ナインボール #1
オープニング曲イメージ
JUN SKY WALKER(S)
「Saturday Night」
5月8日
桜西高校
入学式からひと月ほど経った月曜日の2時限目
朝からもう何度目の確認になるのか曇り空を一瞬眺めては
視線を黒板に向ける
机の上には教科書と名前だけが書かれた真っ新なノートと
シャープペンシルだけが置かれている
視界に入った隣の席の北浦が授業中とは思えないような笑顔で赤城を見ていた
その笑顔に釣られ一瞬笑って何も書かれていないノートに視線を戻す
北浦は授業がはじまってからは時計を見ては数分しか経ってないのを知って
その度に落ち込んでいる
机の上には1時限目に出したままの教科書だけが開かれて置いてある
40回目くらいの時計確認で授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く
「シャー!終わった~」
昼休みまであと2時限もあるのに北浦は本当に嬉しそうにしている
授業が終わり生徒たちはこの短い休息を1秒でも楽しもうと席を立ち
友達の席に集まり出している
教室の後ろのドアから後輩の名前を呼びながら入ってくる男
「お~い、アカギ~、キタウラ~、飯いこ♪」
「えっ?いや…先輩、昼飯っスか?」
「まだ昼休憩じゃないですよ…」
北浦と赤城に言われても信じられないというような顔をしている
「え?マジ?嘘やろ?もうこんなに腹減ってるんやけど…」
授業中の北浦の100倍くらい落ち込んで溜息を吐く先輩に別の話題を話しかける
「昨日先輩駅で桜華の奴ら3人ぶっ飛ばしたんスか?」
落ち込んだままの先輩がめんどくさそうに答える
「桜華かどうか知らんけど…3人ちゃうよ。5人おったけど二人やで二人」
赤城と北浦が先輩と呼ぶこの男の名前は池口一
2年前に関西から越してきた
「あ~、も~飯のことしか考えてへんかったからこれからどうしよ?」
赤城尚弥、北浦宏
幼稚園の時からのコンビで喧嘩では負け知らずだったが
入学してすぐに他校の2年生と喧嘩になり、はじめての敗北を味わっている
その時通りかかった池口に助けられてから池口のことを慕っている
「はぁ…んじゃまた後で」
授業開始のチャイムが鳴りフラフラと自分の教室に向かう池口の背中を
見送りながら二人はあの日のことを思い出していた
高校に入学した二人は、はじまったばかりの高校生活を楽しんでいた
その日ゲーセン帰りに桜華工業の生徒に声をかけられた
「お~、おまえら桜高の一年?」
「はい、そうっスけど…」
北浦が返事すると同時くらいに胸ぐらを掴まれる
「桜高の一年坊主がこんなところで何してんだ?」
「別に…ゲーセンで遊んでたんスけど」
北浦は掴んでいる手を離そうとする
「あ?」
男の掴む力が強くなる
「…池口って知ってるか?おまえらんところの馬鹿大将の」
「いや、知らないっス…」
簡単に外せるだろうと思っていたが相手の腕力が強く
力だけではこの手をどうにか出来そうになかった
相手は3人
北浦はもうやっちゃおうかな~と赤城の方を見る
赤城は北浦と違い喧嘩を好まないので出来るだけ避けたいと思っているのを
分かっているが、我慢の限界に近かった
一人の男が赤城に近づいてくる
「お前ずっと黙ってんのな?」
「…」
赤城は相手の目をまっすぐに見つめ、謝って済むのならいくらでも謝るし
やるしかないのなら仕方ないと思っていた
「気に入らねぇな」
「すみません、池口って人の事は知りませんしこ」
言い終わる前に赤城は不意に顔面を殴られてしまいその場に倒れこむ
北浦は殴られた赤城を見てブチギレ、掴んでる男の事を忘れて
赤城を殴った男に殴りかかろうとするが、北浦も膝蹴りを喰らってしまう
形勢不利なままはじまってしまった喧嘩だが、赤城も北浦も喧嘩には自信があり
それだけの実力もあった
が、この3人が二人の想像してたよりも遥かに手強かったのである
3人の方もこんな一年坊がここまで強いとは思ってはいなかったが
不意打ちからはじまった3対2では二人に勝ち目はなかった
何度も殴られ蹴られた二人だが、こんな奴らに負けたくないという一心だけで
なんとか立ち上がり、勝利を諦めてはいなかった
舐めきっていた一年生に手こずり息もあがってきた頃
ゲーセンの駐車場前を通りかかる桜高の生徒を見つける
「オラ池口ィ!」
一人が声を上げる
池口と呼ばれた男は友達に呼ばれたと思い小走りで駆け寄ってくる
「おっす♪」
近寄ったのはいいが見覚えがなく誰やっけ?と考えこもうとする池口に
するどく殴りかかる
「うっわ!なんなん?」
避けつつ何が何なのか分からない池口は殴られボロボロの二人に気が付く
「え?誰?めっちゃやられてるやん大丈夫?っつーかおんなじ学校やん?
あれ?もしかして一緒のクラス?」
早口でまくし立てたあとボディに一発強烈な一撃をもらう
「うっ」
思わず声が出てしまう
そのままの勢いで今度は鼻を殴られ
出血はなかったが、涙が出てきそうになっている
「いっってぇぇ」
気合で立ってはいるが池口と呼ばれる今まさにボコられそうになっている男を
見ているだけで精一杯の二人が次に見たのは
左手で鼻を押さえたまま3人を軽く殴り飛ばす池口の姿だった
運が良かったというべきなのか三人は気を失う事が出来、
そのまま目覚めることがなければ
三対一ではあるが池口に喧嘩で勝ったと思っているだろう
「だいじょ~ぶかぁ?」
池口に声をかけられた二人だが少し遅れての返事になる
「ありがとう、ございます…大丈夫っス」
3人にボコられた二人は大丈夫そうではなかったが池口は素直に安心したようで
「お~良かった♪怪我がなくてなによりやな」と本当に嬉しそうに笑っている
受けた痛みほど大した怪我はしていないのかと二人はお互いの姿を確認したが
やはり思った通りのボロボロ状態であった
いきなり絡まれはじまった喧嘩も池口の登場により終わり、
殴られた顔がズキズキと痛み出したが池口が笑顔で話しかけてくる
「俺、今飯食ってきたところなんやけど一緒にご飯でも行く?俺奢るし♪
なんか食いたいもんとかないの?」
口の中も痛み食べる気にもならない二人は顔を見合わせる
「遠慮すんなよ♪ひとりで食べても美味しいけど
みんなと食べたらもっと美味しいぞ♪」
遠慮しているわけではなかったが池口の妙に心地よい強引さに
二人は自然と一緒にご飯を食べに行く事になってしまった
二人がどこで、何を食べたいのかを言わないので池口おすすめの店で
食べることになり二人は後をついていく
その店とは池口がゲーセン前を通りかかる前に食べていた店であり、
週に3回は通っているファミレスであった
ウェイトレスはあれだけ食べて帰ったばかりなのにまた来た池口と
怪我をしている二人に驚いてしまう
「い、いらっしゃいませ…あ、あのお怪我は大丈夫でしょうか?」
池口は二人のことだとは思わずにさっき殴られた鼻の事を
心配してくれていると思い嬉しくなっている
「うわ~嬉しいなぁ♪でも大丈夫!血出てないし♪」
(いやあんたじゃない)と声に出してしまいそうになったが
後ろで二人が(大丈夫っス)とうなずいているのを見て
心配しながらも席へと案内してくれた
席に着くなりメニューを見ながら二人に尋ねる
「っつーかおまえら誰なん?」
池口の言う誰とは名前はって意味であるがいきなりの質問に
二人は答えることができなかった
「俺は桜西高2年1組の池口
みんなからは池口って呼ばれてんねん よろしくな♪」
それを聞いて二人も自己紹介を始める
「…桜高1年の赤城です」
「同じく1年の北浦っス!よろしくお願いします」
「アカギとキタウラか…何組?」
組まで聞かれた二人は1組と答える
「一緒やん~♪」
組が一緒で何が嬉しいのか二人にはまったく分からなかったが
笑顔の池口に対して二人も自然と笑顔になっていた
驕りだとは言われているが自分でお金を出すつもりでいた二人は
食欲はなかったが注文を決める
池口の注文を聞いて二人は驚いたが出会ってからのこの短い時間で池口が
どんな男なのかがなんとなく分かり始めていた
テーブルに運ばれてくる料理を幸せそうに食べている池口
痛む口で味もよく分からない二人だったがこの時の食事は楽しかった
なんとか食べ終わった二人だが、池口はまだ食べ終わっていない
二人と出会う前にステーキセットとハンバーグセットにアイスクリームを食べたばかりだが
チーズハンバーグセットとさっきも注文したステーキセットを注文していた
「あの…そんなに食べて大丈夫なんですか?」
「ん?逆にそんなんで足りるん?もっと注文してええんやで♪」
「いや…僕ら普通にお腹一杯っス」
池口も食べ終わり店を出る
二人は自分らの分は出すと言ったが池口は奢るって言ったやろ?
あれ?言ってなかったっけ?なんて言いながら二人の分も払ってくれた
店を出た二人は先輩に礼を言う
食事をご馳走してくれたこと、さっきの喧嘩で助けられたこと
「先輩、あの…ごちそうさまでした」
「先輩!ごちそうさまです」
「先輩?」
そう呼ばれた池口は顔がにやけてしまっている
「先輩ってか!?」
今まで先輩などと呼ばれた事のない池口にとってはじめての経験であり
今まで味わったことのないような快感に震えていた
「お、おう、後輩、ま、また一緒に飯でも食おうぜ♪じゃ、じゃあな」
「あ、ありがとうございました」
あまりの嬉しさにどうしていいのか分からず背を向けて片手をあげてバイバイをする
これは池口がカッコいいと思ういつかやってみたかった仕草で別れを告げる
ちゃんと見ているか心配だったので何度も振り返る
「…池口さんってなんかスッゲーバ……楽しくて面白そうな人だな」
「あ、ああ…」
そして二人は赤城の家で今日出会った強烈な先輩のことを話したり、
いつものようにゲームをして過ごしていた
4時限目が終わり待望の昼休みになった
二人は階段を降り、池口の教室へと向かうのも慣れたものだ
「こんちは」
軽く挨拶をしながら池口の席に向かう
「こんちわっス 先輩、飯行きましょ」
北浦が空腹で授業中もきっとこのままだったであろう机に突っ伏した池口に話しかける
飯行きましょの声で飛び上がるように立ち上がると
池口は二人の腕を掴んで引っ張るようにして教室を出ていく
池口の前の席の飯島彩がやっと教室から池口が居なくなったことを
喜んでいる
彩にとって甘いものを食べることの次に幸せなことである
池口の隣の席、菊田真希がバックから弁当を取り出し
イスを彩の席まで移動させる
「今日は池口君大人しかったじゃん?つーか死んでた?みたいな(笑)」
「うっさいとかそんなの関係なく一緒の教室ってだけで最悪なんですけど!?」
「いや~実は結構寂しかったりしてるのかな~?なんて思ってたよ(笑)」
「やっと居なくなったんだしアイツの話なんてしたくな~い」
彩はこの束の間の休息を楽しみたいと思っている
彩がここまで池口のことをウザがるのにはちゃんと理由がある
2年になってクラス替えがあり後ろの席になった池口は彩に一目惚れ
授業中はもちろん休み時間も教室に居るときは常に彩に話しかけている
話しかけているというより一週間も経たないうちから無視され
独り言のようになっているがお構いなしだ
それでも甘いものには目がない彩は池口と田真希、たまに赤城・北浦も一緒に
放課後甘いものを食べに行ったりしている
池口が美味しいものを見つけるのが天才的だからである
「彩!めっちゃ美味しいケーキ屋さんみっけたで♪」
この時ばかりは彩も無視できない
行ってみると本当に美味しく彩にとっては池口が神様のように思えてしまう
そんな店を次々と探してきては一緒に食べに行くのである
中でも2週間ほど前に池口に教えてもらった移動式のクレープ屋さんがお気に入りで
この2週間毎日欠かさずクレープを食べ続けている
桜高から少し距離があり昼休みに買いに行けないのが唯一の不満である
彩がクレープの事を考えながらお弁当を半分食べ終わった頃、池口たちは
学校近くの定食屋に着き、いつものメニューを注文していた
「腹減った~おっちゃんいつものヨロシク♪」
赤城と北浦はこの店はまだ5回目くらいだが、池口は1年の頃から通っている
「池口君、俺まだ二十歳なんだけどね」
そう言いながら注文を聞きに水を持ってやってくる
「今日は親子丼にスっか」
「え~っと俺は…とんかつ定食お願いします」
注文を終え北浦が池口に尋ねる
「先輩昨日の喧嘩詳しく教えてくださいよ?」
「昨日の喧嘩って?」
「駅で桜華の奴らと喧嘩になったって話っスよ」
「あ~あれな」
そう言って昨日のことを思い出しながら二人に話しはじめる。
日曜夕方池口が駅前にあるラーメン屋から出てきたところを
5人組の男に声をかけられた
「池口?」
「あ~っぽいな」
「これ絶対池口だろ(笑)」
「マジ制服着てる(笑)」
「おう、俺池口やけどお前ら誰やねん?」
「腹痛ェ(笑)」
「なんで休みの日に制服着てるんだよ(笑)」
「え?だって俺高校生やし休みとか関係ないし」
さらに爆笑する5人を不思議に思いながらも池口も釣られて大笑い
「お前アホすぎんぞ(笑)」
「そうか~?そんなことないと思うけどなぁ…」
何を笑われて馬鹿にされているのか分からずに困っている池口に
リーダー格の一人が詰め寄る
「喧嘩強いんだって?」
「喧嘩やったら今までいっかいも負けたことあらへんよ♪」
桜高に入学してすぐに2年の松本礼二に負けたが
その事は忘れているようだ
「…1週間くらい前うちの奴ぶっ飛ばしただろ?あれ俺らのダチなんだわ」
必死に思い出そうとしているが思い出せない池口に更に二人が詰め寄ってきている
「1週間も前って何食ったかも覚えてへんのに…」
「メビウス前で喧嘩なっただろーが!!」
メビウス(桜華近くにあるハンバーガー屋の前にある本屋)と言われやっと思い出した池口
「あ~!あれか、あれはアイツらが悪いんやで いきなし金貸せとか出せとか言って
ここ掴んできて殴ってきそうになったんやから」
「んなの関係ねぇよ」
「いや関係はあるやろ~」
「斉藤もうやっちまえよ(笑)」
一人がそう言うと斉藤と呼ばれた男は池口を人気のないところに連れ出そうとする
「もういいからこっちこいよ…」
右手で胸ぐらを掴まれ引っ張られる池口だがビクともしない
「ちょっ服引っ張んなや~」
腕力にも自信のあった斉藤はこのビクともしない池口に驚いてしまい
その場で利き腕ではない左腕で殴りにかかる
掴んではいるものの利き腕ではない左では満足な攻撃ができるわけもなく
池口には大したダメージを与えることはできなかった
自慢の右腕でも池口を倒すことはできなかったと思うが
「いてっ」
殴られた反動で顔の向きを変えた池口はゆっくりと顔の向きを真正面に向け
そのまま反動もつけずに斉藤の顔面に頭突きを一発
それで終わり
斉藤はもう立ち上がれない
あの斉藤が一発で?
残りの四人は同じことを思っていた
斉藤の強さはよく知っている
斎藤が一緒にいるから怖いものはなかった
自分まで強くなったように思えて俺達は無敵だと思っていた
どうしていいのか分からなくなり
そのうちの一人が無謀にも池口に向かって行ってしまう
大振りのフックのような右ストレートを繰り出すが
池口はひょいと避けて腹に一発
これでお終い
あまりの激痛に呻くことしかできない二人と固まってしまう三人
「これで終わり?もう帰ってもええのん?」
残った三人は誰も口を開かない
「帰んで?……バイバーイ♪」
「昨日駅で~えっと…二人ぶっ飛ばした」
「え?…そ、そんだけっスか?」
「うん…しかしなんでこの店はメニューに写真載せへんのやろな?
店の前ににせもんのご飯とかも置いてないし…」
「あの…なんで喧嘩になったんですか?」
「分からん…俺はいつも分からん
なんでこんな喧嘩売られたり殴られたりすんのやろ?」
沈黙してしまう二人に何かまずいのかと思い
もう少し詳しく話す必要があると思い頭の中で軽くまとめてから話はじめる
「昨日な 駅で 笑われて…そんで…え~っと…どっか連れて行かれそうになって…
殴られそうになってっていうか殴られてんほんで殴り返してって感じやな うん」
やっぱりさっぱりわからない二人だが妙に満足そうな池口を見てもう何も言えなくなる
「…そうだったんですね」
「あ、ありがとっス」
外に食べに行く時点で5時限目には間に合わなくなりサボってしまう事になるのだが
池口はまったく気にしていない
この後クレープ屋に行き、彩達にお土産を買って帰る予定である
いつものと呼んでいる池口専用大食いメニューを食べ終わり会計へ
赤城達の分も池口が払い店を出る
「先輩いつも奢ってもらってばかりで…あの申し訳ないです
今度こそ僕らにごちそうさせてくださいよ」
「そうっスよ マジお願いします!」
「そんなん気にしてくれんなよ~♪お前らと飯食うのめっちゃ楽しいんやからさ~♪」
クレープ屋に向かう途中で北浦が池口に質問をする
「先輩、この前言ってた礼二さんの事なんスけど」
「げ!…俺またなんか口滑ったっけ?」
「なんか礼二さんがナンバーツーとか言ってたじゃないっスか」
「…礼二さんが桜高の頭じゃないんですか?」
「あ~♪ツーボールの事ね」
「ツーボール?」
「ナインボールって知ってる?」
「え?ビリヤードのですか?」
「いや、それは分からんけど…ツーボール」
まさかと思い聞いてみる
「それってあの…もしかしてナインボールってグループのメンバーって事っスか?」
「そう、そんな感じ…それの今のツーボールがレイジ君なんよ」
「えーー!マジっスか!?ツーボールじゃなくて、に、2番ボールっスよね?」
これには声には出さなかったが赤城も驚いている
「耳痛いわ!おっきい声出すなや…」
ナインボールと呼ばれ、伝説というと大げさすぎるが
喧嘩が強すぎる男たちの集まりであり
北浦のようなやんちゃな少年が憧れている存在である
結成された当時9人だったが
5人の時も3人の時もあったのではあるが
そのメンバーという事で赤城たちは驚いているのである
「礼二さんがナインボール!?」
「そんなに凄い人だったなんて…」
「え~あんなん大したことないって♪いつもクールにカッコつけてるだけで…」
その礼二に負けたことを忘れて馬鹿にしていつも殴られている池口
「せ、先輩にナインボールがいるとか凄すぎるよな!?」
「ああ、礼二さんにいろいろ聞いてみようぜ」
クレープ屋に着いたが二人は興奮しているようだ
「ま~た授業サボって買いに来たの?学校終わってからにしてよ~
そのうち営業停止させられるかも」
「大丈夫やって♪昼休み中やっちゅーねん!」
池口にとっては昼休みは終わってないが、定食屋で食事している頃には
5時限目がはじまっている
「お前らどれにする?俺はクリームとチョコとイチゴとチョコバナナ♪」
返事はない
「…お、おい?何すんの?」
肩をちょんちょんされてやっと池口に気が付く二人
「あ、ど、どうしたんスか?」
「いや、お前ら何食べるん?」
「えっと俺はお腹いっぱいなんで…」
「あっ俺もお腹いっぱいっス」
二人の頭の中はナインボールでいっぱいになっている
「遠慮してんとちゃうやろな~?」
「してないですよ…っていうかごちそうさせてくださいよ」
「今日こそ俺らが払いますから」
「いいって♪もうそんな事言われただけで奢ってもらったみたいな気分やわ♪」
「晶さん♪彩と田真希っちのおみやにクリームとイチゴ3個ずつ♪
…で足りるかな?どう思う?」
「田真希ちゃん2つも食べられないんじゃない?
…彩ちゃんは5つでも6つでも食べちゃうだろうけど…」
「せやけど二人一緒のほうがええくない?お前らはどう思う?」
二人はまったく聞いていない
「ちょっお前らどうしたん?」
「え?それじゃあ帰りましょうか」
「いや、まだ食ってへんし注文も終わってへんぞ」
「あ…すみません」
「なぁ、彩にお土産どれくらい買っていったらええと思う?」
「…いつもと同じがいいんじゃないですか?」
「ないすあいであ♪それでいこ」
「晶さん、クリーム3つにイチゴも3つ♪」
その場で食べれるようにイスと机を用意してくれてあるので
そこで池口はクレープを食べはじめ、食べ終わるとお土産を持って
やっと学校へ戻るのである
「も~次からは学校が終わってからにしてね…」
「ほーい♪また明日も昼に来るかも~」
「…」
学校に着いたのは6時限目がはじまった後であった
「じゃまた後でな♪」
「先輩ご馳走様でした」
「ごちそうさまでした」
そういって二人は3階の教室に走っていく
池口はのんびりと2階に向かう
お土産のクレープを持って
いつものように6時限目の途中に教室の前のドアを開けて入ってくる池口
遅刻だろうがなんだろうが最短距離だ
彩はいつも見向きもしないが自分の席に近づいてくるクレープの匂いには敏感だ
甘い香りを目で追っている
「彩~♪今日はクリームとイチゴにしたけど他のが良かった?」
「クリーム♡苺♡」
ほいと自分の分と彩の分を取り出し手渡す
「クレープ♡」
残ったクレープを袋ごと真希に渡す
「ありがとっ♪」
田真希も彩ほどではないが甘いものが好きで喜んで受け取る
授業中にさえ食べなければ先生も注意をしなくなった
池口は注意されないとすぐに食べてしまいそうになるが
授業が終わってから彩たちと食べるのが楽しみなので我慢できるようになってきている
授業が終わるまで池口はずっと彩に話しかけているが
彩はクレープを食べることしか考えてないのでほとんど話は頭に入ってはきてないが
無意識で返事をしているのでなぜか会話が成立している
授業が終わり起立、礼をしたあとは池口にもらったクレープにかぶりつく
彩の真正面に移動して本当に美味しそうに幸せそうな顔をして彩が食べるのを見ながら
池口もクレープにかじりつく
そんな二人を見ながら遅れてクレープを食べ始める田真希
田真希が食べ始める頃には池口は二つ目を食べ終わりそうになっている
他の生徒からは見慣れた光景になりつつある
「幸せ♡クリーム最高♡」
一つ目を食べ終わった彩は続けて二つ目に手を出す
「苺ちゃん♡大好き♡」
二つ目を食べ終えた頃担任が教室に入ってきて
軽く話をした後、掃除当番以外の生徒たちは帰ったり部活に行く準備をしたりしている
「彩…食べる?」
「田真希食べないの?もらっちゃうよ~♡きゃ~クリーム様~♡」
田真希はダイエットというわけではないが一つで十分満足なので
結局彩が3つ食べることになる
美味しそうに食べている彩を見てお腹が空いてくる池口
「なんか腹減ってきたな…なんか食べに行く?」
「…池口君お昼いっぱい食べてきたんじゃないの?
しかも今クレープ食べたばっかなのに」
「うん、食べたけどもうお腹空いてきたかも♪」
「先輩!礼二さんとこ行きましょうよ」
北浦と赤城が教室に入ってくる
「いや、今なんか食べに行こかって話してたんやけどお前らも行こうや」
「た、食べたばっかりでお腹いっぱいっスよ」
「先輩…まだ食べようと思ってたんですか?」
彩はクレープを食べ終わり幸せそうな顔をしている
「彩~♪なんか食べに行こ」
「ふ~、あ~美味しかった♡さて田真希カラオケにでも行こっか?」
「お、カラオケか♪まぁカラオケでもええか♪」
「はぁ?アンタは赤城君たちと遊びに行きなさいよ!田真希行こっ」
「あっ彩 い、池口君…じゃあね」
池口から逃げるように教室を出ていく二人
「先輩…お邪魔しちゃったっスか?すいませんス」
「そ、そんなことより礼二さんとこ行きましょうよ」
後輩にお願いされて仕方なく礼二のところに遊びに行くことになるのである
エンディング曲イメージ
ジェット機
「ドーム」