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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ファンタジーっぽいやつ

俺を殺した君と

作者: 鈴本耕太郎

 長い長い戦いが、今終わろうとしていた。

 勇者と魔王、それぞれが同時に放った神速の剣技。一瞬の間に幾重もの攻防を重ねた技の終わりは、奇しくも両者が同じタイミングで用いた破壊力抜群の突きだった。

 それぞれの剣はまるで吸い込まれる様に、互いの胸へと突き刺さった。


「「これで終わりだ」」

 言葉が重なる。

 ここまでまるで図ったようにピタリと同じ行動をしていた二人が、別々の行動をとった。

 魔王は剣から雷の魔法を放ち、勇者は魔王に刺さったままの聖剣を捨てて重傷を厭わずに強引に後ろへと跳んだ。

「マリア今だ!!」

 剣による刺し傷と雷魔法による痺れでボロボロになりつつも、勇者の目はしっかりと魔王を見つめたままだ。

 そんな勇者の執念に応えるように、勇者から名前を呼ばれた聖女が叫ぶ。

「任せてください!」

 同時に杖を掲げ、詠唱を終えていた禁呪を放つ。

 それは世界中の人々から少しずつ集めた祈りの力を集約し、聖女としての全ての力を上乗せした強力な魔法だ。さらに魔王に刺さったままになっている聖剣を代償にする事で、その威力は数倍にも膨れ上がる。

 まさに最初で最後の切り札である。


「どうして……」

 目の前の光景に魔王が唖然と呟いた。

 聖女が放ったのは、肉体だけでなく魂ごと消滅させる究極の魔法。

 ほんの少しでも制御を誤れば、反転し自らが消滅してしまう程、危険なモノだった。それでも聖女である彼女は魔法の行使に踏み切った。

 魔王を倒す為に。

 人類の繁栄の為に。

 そして何より、自分を信頼してくれた勇者の為に。


 雲が割れ、天から降って来た光の柱が魔王を包んだ。

 それは浄化の光。

 本来なら輪廻へと回るはずの魂を、人の力でもって強制的に消滅させる神をも恐れぬ御業である。その代償として、世界中の人の祈りの力と聖女としての力の全て、そして世界に一振りしか存在しない聖剣を捧げた。

 その力は果てしなく強大で凶悪で、同時に神々しかった。

 恐るべき力の奔流に触れた魔王は、耐えられない程の苦痛を味わう事となった。

 そして、まるでこの世のモノとも思えぬ悲痛な叫びを上げながら、ゆっくりと消滅した。


「勇者様!」

 駆け寄って来た聖女に向けて勇者は微笑んだ。

「マリアありがとう。よくやってくれた」

「はい、勇者様のおかげです」

 そう言って勇者の身体に、残り一つとなった霊薬を振りかけた。瞬間、かけた場所からそれまでの傷が嘘のように消えてなくなった。


 二人は、荒野と化した地面の上に並んで寝転んでいた。

 最後に放った魔法の影響だろうか、それまで立ち込めていたはずの分厚い雲が綺麗になくなっている。清々しい程の青空が広がり、数羽の鳥が優雅に飛んでいた。

「終わったな」

「はい」

 顔を見合わせ、互いに笑った。


「最後は呆気なかったな」

「はい、でも勇者様が無事で本当に良かったです」

 共に戦った仲間は、皆死んでしまった。

 残ったのは勇者と聖女の二人だけ。

 だからこそ、聖女は余計に安堵した。

「――ありがとう」

 目に涙を浮かべる聖女の頭を、勇者はくしゃくしゃっと撫でたのだった。


 立ち上がり、二人はゆっくりと歩き出した。

 戦いは終わった。

 これからは戦いで失ったモノを取り戻し、一刻も早く幸せな生活を取り戻さなければならない。魔王を倒したばかりだと言うのに、二人はすでに未来を見据えていた。

「これからが大変だな」

「はい、でも勇者様と一緒なら頑張れます」

「俺もマリアが一緒だと心強いよ」

「素晴らしい世界にしましょうね」

「ああ、俺好みの最高の世界にしてみせるよ」

 そう言って勇者、いや元魔王は黒い笑みをこぼしたのだった。






 あの時、互いの剣が刺さった瞬間に魔王は賭けに出ていた。

 それは万を超える命を代償に使用出来る、魂を入れ代える禁術だった。

 戦場となった場所に事前に魔法陣を仕込んでいた事で、代償となる命は容易に集まった。後は発動のタイミングだけが問題ではあったが、最終決戦の直前に勇者に近しい仲間を捕らえられたのが功を奏した。

 彼から引き出した記憶のおかげで、こうして勇者に成り代わる事が出来たのだから。


 魔王である彼は人間を恨んでいた。

 くだらない理由で戦争を仕掛けてきた彼らが嫌いだった。

 何の罪もない民達を苦しめ、犯し、虐殺したクズ共を許せなかった。

 大切な家族を奪った奴らにこの手で復讐したかった。


 今はもう、この世界に魔族はほとんどいない。

 人間達に殺されてしまったから。

 残った魔族はどこかに隠れ住んでいるか、そうでなければ奴隷にでもおとされている事だろう。

 もうこの世界に魔王はいらない。

 民を失った王等、存在する意味がないのだ。

 だから魔王であった彼は、自らを殺させた。


 全ては人間に復讐する為に。


 

 彼はすぐ隣で幸せそうな顔で笑う少女を見た。

 いや、それは少女の顔をした悪魔だ。

 神のお告げ等と馬鹿げた事を言いだし、一番最初のきっかけを作った大罪人である。

 

 簡単には許さない。


 これから行う復讐を思い描き、彼はほくそ笑む。



 自分を殺した悪魔と共にこの世界を滅ぼしてやる。


 こうして元魔王である彼の復讐劇が始まった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告です。 >全ては人間に「復習」する為に。 復讐だと思います。凄く格好いい場面なのでどうしても気になってしまいました(^-^; [一言] 面白かったです。 勇者と成り代わっ…
2017/02/25 08:06 退会済み
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