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あたしはアヒル1  作者: るりまつ
8/10

悪酔い

 席替えをした後は、お互い興味のある者同士が固まったってことで、さっきより親密な感じで会話が弾んでいた。

 飲み始めてからほぼ2時間が経とうとしていて、料理もすでにお腹いっぱい食べて、酒も相当入り、笑い声がいっそう大きく座敷に響く。

 整った顔立ちのシュン君は、セクシーなミーナちゃんに、ワインのスマートな注ぎ方を教えているようだった。

 ミーナちゃんは、時々うなじのおくれ毛に手をやりながら、シュン君の細い指先と横顔をじっと見つめるので、シュン君はますます得意になって熱心に語り続ける。

 確かに、シュン君はイケメンだった。誰が見ても正統派のイケメン。

 仮に一緒に並んで歩くことがあったとしたら(絶対、無いけど)女のコは羨ましそうに、振り返って見るだろうな。

 でもあたしの心には、初めて会った時のタケルさんの瞳がしっかりと焼きついてしまって、消すことができない。

 涙を流していたあたしの目を、射るように飛び込んできたまっすぐな瞳……。

 顔とかスタイルの問題では無く、なんだか女のコの心の奥の、 隠された部分に触れて来るような魅力が、タケルさんにはあるのかもしれない。

 人として、というよりは、動物的な何か。とでも言うのかな……よくわからないけど。

 その証拠に、さったんも、ゆりえちゃんも、ユウキ君のことを得意げに紹介したレナちゃんまでもがタケルさんに魅かれているようだ。

 ゆりえちゃんは、今はタケルさんのことは諦めて、隼人君の隣でかいがいしくお皿に料理を取ってあげたりしながら、それなりに会話を楽しんでいるように見えた。

 ロボットの話に、ゆりえちゃんが興味があるとはとても思えないけど、ゆりえちゃんは冷たいようで優しいから、きっとつまらない話でも楽しそうな顔して聞いてあげられるんだろうな。

 あたしには無理。

 今、このラフテーを目の前にして、さっきからずっとパチスロだのゲームだの、たいくつな話を聞かされながら、心は座敷の入口の、楽しそうに語り合う4人のところにいってしまう。

 どうしても、タケルさんの声を聞き取ろうと、耳を澄ませてしまう……


「アヒルちゃん、どうしたの?元気無いよ。飲みが足りないんじゃない??」

「う〜ん、そうだねぇ〜。たくやくん、もう一杯たのんでくれるぅ〜?」


 テンションが下がるのに合わせて、こんどは急にアルコールが回ってきた気がする。

 それもそのはずだ。あたしはすでに4杯めの泡盛のロックを飲み干し、さらにお代りを頼んでいるのだ。


「ねぇねぇ、アヒルちゃんてさ、今カレシいないんでしょ?」

「別にぃ〜」


 あいまいな返事をしたけれど、あたしにカレシがいたことなんて今までの20年間、もちろん一度だってない。

 けど、一回やるだけの相手だったら何人いたんだろ……?

 つまらないことを思い出させるラフテーを睨もうとしたけれど、なんだか目が回って焦点が定まらない。

 ただでさえ重たい腫れぼったいまぶたを、開いているのがやっとという感じになってきた……


「ねぇ、この後さぁ、みんなでカラオケ行こうかって言ってたけどさぁ」


 ラフテーは、今や遠慮なくあたしの胸の谷間を、ジロジロと物欲しそうな目で見ている。

 それが、不快でもあり、快感でもある。


「二人で抜けて、どっか行かない??」


 浮いてるようでもあり、沈んでるようでもある。


「え〜〜どこいくのぉ〜〜〜?」


ラフテーが、雑な作りの顔を寄せてきて、あたしの耳元でささやいた。



『ラ・ブ・ホ!』



昇っているようで

        もあり


                 落ちていくようでも ある

                      



あたしはめまいに耐えられなくなって、固く目をつむった。



              

     

 どう   

  にでもな            

      れ         今まで     うだった

                   だってそ                 

                                 いいじゃん

                             好きにすれば



                   あ

                   たしに

                     えらぶけん

                          りなん

                             て   


                               



                            ずっとない




                    






                   

                    

                 


あたしの記憶は、そこで途切れた。






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