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イヴェディア  作者: Rais
第四章 罪禍 ~血潮に染まる~
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運命の虜囚

――虐殺とは非常に特異な状態、結果と言える。戦闘行為以外で、力を有している者が、一方的に他者を殺戮する。殺すよりも支配し、従属させた方が利点も多いのにも関わらずだ。虐殺が起こり得る要因として、兵士の強い攻撃性が挙げられる。兵士達は戦闘を繰り返していく内に、攻撃性を高めていくが、それは戦闘ストレスなどという外的な要因ではない……“憎悪”だ。憎悪が兵士を獣に変え、戦争を悪化させていく。いや、戦争に善いも悪いも無いだろうが、流れる血が増えるのは確かだろう。


 この憎悪という感情が問題なのだ。憎しみとは連鎖する。憎みあう両者が互いに正当性を主張し、気付けば屍の山だ。フレイヤ、ヨルフ、他の者達。貴様等が抱いている感情は正しいだろう。同胞達がどんな思いで死んだのか、同じ目に遭わせてやろうと息巻く、その感情も正しいだろう。だが、これは私の個人的な見解なのだが……憎しみでは誰も救われんのだ。救い、などという胡散臭い言葉を、笑止の沙汰だと思ってくれて構わない。だが私は、これが真実だと思うし、何よりも信じている。


 貴様等は様々な目的で軍役に就いているだろう。金の為、名誉の為、国の為、家族の為。だがそれら目的が、“復讐”に変わる瞬間を、私は何度も見てきた。そしてその無残な結果も……。虐殺の事実を知るのは現状我々だけだ。グルシスの兵に敗走した者も居るだろうが、彼らは知らないはず。だが時間の問題だ。その前に手を打たねばならん。復讐に心を奪われるな。これは命令ではない、私個人の願いだ。貴様等がどう動くかは、貴様等が決める事。私に介入の余地は無い――


 沈黙だ。クレイグの言い回しは難解である。将校のように優秀な者でも、理解には時間を要するだろう。ただ一人を除いて。


「……バカみたい」


 緋色の髪が翻る。席を立ち、向かうは部屋の出口へ。ヨルフが呼び止めたが聞き入られなかった。


 フレイヤを皮切りに、何人かの将校が部屋を後にした。クレイグはただ見送るばかりで、追うことはしない。残された人々は気まずそうに目配せをするばかりだった。


――――


 明くる日。昨日に続き雪が降った。銀世界が広がり、何も無かった荒野が美しい雪原になった。


 すると、穢れを知らない雪の上で、模様を描いていく物が一つ。前方には馬が二頭繋がれていて、必死に何かを引っ張ていた。


 橇馬車である。雪中行軍において、位が高い物にのみ与えられる特権だ。


「懐かしいな……」


 中には外の雪と同じ髪の色をした者が一人。クレイグである。反対の席にフレイヤも居た。


 馬車は北に向かっていた。件の虐殺があった地である。数騎の護衛が随行していたが、馬が寒さに耐えかねて遅れているらしい。


「総司令。着きました」


 御者が声をかける。フレイヤが先に出、クレイグは後に続いた。


 外には黒髪の青年と、彼の護衛だろう数名の兵士が侍っていた。彼らは歩いてきたのだろう、服は濡れ、頭には雪の粉を満遍なく散らしていた。


「お前が首魁か」


 問いかける青年。彼は一瞬フレイヤを見やったが、すぐにクレイグへ視線を戻した。


「ああ。私がウェール軍総司令官。クレイグ・エテルタニスだ」


「……変わった家の名だ。ウェールには気取った貴族共が蔓延ってるから、うんざりするくらい家の名を覚えてしまっていたんだが、お前のは聞いたことが無い。それに白髪とはな……個人的にだが、嫌なものが思い出される」


「貴様程ではないよフェリオット・ロイエ。古代語の意味するところは“後悔”か。貴様が何に悔恨しているのか、私には知る由もないし知りたくもないが、話したければ聞いてやらんことも無い。友人よりも他人の方が相談しやすい事もあるだろう?」


 また一つ邂逅が成され、運命は絡み合おうとしていた。


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