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3話・夢の館での生活に慣れ出す母


 母が夢の館に入所して半月が過ぎた。

 やはり……というか、当たり前だが問題は起きている。


 職員の目が離れた隙を狙って、外にタバコを買いに行ってしまったようだ。先日は行くのを止められたようだが、今回は無理だったようだな。これは入口の鍵をどうにかしないとダメだろうと思う。


 そんな内容を幽木さんからメールで連絡を受けたので、その週末に夢の館へ行く事にした。施設内に入ると、幽木さんが出迎えてくれた。午後のレクリエーションの時間らしく、新入社員の山田さんが塗り絵の指導をしている。母も近くのおじいさんやおばあさんと雑談をしながら作業をしていた。


 一日過ごしただけでジジイもババアもムカつく! と言っていた連中だ。俺はすぐにはフリールームには行かず、遠くから眺めていた。


「相変わらず演技はしてるか。あの演技がストレスの元なんですよ」


「ストレスの元?」


「えぇ。母は人当たりは良いが、その反動が出るタイプです。良い人を演じているストレスの反動が出るんですよ。だから、タバコを吸いたくなってしまっている」


「それでもここではタバコはダメなので、息子さんからも言ってもらえますか? 戸田さんも最近は私の事もいきなり現れて幽霊みたいと避け出しているので」


「そうですか。とりあえずアメを買ってきました。タバコの件はアメでも舐めて対策するしかないんじゃないですか?」


「息子さんがそう仰るなら、こちらでもそのアメを勧めてみます。どうぞ中へ」


 幽木さんに案内されて俺はフリールームに入る。この人が案内すると、確かに黄泉の国とかに行きそうな感じはするな。幽霊という感じはやっぱあるんだよ。


 レクリエーションの塗り絵が終わり、母と会話をする。また、自分がこうなったのも息子のせいだと言っていた俺を褒め称えている。この無駄な演技を辞めて欲しい。俺がいなくなれば、また批判されるのはわかっているから。


 やけにニコニコしてる母に今日来た件について話そうとするが、先に話して来る。


「和樹はいつまでいるの? 泊まっていけば? ここで働いてもいいと思う」


「……その事は後でいい。とりあえずタバコはダメね。何度も言っているけど、タバコはガンになるからもう辞めよう。その代わり、アメを買って来たからアメを舐めて」


「アメか。アメは別に好きじゃないけど、和樹が買って来てくれたなら舐めるよ。それよりいつまでいるの?」


「もう少しだけね。まずは、幽木さんとかスタッフの言う事をちゃんと聞くことが大事」


「わかったよ」


 と、全くわかってないような軽い返事だ。

 すぐに幽木さんも会話に入って来た。


「それでは洋子さん。息子さんに言われた事はお願いしますね」


「幽木さん、私は息子さんの名前もちゃんと呼んだ方がいいと思うな」


 と、レクリエーションをしていた山田さんが話しかけて来る。山田さんはまだ20歳で、明るく活動的なのでこの施設では浮いている感じがある。けど、幽木さんや他のスタッフもマジメなので、山田さんぐらいのフランクさも必要だろうとも思う。


「戸田さんの事はこれから息子さんではなく、和樹さんと呼んでいいですか?」


「いいですよ」


「和樹さんはだいたい半月に一度は来るんですか?」


「おそらくは。人生なんてデイサービスなもんだから、当分はこれがルーティーンになると思うかな」


「人生デイサービス! 私もそのルーティーンの中にいるんだ……」


 俺の変な台詞のせいで山田さんは少しへこんでいた。とりあえず戸田母と戸田息子という呼び名より、名前で呼ばれた方がいいだろう。山田さんはどちらかというと、敬語とかは使い過ぎずに気楽に話して欲しいタイプのようだ。

 母も山田さんは気に入っているようで、他のスタッフとの態度が違うのでわかりやすい。


 そして、俺は幽木さんと事務所で話をする事にした。


「……タバコの件はアメで少しは改善されると思います。タバコを買いに行った時の鍵の件は何か手段を立ててもらわないと、また起こると思います。他の入居者とはある程度しか、上手くやれないとも思いますね。母は自己中心的な所があるので」


「わかりました。鍵は南京錠などの対策をしてみます。他の入居者との関係はしばらくすれば良くなるかなと思います。洋子さんは面倒見がいい点があるので」


「まぁ、人当たりはいいですけどそれは表面的なものでもあります。良い人アピールのようなものですよ」


「洋子さんはまだ若いので、一人でやれる事が多くて助かってはいます。洗濯を畳むなどが得意なようですね。普段の生活で行う事は社会と繋がりがあるのでとても大事な事なんですよ」


「とりあえず若いというのは言うのは無しでお願いします。母はすぐに勘違いするので。後、母は家事のような事はあまり好きではないのは確かです。社会との繋がりとかの理由でさせたいなら、そこはお任せします」


 そして、二階にある母の部屋へと向かった。その部屋には昔の写真が何枚か飾られていた。幽木さんが言うには、写真思い出と共に俺の子供時代から回想をしてる時があるらしい。


「昔の事は覚えているなら、昔の事だけを話せば楽な気もする」


「そうですね。洋子さんは昔の事は楽しそうに話しているので、昔の話をさせてあげるのがいいのかも知れません。写真などを見ながら」


 そうして、一時間以上俺は母の話に付き合わされた。幼稚園時代の話を色々と話していた。たまに幽木さんも仕事の合間にその話を聞きに来てくれた。


(幽木さんの事は幽霊のようだと嫌いのようだが、まだ何とか大丈夫か。過去を話す時だけは昔の母親なんだよな。過去の話だけは……)


 そう、俺はひしひしと感じていた。

 過去と現在の母親の違いが現れている。

 そんなこんなで、17時になったので幽木さんの定時だ。けど、幽木さんは一時間ほどは常に残業をしている。21時から来る夜勤者への報告など、雑務をしてから帰るようだ。


 ここからの時間は、夜勤者が来るまで別の職員とパートの人間が対応する。夕食を食べさせる仕事と、入浴などだ。ここの入居者はほとんど自分で出来るから問題無いようだが。


 定時になったのですでに山田さんは帰っていた。俺は母に帰ると伝え、幽木さんに挨拶をしてから帰宅した。


 そして、幽木さんは新規施設の初のイベントを企画していた。それが、母が変化するキッカケだった。

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