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ガラード公国史(仮)  作者: ナベさん&拇指
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第一話 序章

よくわかってないけど始めます。

白い壁を、窓から差し込んで来る穏やかな午後の日差しが、ほのかに暖めている。


上下の瞼が互いに呼び合い、お友達に成りたがってしまうような、一種、夢の中で目覚めたような、しっとりとした空気に満たされている。物音ひとつ響いてこない。奇妙に静かで、ざわめきから、最も遠い教室がここにあった。歴代の学生達も、この独特の空気と戦っていたのだろうか。


「ガラード国立大学 文学部 歴史学科」の一室である。

いつの間に、おいでになったのだろうか。ローデック教授が教壇に佇んでいる。


「先生、御幾つですか」


などと冗談めかしに、思わず聞いてみたくなる様な、打ちひしがれた容姿の老教授は、それでいて決して座らずに二時間、抗議し続けるのだそうだ。

教授は、教室内を一眺した後、直接頭の中に訴えかけてくるようなどことなく尊厳で鄭重な語り口で、前触れも無く、とうとうと講義を始めた。


「まず、これから一年を掛けて学んでいただく『公国近代史2』のテキスト『ガラード公国史第三巻』について、私なりの見解を先にお話ししておきます。この事が、皆さんに、悪しき先入観を与えるものではないと、信じています。


この『公国史第三巻』は、公国歴五年春から始まった一連の事件を歴史的に書き綴った、『叙事詩』であります。『公国史』として人の営みと起こりや結果に着目して、読まれることはお勧めできません。


『歴史書』としては、遺憾ながら決して完成された物とは言えません。敢えて表現するならば、やはり『叙事詩』でしょう。

皆さんが、昨年学んだ一、二巻や、来年の春以降に学ぶべき四巻以降とは、隔絶した書となってしまっているのです。

三巻のみ一年分の記載に、一巻を費やしています。量的に観ても倍です。


特にこの書に描かれている『公国歴五年春から六年春』に掛けての記載は、単純に読み物として読み込んだ方が良いと思われます。


皆さんは既に、この『五年春から六年春』掛けて、『何が、起こったのか』、『何故、起こったのか』、『どの様に、終結したのか』、詳しく御存知と思います。


そうです。知られ過ぎているのです。

歴史的事実を知るには、他の書物を紐解く方が詳細に知る事が出来ます。その方が効果的なのです。


この『公国近代史2』の講義は『ガラード公国史第三巻』をテキストに使用します。

何故なら皆さん歴史学科の生徒は『ガラード公国史』全巻通読も卒業単位認定に含まれています。

その一助の為と、不完全な歴史書を通して歴史の観察者になって、戴きたい為なのです。


知っている事を忘れて、新たに観て、聞いて、考えてください。以上を必ず念頭に置き続けてください。では少し、皆さんと話をしたいと思います。質問を受けましょうか。何かありますか」


教授は言葉を区切った。


すると再び、奇妙な静けさに覆われていくような気がした。

誰か二三、質問しているが良く聞き取れない。室内もぼんやりと、かすんでいるような気がしてきた。

教授が答えたその声は、はっきりと聞こえた、体全体に共鳴する様に。


「まず、読んでみましょう。そして、このローデックと世界を観てみましょう。考えるのはそれからでも充分間に合います。人生は長いのです。

では始めましょう。ガラード公国歴五年、四月一日」


忘れ様もしないネオガラード歴一ニニ年、僕が、大学二年生の春、四月十二日の事だった。



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