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あたしはアヒル1  作者: るりまつ
6/10

サーファー



「そこ、松野の集まり?」


 あたしが返事もせずに、ポカンとその人の顔を見上げていると、その人はふすまに黒い手をかけて、大きく中を覗き込んだ。


「あっ!タケルさん!!」


 ユウキ君の声に、絡み合ってラフテー男を押さえ込んでいた隼人君、シュン君、そしてそれを見てゲラゲラ笑っていた女子達が、いっせいに座敷の入口のほうを見た。

 突然、9人の視線を受けて、その人は「おっと」という感じに体を後ろにのけぞらせると、真っ黒に日焼けした顔を緩めて、大きく二ーーーッと、白い歯を見せて笑った。

 緑の色あせたヨレヨレのTシャツに、やはり色あせたヒザでカットオフされたデニムのパンツ。

 そこから伸びた手も足も、真っ黒。

 髪の毛はクセ毛なのかパーマなのか、かなりきつくカールしていて無造作に広がっている。

 無精ヒゲがところどころ伸びた黒い顔の中で、何より印象的なのはその「目」だった。

 一重まぶたなのに大きく、黒目がちなつり目で、何と表現したらいいのか……

 簡単に言ってしまえば、夜に見る猫みたいな目で……


「遅くなってすまん」


 その人がひとこと言って座敷に上がった時、後ろからお店のお兄さんが忙しげにやってきて、


「大変お待たせしました—!」


 と言いながら、オーダーした大量の料理を一気に運んできた。

 それでその人はお兄さんに急かされるように、一番近い空いた席。

つまり、あたしの目の前の席に座った。


「お客様すいません、これ、奥にまわしてもらっても良いですか?」

「お、ほいほーい。はい、じゃこれ、よろしく」

「あ、すいません、はい、これ」

「はい、ミーナ、これね」


 その人が席に着くなりお皿リレーが始まって、みんながあわただしく動き始めたので、あたしはその隙にサっと後ろを向いて、誰にも気づかれないように手で涙をぬぐった。

                             

「はい、海ぶどうでございまーす」

「わ、美味しそう〜♪海ぶどう、キレイ〜」 

(え〜あの人がユウキ君の先輩なんだ〜)

「次、スクガラスでーす」

(そっ。かっこいいでしょ?)

「え!なにこれ、かわいい〜お魚、ちっちゃぁい」


 美味しそうな料理が、10人の目の前にどんどん並んでいく。


「はい、ソーメンチャンプルーとゴーヤーチャンプルーでーす」


「どんどんまわしてね〜!」

(すげぇ日焼けしてんな!何かスポーツやってる人?体育会系??)

「あ、すいません、オレ、ウーロン茶もらえますか?」

(サーファーなんだよね)

「あ、はい。ただ今すぐお持ちします!」

(え、ていうか何歳??かなり年上??)

「おー!やっと来た来た!!うまそ〜☆」

(てか、超イイ感じ〜!ヤバいかも〜)

「あ、ひょっとしてみんな、かなり待たせちゃってた??」


 ラフテー男の『やっと来た』という言葉を、自分の事と思ったのか、その人が申し訳なさそうに言うと、ユウキ君と他の男子は、合わせたように首をブンブンと左右に振った。


「いえいえ、とりあえず乾杯して、ざっと自己紹介終わったとこです。ちょうどグッド・タイミングでした!あ、さっきちょっと話したオレの先輩で、野川 竹流さん」


「あ、タケルです。遅刻しちゃってホントごめん!今日は松野からの突然のお呼ばれで、ま、誰かの代役ってことだから、お手柔らかによろしくー」


 タケルさんという人は、あっさりとそう言うと、ゆる〜い笑みを浮かべた。

 すると内気なはずのさったんが、目を輝かせながら手を上げた。


「はーい、タケルさん、質問でーす!なんでそんなにぃ、黒いんですかぁ〜!?」


 一同、ドッと笑う。

 さっきレナちゃんと松野君が、こっそり話しているのを聞いてたくせに、あえて本人に質問するところが、さすがさったん、恐るべし!


「あ、いや、一応サーフィンやってるんで、ちょっと黒く見えるのかな。てかそんな黒い??まだそれほどでも無いはずなんだけどなー」

「黒い黒い〜〜!超黒い〜〜!!」


 女子が黄色い声で、口を揃えて言う。


「はーい、タケルさん、私もしつもーん!!」


 今度はミーナちゃんが手をあげた。


「タケルさんは、いくつなんですかー!?」


 また一同、ドッと笑う。


「え?いや、まいったな〜。いきなりそこかー!」


 タケルさんは、チリチリの頭をクシャクシャと掻きながら、照れ笑いした。

 その、精悍な顔に似合わない子供っぽいアンバランスな仕草に、また一同ドッと笑う。

 ユウキ君の先輩って言うけれど、なんだか年上っぽくない、打ち解けた雰囲気があって、女子達だけでなく、なんだか男子達までが、自然にこの人に釘づけになっているみたいだった。


「いや、もうオレのことはこのくらいで勘弁して!それよりみんなのこと教えてよ。君は?」


 突然タケルさんは、正面に座っているあたしに向かって言葉をかけた。


「は!?」


「君、名前なんていうの?」


 タケルさんの目はさっきと同じように、真っ直ぐあたしの目を見つめた。






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