7話・幽木さんの訪問と過去
熱を出して自宅で寝ていた俺は、突然の訪問者に驚いた。まさか、夢の館の幽木さんが訪ねて来るとは思わなかったからだ。
とりあえず顔だけ水で洗ってから、玄関まで行き幽木さんを迎え入れた。熱は下がって来ているが、長居をされても困る。だから風邪をうつしても不味いから長居は勘弁をと一言言っておいた。
入居者家族の見舞いなんてするのは必要ないだろ? と思ってもいる。
お茶でも出すかと思い動ことするが、幽木さんはそれを察して断わった。すでに自分で持って来ている水筒のお茶を飲んでいるので、俺は茶菓子だけテーブルの上に置いてイスに座った。
「……わざわざお見舞いまでしてくれてありがとうございます。何か母がまたやらかしましたか?」
「いえ、洋子さんは順調に生活しています。私の事は苦手のようですが、スタッフの中では山田さんが仲良しのようです」
「まぁ、母は細かい事を言われるのが嫌なタイプなので申し訳ないです。わざわざお見舞いに来てくれたのは、本当にただのお見舞いなんですね」
「えぇ、そうです。もし、洗濯や掃除的なものがあれば少しの時間なら出来ます。私に任せて下さい」
「いや、そもそも幽木さんは夢の館のスタッフであって俺個人とは関係無いですよね? 利用者の家族まで面倒を見てたら身体が持ちませんよ」
「あ……そうですよね。申し訳ありません」
何やら、幽木さんはいつもと違いどっしりと構えているような感じがしない。他人の家だからか、男と二人きりなのか知らないがソワソワしてる感じがある。その幽木さんは語り出した。
「実は……私は利用者の人だけで無く、家族にも干渉してしまう癖があるのです。ですから、前にいたグループホームから転勤する事になり、夢の館に来たんです」
「そうでしたか」
山田さんから聞いた通り、幽木さんは違うグループホームから転勤して来たようだ。それは、利用者だけでなくその家族にまで干渉してしまうから。それがクレームになり、幽木さんは異動するハメになった。
しかし、仕事自体は真面目なので心機一転、新しいグループホームの担当にされたようだ。
そして、立ち上がって頭を下げる幽木さんの黒い髪がテーブルについた。
「すみません和樹さん。私が和樹さんの中学生時代のアルバムを持っていたのです」
「……え?」
次のユメセカイを開催する上で必要な、俺が中学生時代の写真は幽木さんが俺達家族を知る為に持っていた。
「あー、となると幽木さんは意図的にアルバムを持っていたという事ですね? ハッキリ言うならこれは盗難ですよ?」
「わかっています。しかし、私も利用者の家族にまで介入してしまう癖は治っていなかったようです。あまり利用者に介入しない為に、私は山田さんのような利用者とフレンドリーな関係にならないように気をつけていました。ですが、戸田さんの事などを名前で呼ぶようになったり、ユメセカイのイベントの成功などで私は元の私に戻ってしまったようです……」
どうやら、山田さんがアルバムとかは何もしてないというの本当だった。犯人は、まさかの幽木さんだったんだ。流石にこれは呆れてしまう。
同時に、もっと呆れてしまう物を手にしていたんだ。
(あの茶封筒は……)
どうやら幽木さんは辞表を持っていた。
何をしてるんだと溜息をつく俺は頭が痛くなって来る。
「幽木さん。辞表を出すのは逃げですよ。夢の館は新規のグループホームだし、スタッフも山田さんとかだけだと運営も厳しいと思います。自分としては、アルバムも無事に戻って来たなら何も言いません。なので、その辞表は罪が無いので必要無いのです」
「ですが……私は同じ過ちをしてしまい、盗難行為まで……」
「幽木さんの利用者を知りたい気持ちはわかりました。俺の家族ならいいです。他の家族は辞めましょう。これなら、その癖とも付き合って行けますよね?」
「和樹さん……ありがとうございます」
涙ながらに謝られた俺は、天井を見ていた。少し熱がぶり返して来て、倒れていたんだ。幽木さんに介抱される俺は、色々なストレスでそのまま彼女を抱きそうになる。
『……』
お互いの対応と呼吸を感じられる距離が、俺達をおかしくしたのかも知れない。二人はそのまキスをしていた。そうして、俺は意識が朦朧として、幽木さんにベッドまで運ばれた。
※
その熱も翌日には引いていた。
朝起きると、冷蔵庫にはあり合わせの物で作った朝飯が入っていた。幽木さんに感謝しつつ、俺も彼女に介入してしまっている事に気付いていた。
「やっちまったかな……」
普段、幽霊のような幽木さんの唇は熱く柔らかかった。
その後、俺と幽木さんの関係は少し変化した。同時に、母の体調も悪くなり出していたんだ。夢の館に入る時には、健康診断も簡易的な検査しかしていない。当日はコーヒーとか飲んでたから、少し糖の反応が出たとかで検査自体も適当になっていた。
母の肺にはガンが進行していた。
おそらく、長年のタバコが原因だろう。
不幸中の幸いなのか、母の体調が悪くなると最近の記憶が戻って来たりしていた。死へのカウントダウンが、母の記憶だけは蘇らせていたんだ。
「次が最後のユメセカイになるかもな。せっかくいいイベントになるかと思いきや、時間は待ってくれそうにも無いか」
おそらく次が、最後のユメセカイになるかも知れない事は覚悟していた。そうして、俺の中学生時代を語る、第2回ユメセカイが開かれる日になったんだ。




