躊躇したが、俺は確かにズボンもコーヒーまみれなので全て脱いだ。


「すぐに綺麗にしますからね」


「……」


 山田さんが丹念にボディーソープで身体を洗ってくれた。恥ずかしいが、気持ちよくもあったのでじっとしていた。すると、山田さんはタオルを取りに行ったのか風呂場から出た。少しして戻って来ると、そこには全裸の山田さんがいた――。


「山田さん!?」


「和樹さん。好き……」


「……」


 気付くと、俺は全裸の山田さんに抱きつかれていた。どうやら、山田さんは俺を落とす計画のようだった。それは、幽木さんを超えたいのと、俺が好きだからという二つの気持ちが混じっているようだ。


(これはマズイな……これは拒否するにも難しいぞ……少し離れないと)


 悶々としている俺は山田さんの胸に手を触れていた。たまたまぶつかってしまったが、それにより互いのスイッチは入ってしまう。


『……』


 そして、その柔らかそうな唇に自分の唇を当てる――。


「ふぅ、今日は混浴ですね」


『!? 幽木さん!?』


 しかし、全裸の幽木さんが俺達を止めた。

 この行為で、山田さんの気持ちは冷めてしまっていた。勿論、俺の気持ちも。全裸の三人は無言のまま脱衣所で服を着出した。そのまま、山田さんは少し外へ消えたようだ。

 とりあえず、事の起こりと謝罪をしておいた。


「すみません幽木さん。山田さんの勢いに負けました」


「裸で迫られたら仕方ないですよ。でも、未遂で良かったです。和樹さんはヤル気満々のようでしたので」


 互いの全裸を見てる以上、幽木さんに言い訳は通じないので黙っていた。確かにヤル気満々だったな。今は冷めているが。


 二人で少し話してから、フリールームへ向かった。そこには山田さんと母が話していた。最近の記憶だけは調子の良い母から落とそうとしたのか、山田さんはフリールームにいた母に声をかけている。山田さんに必死さを感じてしまう。

 すると、母は意外な言葉を山田さんに放った。


「山田ちゃん。タバコはダメだよ。私もタバコ辞めたから、山田ちゃんも辞めようね」


 母は山田さんにタバコの注意をした。どうやらここに入居してから吸わなくなり、匂いに気付いたようだ。

 この点は、俺も幽木さんも気付いていなかった。全員が唖然とする中、母は続ける。


「山田ちゃんがしっかりしないと、幽木さんも大変だから。よろしく頼むよ」


「は、はい……」


 山田さんだけで無く、俺も幽木さんも驚いている。この時の幽木さんの驚き顔は面白かったが本人には言えない。そうして、母は山田さんではなく嫌いな幽木さんを認めるようになったんだ。




 その後、精神的に疲れていた山田さんは少し休んでから復帰した。そして、この現場のみんなにこんな話をしたようだ。


「正直、介護という仕事は初めはやりたくないし、ある程度したら辞める予定でした。田舎の私が都会で一人暮らしをする上で、介護という仕事は手っ取り早く都合が良かったんです。けど、今はケアマネージャーを目指そうと思っています。この三ヶ月ちょっとの生活で、私は色々な経験をして失敗もしました。それを、今後に活かす為にもケアマネージャーという目標に向けて頑張ります。幽木さんには負けません!」


 そんなライバル宣言をしたようだ。

 俺も、これをキッカケに山田さんとの関係は終わらせる事にした。やはり、俺も変に優しくしていたのがいけなかった面もある。俺は、俺が向き合って行く女はもうわかっているんだ。山田さんもそれは受け入れてくれた。


 これにより、夢の館での俺の噂は消えた。

 そうして、とうとう第3回目のユメセカイの開催になった。

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