ゲテモノTV 第四回
四角い画面の中で、黒髪黒目の男性と、男性より少し背が高いトカゲが立っている。
卓也・グァルド「皆さんこんにちはー!」
卓也「第四回、ゲテモノTV始まるよー!」
グァルド「今日は偶数週なので、料理役は俺、グァルド!」
卓也「食べるのは俺、卓也が担当するよ!」
デフォルメ化された卓也、グァルドのイラストが出てくる。
卓也「いつも通り説明するよ! この番組では、異世界に留学中のYouTuberの地球人、卓也と、異世界人のグァルドの二人で、ゲテモノ料理を作って食べます」
グァルド「番組の内容上、地球人、異世界人どちらにとってもグロテスクでショッキングな映像が流れるぞ! そういうのが嫌な奴はブラウザバックだ!」
ソファに卓也が座っている。目の前の机には、段ボールが置かれている。
卓也「あのさグァルド……これ、動いてるんだけど、気のせい?」
グァルド「どんなものも新鮮なものがいいんだ。開けてみてくれ」
ゆっくりと段ボールを開ける卓也。恐る恐る中を覗き込む。
卓也「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
卓也は大きくのけぞり、土足のままソファの上に丸まった。
卓也「え? 嘘だろ? 本当にあれ食うの?! 食べれるの?!」
テロップ:はたして、その中身とは……!
画面いっぱいの巨大蜘蛛が映る。
グァルド「今日の具材は、コウラグモだ」
蟹の頭に、黒い毛がびっしり生えた十本脚の虫が段ボールの中でうごめいている。
グァルド「この蜘蛛は、異世界のガドリウム大陸に生息する毒蜘蛛だ。ガドリウムの戦国時代には、コウラグモから採取できる毒を使った暗殺が流行していた。現在はペットとして人気がある」
卓也「は?! これペット?! 飼う奴がいるの?! これを?!」
グァルド「鳴き声がかわいいそうだ。聞いてみよう」
グァルドがポケットからペンを出し、コウラグモをつついた。
ぐへえぇっへっへっへぇ。酔っ払いおやじのゲップのような音が部屋に響く。
グァルドが頷く。
グァルド「見た目はともかく、声はかわいいな」
卓也「へえ……異世界人的にはかわいいんだ」
テロップ:カルチャーショック その1
暗転。
キッチンが移る。天井からカメラを吊るしているらしい。二人の後頭部が映る。
卓也「で、これどうやって調理するんだ?」
グァルド「沸騰した王お湯に塩と蜘蛛を入れて煮立てるんだ」
卓也「まじで蟹みたいだな……てか、毒はどうするだよ」
グァルド「コウラグモの毒は熱に弱い。沸騰するお湯に入れれば毒は消える」
グァルドが鍋にコウラグモを入れた。
きえぇぇぇぇぇぇ!
コウラグモが断末魔を上げる。
テロップ:?!
後ずさる卓也
テロップ:?
そんな卓也を見て首をかしげるグァルド
グァルド「どうした?」
卓也「いや……なんでも……」
テロップ:カルチャーショック その2
テロップ:茹で上がるまでおしゃべり
鍋の前で立ち話をする二人。
卓也「ゲテモノTVも今回で四回目か。初回が終わった後、人権団体に大学寮を囲まれたときはどうなるかと思ったけど」
グァルド「トカゲの丸焼きの回か? そもそも、あいつら何でここに来たんだっけ?」
卓也「『トカゲ似の異世界人に、トカゲ食わせるとは何事だ』って。いや、ゲテモノTVなんだから、ゲテモノ出さないと駄目だろ。てか何で俺の家わかったんだろ」
グァルド「お前、キャンパスの中で動画取ってアップしてただろ。それでじゃね?」
卓也「そっか。でもそれより、お前がグレネードランチャー取り出したときは心臓止まったよ。何であんなやばいもん持ってんだよ」
グァルド「地球では自宅に鍵をつけるように、こっちの世界では家に武器を置くのが普通なんだよ」
卓也「まじで?」
テロップ:カルチャーショック その3
グァルド「卓也が止めなければ皆殺しにできたのに」
卓也「いや、やめてくれ、まじでやめてくれ。放送倫理的にも地球の倫理的にもアウトだから」
テロップ:カルチャーショック その4
テロップ:茹で上がりました
グァルドがコウラグモを水洗いし、皿の上に乗せる。皿とキッチンばさみを持って、先ほどのソファの前の机に置く。ソファには卓也が座っている。
卓也「これ……食わなきゃいけないのか。てか触らなきゃいけないのか……」
グァルド「二回目のポヨポヨフルーツときは大喜びで触ってたのに、何で今回は駄目なんだ」
卓也「だってあれ見た目も触り心地も〇っぱいだったし、味は桃だったし……なんでこの世界ではあれがゲテモノなんだよ」
グァルド「あんなぶよぶよして変な味の食べ物誰が食べたがるんだ」
卓也「そうか……異世界の男はおっ〇いが好きじゃないのか……地球人と異世界人が分かりかえる日は来るのかな……」
テロップ:カルチャーショック その5
キッチンばさみを手に取り、コウラグモを睨みつける卓也。意を決して、毛むくじゃらの足をつかむ。その脚をはさみで切る。付け根に切り込みをいれ、毛が生えた皮をはがしていく。紫色の肉があらわになった。
卓也「ひぃぃぃぃぃぃぃ! 何でこんな色なんだよお!」
グァルド「どうした? 新鮮でうまそうな色じゃないか」
卓也「新鮮?! これが?!」
テロップ:カルチャーショック その6
紫色の肉を睨みつける卓也。覚悟を決めたのか、その肉にかぶりつく。
一回、二回と、咀嚼する。沈黙。三回、四回と、咀嚼する。卓也の喉が動いた。
卓也「うまい。グァルドも食ってみる?」
グァルド「食う!」
二人でコウラグモを食べる。
卓也「滅茶苦茶意外だ。味はまんま蟹。触感はエビかな。ぷりぷりしてて、普通においしい」
グァルド「俺は『かに』も『えび』も食べたことがないから説明できないが、この蜘蛛は、地球人じゃない俺もうまいと思う」
コウラグモに食らいつき、無口になる二人。
一本、二本と足を食べ続ける二人。四本目を取ろうとして、卓也は動きをとめた。
グァルド「ん? どうした」
卓也「グァルド……この蜘蛛はおいしい、でもおいしくないんだ」
テロップ:?
グァルド「は? どういうことだ」
卓也は立ち上がり、叫ぶ。
卓也「動画的においしくないんだよ! こういうときは、超うまいか超まずい方がリアクションはとりやすいんだ! なのに! 普通に! おいしい! これじゃリアクションのとりようがない! オチがつかないんだよ!」
グァルド「別にいいだろ。うまいもん食えたんだし」
卓也「いや! YouTuberとしてこの展開は許せない! 視聴者も許さない!」
卓也は頭を抱えた。
グァルド「なんで卓也はヤマとかオチとかを気にするんだ?」
卓也「だって、そうじゃなきゃいい動画作れないし」
グァルド「お前がいい動画を作れても作れなくても、お前は俺の友達だよ」
卓也、目を見開く。
グァルド、首をかしげる。
グァルド「どうした?」
卓也「お前……イケメンだな」
テロップ:カルチャーショック その7
デフォルメ化された卓也、グァルドのイラストが出てくる。
卓也「最後まで見てくれてありがとう! SNSでみんなと共有してね!」
グァルド「次回の動画もよろしく!」
テロップ:次回予告
グァルド「何だ、この白い砂粒は!」
テロップ:未知の植物
卓也「おりゃあ!」
グァルド「ハンマーを振り回すな!」
テロップ:卓也が発狂
グァルド「ふ、膨らんでる! このままでいいのか?!」
卓也「やべえ、焦げる!」
テロップ:日本の伝統文化がグァルドを襲う……!
テロップ:次回、こうご期待!
卓也「あ、言い忘れたけど、これ食うとたまに死人が出るんだ」
グァルド「ぶっ!」
卓也「うわ、汚え!」
暗転