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あたしはアヒル1  作者: るりまつ
5/10

届かない自己紹介

 まずは、リーダーレナちゃんから。



「前田レナでーす。中野の調理師専門学校に通ってまーす。来年からは江戸川区の保育園で栄養士さんになる予定でーす」


 ちゃきちゃきの江戸っ子レナちゃんは、 4人の男子達の目を順に見ながら自信たっぷりに話す。

 男の子たちも、へー、ふーん、と美人の学級委員長に見とれるような目つきで、好意的にうなずいた。

 次はショートボブのさったんてコ。

 ちょっと斜めにうつむいて、前髪をピンクのネイルで彩られた指先で恥ずかしそうにいじくる姿が、いかにも合コン慣れしてなさそうで初々しい。


「えっと、わたしゎ〜レナやみんなと同じガッコでぇ、 あ、名前は古川っていうんですけど〜、 サチとかさったんで良いです〜 。……てか、キンチョ—するぅ〜!!もう、パス

ぅ〜!!」


 と言うと、赤くなった顔を隠すようにレナちゃんの肩に押し当てた。

 あースゴイよ、この子はスゴイ!! 演技だとしてもスゴイけど、マジだったらもっとスゴイ。 絶対、となりには座りたくないタイプなのだ。

 男子たちは案の定、へニャーっと闘魂を抜き取られたアントニオ・イノキのような間抜けな顔になっている。

 ヤバい、あたしは何て言おうかな〜。コーヒーショップのバイトだけじゃ、なんだかつまらないしな〜。けど、特に趣味ってのもないし〜。

 あ、もう一人の知らないコの自己紹介が始まった!


「上田美奈代です。ミーナって呼ばれてます。まだ就職は決まってないんだけど、実家が栃木の山奥でレストランやってるんで、東京でしばらく修行してから帰ろうかなと思ってます。今、ワインとチーズに興味あるんで、今度シュンさんとこ行ってみよっかな〜なんて!」


 そう言うと、セクシーなおくれ毛のミーナってコは、 意味深な目付きで、最後にシュン君だけをじーっと見つめた。

 お〜!?と、男3人から冷やかしのどよめきが起こり、シュン君も、およよーっと、まんざらでもなさそう。

 あ、なに?もう、みんなそんなにアピールしちゃって!!

 戦いはスデに始まってるのね!?

 あぁぁ、あたしはどうしよう・・・

 オロオロしてるうちに、ゆりえちゃんの番。


「アタシ、佐藤友里恵っていうんだ〜。シュン君とおんなじ苗字だね〜〜ウフフーーーー」


 友里恵ちゃんの意味不明の自己紹介に、ラフテー男が果敢に突っ込む。

 

「ヘイ、ベイベー!藤井友里恵ってのも悪くないぜ〜!?」

「お〜卓也!!それっていきなりプロポーズかよ??」

「きゃ〜!フジイ・ユリエおめでとー!!」

「やだぁ〜!アタシは佐藤でいいんだもーん」

「ダメぇ〜佐藤はわたしがなるぅ〜!!」

「えっ!えっ??どういうこと??さったんもシュン君ねらいってこと??」

「おい、ちょっとシュンに偏ってね?だれか松野リクエストしてくれよ〜!」

「え、どうなってんの??ボクちょっとついてけてないみたい」

「やっぱ、フジイ・レナでしょ!」

「ぶははーー!!」

「それだけは勘弁してよ〜〜!!」

「ぎゃははははーー!!!」 


 ……なんだこのノリは?すでにみんな酔ってるのか??

 オーダーの時と同じように、ズレた会話がズレズレのまま進行していき、 一つの流れになってしまってもう止まらない!!

 てか、あたしの自己紹介は?


「だってユウキ君て、一見いっけん良い人っぽいけど、実は遊んでそう」

「そうそう、そんな感じするぅ〜」

「え、何言っちゃってんの?それだったらシュンのほうがバリバリ遊んでそうでしょ??」

「シュン君はパッと見から遊んでそうだから別にいいけどぉ〜

 ユウキ君は裏で浮気とかしそう。しかもそれがバレないタイプ?」

「そうそう、何股もかけそうな感じ〜」

「ちょ、ちょっと、そりゃぁ〜誤解だよ!」


 あの〜あたし畔蒜佳子って言いまして〜


「裏で何かしてそうっていったら、隼人も相当あやしいぜ〜!?」

「えー隼人君?うそー?」

「コイツ、ロボットなんて勉強してんじゃん?」

「うん、うん」

「んでな、こないだ『ボクは世界一の女形ロボット作る!』とか言いだしたまではいんだけどよ〜」

「うん、うん」

「その参考のために『エロビデオ貸してくれっ!』て言うんだぜーーー!」

「な、な、何言ってんだよ、そそれは、、、!!」

「いやーーだぁーーーーー!なにそれ、どういう意味ぃ〜!?」

「隼人君、エッチぃ〜まじめそうなのにぃ〜」


 みんなからはアヒルって呼ばれてて〜


「そんで、おれとシュンとユウキで、それぞれお気に入りの一本を持ってきちゃってよ〜」


 今はつまらないコーヒーショップで、バイトだけしかしてないけど〜


「わーーーー!そっから先、言うな!!」

「隼人んちでみんなで見てるうちによ〜」


 いつかはきっとぉ……


「卓也〜〜〜!頼む、黙れ!!わーーわーーー!!!」

「シュン、卓の口、押えろ!」

「フガフガってきちゃってフガフガでフガ—ーー!」

「キャーー!なになに?聞こえなーい!教えて卓也くーん」

「やらしげ〜!」


 ……もういいや。


「フガーーーーウガーーー!」

「ギャハハーーーーーーー!」


 もういい。


 別に本気で出会いを期待してきたわけじゃないしぃ〜

 代役で来てるわけだし〜

 会費だって安くしてもらってるし〜

 くつ下だって、いずれ買うつもりだったし〜 。


 何も損してないし。


 ……なのになんだか

 引っ掻かれたみたいに胸が痛い。


 意図せず


 涙がつぅーーーーーーーーーーっと、ホッペを流れてしまったので、あたしは慌てて顔を上げた。

 その時、半分開いたふすまの向こうから、

座敷の方へと大股で歩いてくる、真っ黒く日焼けした男の人と目が合った。


「そこ、松野の集まり?」


 その人は、あまりにもまっすぐな目をしていたので……

 その視線が、あまりにも深く、あたしの目の中に飛び込んできたので……

 あたしは涙を拭くのも忘れて、その目を見つめ返してしまった。

 

 それがあたしとタケルさんとの出会いだった。





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