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コンコンコン...

「失礼致します、お嬢様。お夕飯の準備が整いました。」

「んっ、むー、マリアンネ?」

「はい、お嬢様。」

「私、いつの間にか寝てしまったのね。ふぁー。よく寝たわ。」

「ギルベルト様のお相手をなさるのは大変ですから仕方ありません。」

「そうね...ギルベルト様には悪いけれど、とても疲れてしまったし、もうしばらくは会いたくないわね...」

「今度おいでになられましたらお帰りいただけるよう使用人達に通達を出しておきます。」

「皆の仕事を増やすようで悪いのだけれどお願いするわ。私は体調が悪いとでも言ってくれて構わないから。」

「かしこまりました。」

私はマリアンネとギルベルト様に会わなくてもいいように口裏を合わせるお願いをして食事をする広間に入りました。

テーブルには我が家自慢のシェフご腕によりをかけて作った美味しそうな料理がところ狭しとのってました。

「寝ていたのか?」

「お昼にギルベルト君が来ていたのでしょう?体力がまだ戻っていないのだから長話はいけないわ。」

「へぇー?ギルベルトが来てたんだ。知らなかったなー。今度来たときは僕がマリーシャの代わりに相手をするから僕にも声を掛けてよ、マリアンネ。」

「お父様、お母様、お兄様。お待たせして申し訳ありません。少しばかりお話しが長くなってしまって、疲れてしまいましたの。次からは気をつけますわ。それと、お兄様。ギルベルト様は私にご用があるのですからわざわざお兄様がお相手なさらなくていいですわ。」

「申し訳ありません、お嬢様がこうおっしゃられていますのでアシュルール様にお任せすることは出来ません。」

「ギルベルトの用事なんてどうでも良いことばかりじゃないか。何があっただの、これが出来るようになっただの。僕の愛しいマリーシャに言いに来る必要なんてないのにさ。この前家に来たときだってそうだったじゃないか。初めて海まで遠乗り出来たとか、カイザール伯爵のお屋敷は元々海に近いんだから遠乗りとは言えないよ。」

「アシュルール、ギルベルト君はまだ5歳なのだからお屋敷から海辺まで行くのだって立派な遠乗りになるわ。そんな厳しい事を言ってはいけませんよ。」

「ミシェル、アシュルールは元々ギルベルトが好きではないから厳しくなるのは仕方あるまい。アシュルールは私達よりもマリーシャを大事にしているのだからな。」

「当たり前ですよ、父様。僕はマリーシャを大事に思っているのですから。僕が認める奴じゃないとマリーシャには近づけさせません。何処の馬の骨とも知れぬ様な奴は論外です。特にギルベルトみたいなやつとか。」

「マリーシャの結婚が遅くなったらアシュルールのせいだな。」

「アシュルール!ギルベルト君を馬の骨だなんて言うんじゃありません!...はぁ、マリーシャの嫁ぎ先よりアシュルールのお嫁さんを探す方が大変です。この妹第一主義を受け入れてくれる心の広いおおらかな娘を探すのは至難の技ですわ。」

「私も同感ですわ、お母様。お兄様のお嫁さんを探すのは難しいと思います。お兄様は私から少し離れないとお嫁さんの来てがありませんわ。」

「僕の可愛いマリーシャから離れるなんてありえないよ!離れている間に変な虫がついたらどうするんだよ。特にギルベルトとか。」

「......お兄様、ギルベルト様は馬の骨でも虫でもありませんわ。会うたびに私に突っ掛かってらっしゃいますもの。」

「いいかい、マリーシャ?男というのはいきなりケダモノに変わる生き物なんだよ。油断してはいけないね。」

「アシュルール!マリーシャにそんな事吹き込まないの!次にギルベルト君に会ったとき怖がったりしたらどうするの?可哀想でしょう。」

「僕としては、マリーシャが怖がってギルベルトに会わなくなったら万々歳だけどね。」

「まったくもう、この子は...笑ってばかりいないでアンドール様からも言ってやってくださいな。」

「ん?まぁ、いいんじゃないか?まだ二人とも幼いのだから。婚約者を探すのはまだまだ先の話だしな。それよりミシェル。あまり小言ばかり言っているとシワが増えるぞ?」

「アンドール様!!」

食事をしながら、家族の話を聞きつつ私はお兄様の言った驚きの可能性について考えていました。

もし、ギルベルト様が私に突っ掛かってくるの理由が恋心を抱いているからだと仮定するとしたらそれを止めるにはどうすればいいのでしょう?恋心を無くせれば突っ掛かってくる事がなくなるのは想像つきますが、その過程が思い付きません。大体恋心を抱いている相手にあそこまでひどい事が言えるのでしょうか?少なくとも私には言えませんわ。一体どうすれば...

考え込んで食事が止まってしまった私を隣からお兄様が心配して覗き込んできました。

「どうしたんだい?マリーシャ。デザートのクランベリーケーキが美味しくなかったのかい?」

「なんだ、マリーシャ?アシュルール以外にも悩みの種があるのか?」

「体調が優れないの?マリーシャ?」

「いいえ、お兄様。クランベリーケーキはとっても美味しいですよ。体調の方は大丈夫ですわ、お母様。心配をかけてしまってごめんなさい。ただ考え事をしていただけですわ。」

「考え事か...何をそんなに考え込んでいるのかな?マリーシャ。お父様に話してごらん。」

「......実は今日ギルベルト様が将来の為に色々と努力をなさっているとお話ししていたので私も将来の為に何かしなくてはいけないと思ったんです。でも何をするべきなのか思いつかなくて...それで考え込んでしまったんです。」

「ふむ、お嫁に行くための習い事はまだまだ先のことなのだが、本人にやる気があるのであれば話は別だな。ダンスとマナーの教師(カティー)を探してみようか。」

「父様、僕もマリーシャと一緒にダンスとマナーのレッスンを受けてもいいですよね?」

「あぁ、もちろん構わないが、今習っているものをサボらないのであれば許そう。」

「分かりました、完璧にこなしてみせます。」

「二人とも先生(カティルナ)の言うことをよく聞いてお行儀良くするんですよ。」

「はい、母様。」「分かりましたわ、お母様。」

ギルベルト様の恋心をどうやったら無くせるのかどうかを考えているなんて言えなくて咄嗟に嘘をついてどうにか切り抜けることは出来たけれど、ダンスとマナーのレッスンを受ける事になってしまいましたわ。

この世界の貴族のご令嬢は8歳からダンスとマナー、教養を学び、13歳でお披露目会(ナイトパーティー)に参加して、14歳で皇国国立学術学園に入学。18歳で卒業するのが一般的です。

ご子息の方も8歳から学び始める方が多いのですが、お兄様は5歳から剣術、戦術、乗馬、帝王学を学んでいらっしゃいます。お兄様も将来はお父様の後を継いで国防大臣になりたいそうですが、その前に国防軍に入って騎士にならなければならないらしく、毎日大変そうです。

レッスンすることが決まった後、私はデザートを食べて部屋に戻ました。

机に向かい、椅子に座って薔薇園(ローズガーデン)の設定などを覚えているだけ書き詰めたノートを開き、今日あったことやギルベルト様が恋心を抱いているかもしれないこと、レッスンが決まったことを書き記しました。

「ゲームではマリーシャがいつからレッスンを受けていたかなんて描かれてないから確かな事は分からないけれど、多分5歳からではないわよね?この事もイレギュラーになるのかしら。...ギルベルト様もお兄様も薔薇園(ローズガーデン)では攻略対象ではなかったけれど、もしかしたらこのイレギュラーで攻略対象になっているかもしれないわ。沢山あった渚のコレクションには幼なじみや実兄が攻略対象。というのは沢山ありましたし、性格はともかく見た目は二人とも格好いいですもの、ありえない話ではないかもしれない。...それにしても、仮定の話ではあるけれど、もし本当にギルベルト様が私に恋をしていてその結果があの態度だとしたらどうすればいいのかしら。恋をしたきっかけは?一目惚れとか?んー、最初からあの態度だったからなくはないかもしれないけれどだとしたら余計にどうすればいいのか分からないわ...はぁ...」

解決の糸口が見つからず、たださらにこんがらがった問題に深くため息をつきながら考えるのに疲れた私はマリアンネにお風呂と着替えを手伝ってもらいその日は考えるのをやめて就寝することにしました。

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