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あたしはアヒル1  作者: るりまつ
2/10

ありふれたコーヒーショップ

 ただ今、午後3時。


 低血圧で、いまいちテンションの上がらないまま、バイトに出勤。

 それでも一応、腫れぼったい奥二重の目に、念入りにアイライナーなんか引いちゃって、メイクだけはしっかり手を抜かない。

 あ、けどあたしは、ツケマは付けない派。まつ毛を強調すると、何だか離れた目がさらに目立って、よけいにアヒルっぽくなっちゃうから。

 目と目の間の攻略法については、現在、必死で研究中……。


「おはよう、レナちゃん……」

「あ、アヒル、おはよう!」


 蚊の鳴くような小さな私の挨拶に、早番のレナちゃんが、まばたきの音が聞こえるほど長いまつ毛のついた目でスマイルする。顔はカワイイんだよね、このコ。


「あ〜もう、今日はランチタイム、ダラダラ忙しくってやんなっちゃった!」

「お疲れサマ。あと、あたしがやっとくから、もう上がっちゃって大丈夫だよ」

「さんきゅ、アヒル!何か甘いもん飲みたぁい!カフェラテ入れちゃおうかなぁ〜」


 あたしは、西新宿の高層ビルの、地下一階にあるコーヒーショップでバイトしている。 

 いわゆるチェーン店で、どこの街にも一つくらいはあるような、ごくありふれたコーヒーショップ。

 お客さんは、ほとんどがこの高層ビルで働いているサラリーマンやOLさん。

 飲み物の他に、ホットドッグやサンドイッチなんかはあるんだけど、どれも値段のわりに小さくて、しかもお世辞にも美味しいと言えるモンではないので、お昼ごはん目当てで来る人はあんまりいない。


 他の店でランチを食べて、ちょこっとコーヒーだけ飲んで一服したい、メタボリックなおじさんとか、打ち合わせに来る神経質そうな若いお兄さんとか、キャリアウーマン風の疲れたオバサンとか、たまに、都会に住むヒマなおじいちゃんとかが、まばらに来るくらい。

 営業時間は、朝の7時から夜の9時までだけど、どの時間帯もお客さんが少ない。


 ようするに はやってない。


 でもお店は、ガラス張りの小さな中庭に面していて、一階と二階から、太陽の光がたっぷりと入るように、うまく設計されてるみたいで、地下とは言っても明るくて、なんだかホッとできるスペースだとあたしは思う。

 ジャングルのように、テンコ盛りに植えられた南国ちっくな植物に、晴れた日はまぶしい光が強く当たって、葉っぱも多分気持ち良いんじゃないかな。

 

 茂みの奥からは、ひょっこりとゴリラがこちらを覗いているのが見えます。


 な〜んて言っても過言ではないような、ちょっとしたガラスの熱帯植物園なのだ。

 お客さんたちも、ボーっと中庭に生えた観葉植物を眺めることで、都会や仕事のストレスを、ちょっとのあいだ忘れているのかもしれない。

 そうだとしたら、この店がヒマっていうことは、彼らにとって良い店の条件の一つなのかもね。


「ねぇ、アヒル、明後日バイト休みだよね?」


 あたしがカウンターのミルクや、スティックシュガーを補充していると、 従業員ロッカーで私服に着替えて来たレナちゃんが、カフェラテをトレーに載せてやってきた。

 パステルピンクとライトグレーの、太いボーダー柄のゆったりとしたカットソーに、淡い水色にブリーチされた、デニムのショートパンツ。

 そして、そのトレーの上のカフェラテには、白い生クリームが巻きグソのようにネリネリと盛られていて驚いた。


 ……ちょっと、それやり過ぎでしょ??


 と、言いたくなるくらいこんもりと。でも言わないけど!


「う、うん、明後日は休みだけど……何で?」

「B2にサンクチュアリって飲み屋あるじゃん? そこの男子と5:5で飲む予定なんだけど、一人女子が都合つかなくなっちゃってさ、良かったらあんた行かない?」


疑問形ではあるけれど、その言い方に選択の余地はナシ。


「うーん、、、いいよ別に……」

「あー良かったぁ!絶対人数合わせろって言われてたから助かるぅ。いつもピンチヒッターありがとね!」


 無邪気に笑うレナちゃん。

 そう、あたしはいつもピンチヒッター。

 最初にお声が掛かることは絶対ない。

 けど、飲み会ってわりとドタキャンするコ多いし、それにあたし、引き立て役としてはかなりポイント高いから、最終兵器としてちょくちょくお声が掛かる。だからブスの割には忙しいのだ。


「じゃあ、詳細あとでメールするね!お疲れ様」


 それだけ言うとレナちゃんは、ガラスのジャングルが一番良く見える特等席に座って、細く長い足を見せびらかすように堂々と組んだ。


「ちょっと、アヒルちゃん!早く洗い場やって。カップ足りなくなっちゃうから!!」


 顔色の悪い、ヒゲが濃くて頭の薄い店長が、オカマちっくにあたしを呼ぶ。

 どうせレナちゃんには何も言えないクセに。


「はーい、、、」


 つーか、足りなくなるほど忙しくないじゃんか!?

 ……ま、あたしだってソレ、店長には言えないけどね!


 あ〜ぁ。

 あたしは、あたしの役割をこなすしかない。

 あたしはアヒル。

 白鳥になりたいなんて言わない。

 けど、変わりたい。

 この生活を変えたいよ……













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