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ナインボール  作者: Nove!?
9/27

ナインボール #9

オープニング曲イメージ

JUN SKY WALKER(S)

「Saturday Night」

十字高校(じゅうじこうこう)2年、北村良樹(きたむら よしき)

この街で喧嘩が強いやつと言われれば真っ先に名前が上がる男


石田優作(いしだ ゆうさく)

浜田孝二(はまだ こうじ)


ヨシキといつも行動を共にしているこの二人も喧嘩の腕は相当なものである

特に石田はヨシキの相棒という認識でコンビだと思われている


「なぁ勇作…坂田君やったのなんてやつだったっけ?」

「桜高の池口って奴」

「…何年?」

「そこまでは知らねぇーけど…坂田君らやるくらいなんだから3年じゃねぇの?」

「ふーん…今日桜高(さっこう)行くぞ」

「ああ」

「よし、行くぞ…」

「あ?今からかよ?」

「あたりめーだろ?」

「え?今から乗り込むつもりかよ?」


コウジも口を開く


「学校終わってからなんて行ってももう帰っちまってるんじゃねぇの?」

「いやそれはそうだけど…」

「だろ?今なら授業中で休んでなけりゃ確実に会えるぜ…」

「…乗り込むのは気が進まねーけど」

「んだよ?坂田君やられてんだぞ?」

「分かってんよ…分かってっけど…」


二人のやり取りを聞いて勇作が提案する


「じゃよ…昼休みにしねぇ?」

「じゃそうすっか…」


なんとか話はまとまり昼休みに桜西高に乗り込むことになった3人


ヨシキは小さい頃からずっと遊んでくれてた先輩の坂田が桜高の生徒にボコられたので

敵討ちをするつもりである



事の発端は一昨日の夕方


放課後、坂田は井上と今日発売の雑誌を買いに書店へ

目当ての本を買った後、店を出るときに同じクラスになった水嶋に出会う

「お?坂田に井上…」

「おお、水嶋」

「なんか買ったのか?」

「ああ、これ今日発売の…」


入り口で広がっていた3人の中の水嶋に肩と肩が触れる

普通の人ならば気が付かないか振り返ってお互いにすみませんと軽く頭を下げるくらいの問題だが、坂田達の前ということもあり気が大きくなってしまいそのまま気が付かずに進む男の肩を掴んで凄んでしまう


「おい!コラッ!てめー」

「え?ちょっなんなん?」

いきなり肩を掴まれ理由も分からないので困惑してしまう

「ぶつかっといて素通りか?あ?」

「あ、ごめ~ん…せやけど俺ぶつかってないと思うんやけど」

「あ?」

「え?」

肩は掴まれたままで水嶋はにらみ続けている


もしこのまま喧嘩になったとしてもこんな奴に負けることもなく

坂田達の前で自分の強さを見せつける事ができると思っている


「水嶋…放してやれよ」


坂田に言われやっとその肩を掴んだ手を引っ掻くようにして放す


「気をつけろよボケが!」

「は~い♪」

「あ?なんだその言い方は!?お前表出ろよ」

そう言ってまた放したばかりの肩を掴む


「うお!ちょっやめてや…さっきからこそばいねん」

「あ?」

「あ、あ、ばっかりなんやねん? 掴まんでも外くらい着いていくから放してや」


「…来い」


再度解放された男は水嶋の後に着いて店を出ていく


坂田は他校のおそらく自分たちより下級生のこの男がやられすぎないように

水嶋を止めるつもりで後を追う


書店一階部分が駐車場になっており一番奥まで歩いた後振り返る

指の関節をパキパキと鳴らし何やら準備をはじめているみたいである


男は黙ってその様子を見ている

「…来いよ」

男は言われたまま水嶋に近づく


あまりにも自然にこちらに近づいてきたので焦ってしまい男の顔面に右ストレートを放つ

ジャブのようなストレートで威力は期待できないが見事に命中した

顔の中心に吸い込まれたような、鼻を打つ感触が水嶋の拳に伝わる


「ぶっ!っっいって~」


坂田達にはどう見えていたのかは分からないが

こんなに綺麗に決まったのははじめてで水嶋は自信に満ち溢れていた


少しではあるが男は鼻から血を流している

白いシャツを一滴、二滴と赤く汚していく


「…謝ったのんに殴るんかよ?」


坂田は二人を斜め後ろから見ていたが

水嶋の一撃がまともにヒットしたので、早いかも知れないがもう止めようと思い二人に近づこうとしていた


自信をつけた水嶋はさらに鼻血を流し始めている男の顔面を殴りつける

その一発も無防備な男の鼻を綺麗に捉える

今度の一撃はパンチングマシーンを思い切り殴りつけたような威力でである


会心の一撃にあまりの気持ちよさにアドレナリンが湧き上がってくる


鼻血は勢いよく飛び散ったが、だが男は倒れない


「あ~もうお前許さへんで…しばくわ♪」


笑っている

坂田が男に近づいてくるのをスローモーションのように見ていた


「水嶋…もうやめと」

坂田がそう言いながら男の肩に優しく手を置いた瞬間

膝から崩れ落ちた


男は無意識に左手で声のするほうに裏拳を浴びせていた


軽く


虫を払うかのように

うちわを仰ぐかのように


顔が一瞬で後ろに飛んで行ったかと思うと反動でものすごいスピードで帰ってくる

そのまま下を向いたような形で、坂田を操っていた何かが急に飽きてしまい

手を放してしまったように見えた


そんな事を止まった時間の中で考えている間にさっきまで笑っていた男が

本当に嬉しそうに笑っていた男が鬼のような顔をしているのを見ていた



昼休み


「…で?坂田君…顔面骨折?」

「いや鼻は折れてたって井上君言ってたけど…」

「なぁ?たかが喧嘩で鼻まで折るかね?やりすぎだろ」

「つーかどんな奴よマジで?」

「俺絶対鼻折ってやるからな」

「…折んのかよ」

「あたりめーだろ!?坂田君の鼻の敵討ちしてやらねぇーと」


桜高近くまで来てクレープ屋を見つける

OLに交じって桜高の制服を着た男がクレープを食べている


「あいつに聞いてみるか」


「なぁ兄ちゃん?桜高だよな?池口って知ってる?」

「…池口?何年の?」

「いやそれは分からねぇーんだけどさ…池口ってそんな何人もいるのか?」

「2年に一人はいるな…1年とか3年まで分からへんけど」

「お?関西人?」

「俺?いや?関東人…やったと思う」


「そ、そうか………一昨日にさ、その池口ってやつ十字高のやつと喧嘩したとか言ってたり聞いたりしてねぇ?」


「十字高って?」


「十字高は?って言われても困るけどよ~…なんか知んねぇか?」

「俺ら十字高なんだけどさ…一昨日先輩が池口って奴に喧嘩で鼻折られて」


「ああ、その制服のやつと一昨日かは忘れたけど喧嘩したで」

「ん?お前が?」

「うん」


「あ~ちなみに…お前名前なんて言うんだ?」

「あ~ちなみに?」


3人はこいつバカだ!と思った

勇作が聞き直す


「えーっと…お前名前なんて言うの?」

(はじめ)


「じゃあ違うか…」

「今から桜高行くん?その前にクレープ食えば?俺奢るで♪

めっちゃ美味しいから多分帰りも食べたくなって食うんちゃう?」

「…さっきから美味しそうだと思ってたんだよな~」

「何食う?はじめてやったらクリームは絶対やし♪バニラとチョコも絶対!

バナナは嫌いな人おるからな~…とりあえずこの3つ2人分買ってきたるわ 待ってて♪」

「え?いや自分で買うぞ おいっ」


男はヨシキの声も聞かずに注文しに行ってしまった


クレープを9個持って帰ってくる

「へへへ、俺もおんなじの注文してもーた♪」


そう言って2人にクレープを渡す

「え、あ、ありがとう…」


そして男が気が付く

「あれ?ひとり増えとる!3人になっとるやん」


最初から3人だったが、コウジは影が薄いのか

ヨシキと勇作以外にはたまに見えてないんんじゃないかと思うような時がある

「よっしゃ!まぁこれ食えや 俺もう一回注文行ってくるわ~」

そう言ってまた男は注文しに行く


戻ってきて4人で座りクレープを食べる


3人はこのクレープの味に感動している

男も同じようにはじめて食べたかのように感動している


「どや?うまいやろ?もっと食べるか?」

「確かにうますぎる…」

「食えよ~ バナナ食べれるんやったらバナナも食ったほうがええで」

「ど、どうしよっかな~」

「俺バナナ嫌いなんやけどここのバナナクレープは食べれんねん♪」

「…ヨシキ」

「……ああ、今は池口だな」

「何?」

「え、だから俺ら池口ってやつに会いに来たから」

「あ~そういや言ってたな…俺も池口って言うんやけど関係あるかな?」


「…一って言ってなかったか?」

「うん 名前は一 苗字は池口 桜高2年1組 よろしくな」


「あ、あのよ~ 一昨日 山田書店で十字高と喧嘩…」

「山田書店って…本屋?」

「…ああ、1階が駐車場になってる」

「それやったら俺かも知らん…ごめ~ん」


「あー!?お前が池口かよ!この野郎」

机の上で固く握りしめた拳を支えに立ち上がり声を荒げるヨシキ


この出会ったばかりのクソいいやつが坂田君を怪我させた男だと分かり

複雑な感情になっていた


「…タイマンだこの野郎!!立てよ」


池口は手首のあたりで口を拭った後言われた通りに立ち上がる


店の前で喧嘩するわけにもいかないのでヨシキは人気のない場所を池口に尋ねる

「喧嘩できそうな場所…」

考え込んでいる池口だが思いつかない


「なぁ…ここやったらなんかアカンの?」

「ダメに決まってんじゃねぇか!」

「うちの学校の屋上は?…あっ、それか俺んちとか?」

「じゃあ屋上だこの野郎!」

「あ、ごめん 屋上はトシの所為ではいれへんようにされたんやったわ…チャリ停めるとこでもかまへん?」

「どこでもいいからさっさと案内しろや!」


4人は桜高に向かって歩きはじめる


学校までの間、池口は友達に話しかけるように喋り続けていた

傍から見てこれから喧嘩するとは誰も思わないであろう


駐輪所に案内されたが、校門から近く授業中ということもあり

邪魔される心配はなさそうだった


「なんでおまえらと喧嘩すんのんか分からんけど…まぁしょうがないか

で?俺は誰と喧嘩すればええんや?」


「俺に決まってんだろ」

これには二人も口を挟む

「おい、ヨシキ…そういやなんでお前がやることになってんだ?」

「坂田君の敵討ちならお前だけの問題じゃねぇぞ?」

「あっ…そういやそうだな」


「じゃんけんしたら?」

3人のやり取りを聞いていた池口が提案する

「よし、それでいくか…」

勝負は一回でついた


勝ったのは勇作である

チョキの形をグーの形にゆっくりと変えていく

「…俺だ」

そう言って振り返る


「坂田君の敵討ちだ…悪く思うなよ」


さっきまで自分がやると思っていたヨシキは不機嫌である

3人の誰が相手でも池口に勝ち目はないと思っていた


「チッ勇作、忘れんなよ!鼻折れよ!」


こういう形での喧嘩は経験なくいつはじめていいのか分からなかったが

勇作は鼻を折ってやるつもりはなかったし、この池口を喧嘩で倒せばそれでいいと思っていた

自分から動く気配のない池口に向かってローキックをお見舞いする


勇作は高校に入ってからは遊びに夢中で道場には通ってないが

小学生の頃からずっと空手をやっていた


ローからハイが決まったが

池口は倒れてはいない


今まで何度も喧嘩をしてきたが足を蹴られたのははじめてに近かった

しかもこんな痛い蹴りを食らったのもはじめてだった


次の瞬間顔にも衝撃が走る


足の痛みと顔への衝撃で体勢を崩したが池口は立っている


「ぐっ…足が超痛ぇ 顔と首も痛ぇし」

膝が曲がり蹴られた左足が自然と少し上がる


その足をゆっくりと地面につけその感触を確認したあと

池口は勇作の目をしっかりと見る


「おまえ強いな…いくで」


勇作はもう一発ローを入れるつもりであった

これで倒れなかったのは誤算だったが、この蹴りで勝負はつくと思っていた


蹴りの体勢、少し斜めになった身体に池口のショートアッパーが炸裂する

「ぐっ」

一瞬でくの字になる勇作


普通ならそれで終わりだが勇作も倒れない

池口はその光景を不思議に思いながらその様子を見ている


いつも一撃で倒れていく喧嘩相手たち

こいつはなぜかみんなと同じように倒れない


池口が次にとった行動は一回で倒れないならもう一回殴ればいいということだった

今度はストレートを鳩尾に振り下ろすような一撃で


勇作は今度は耐えきることができずにそのまま顔から地面に倒れこむ

うめき声をあげたまま身体を横向きにし丸くなっていく


「お、おい勇作…」

「マジかよ?」


ヨシキ以外に負けたのははじめてだった

二人もそれを知っている


蹴られた部分を揉みながら勇作を見下ろしていた池口が二人に尋ねる

「次はどっちなん?」


この一言にヨシキがキレる

「…次ぃ!?」


そう言った次の瞬間ヨシキは飛び出していた

そして池口は駐輪所のコンクリートの上を擦るように転がっていた


もうしばらく立ち上がれないであろう池口に対しての怒りと不意打ちのようになってしまったことへの自分自身に怒りを覚えていた

「くそがっ!」


勇作のもとに近づこうとしたヨシキだが

背後に気配を感じる


すぐに振り返る

深刻なダメージはあるであろうが池口が立ち上がるのである


「あ!?」

ヨシキもコウジも信じられないという表情であった


「あ~…~~~…顔があほみたいに…なっとるわ なんかボ~っとしてくる…」

立ち上がった後独り言のように呟いている


ヨシキは池口に再度向かっていく

今度こそ起き上がれないようにする為だ

右ストレートを顔面に

坂田君のように鼻を折るということはもう考えてはいなかった


今はこの男を倒すことだけを考えて


池口は上体を反らし躱す


ボッというような音が聞こえた


いつものようには力の入らない左足だがそれでもしっかりと地面を捉え

今度は池口がヨシキに向かって右フックを放つ


空を切ったヨシキのストレート、池口のフックはそんな体勢の崩れかけたヨシキの顔面にめり込むように炸裂する


ゴチャっという音を立てヨシキは後ろに吹っ飛んでいく


完璧に決まった攻撃にヨシキは意識を失ってしまっている


「よし、次!…あ、どうする?」


コウジはヨシキまでやられてしまって放心状態になっている


「おい?…どうする?もう喧嘩終わりでいいんやったら俺そいつおんぶして送ったるけど」

「あ…いや…お、俺が担いで帰るわ」


「キックの兄ちゃん立てるか?」

手を差し伸べる池口


自分の力だけで立ち上がり壁にもたれ掛かる勇作


コウジはヨシキを背負い、歩くのもままならない勇作と共に

ゆっくりと帰っていく


ヨシキはコウジの背中で意識を取り戻したが

桜高はもうすでに遠く離れていた

エンディング曲イメージ

ジェット機

「ドーム」

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