幼馴染
「神父様! それではあんまりです!」
翌日。フェリオットとセレアは週に一度の習慣である『明けの祈祷』を行うため、父と共に近所の教会堂を訪れていた。母は既にセレアを産んで間もなく死んだ。フェリオット達はつつがなく祈祷を済ませ、聖堂を抜け、穹窿の連なる回廊を進んでいく。“彼女”の声が遠くから響いていたのは、回廊に出て間もない時だった。
「私には分かりません。万人を愛せと説く教義のかたわら、事実、私達の為していることは信者と異教徒の選別ではないですか」
熱意と怒りに満ちた声。フェリオットは父とセレアをそのままに、すぐさま彼女の元へと駆け出した。
「じゃがなエリス。教会の立場から言わせれば、信者たちの安全を確約するためにも、多少の犠牲もやむを得んとも言えるのじゃ」
「神父様も聖典はお読みでしょう。一体どこに異教徒は処断せよと書かれているのです。教会は聖典に拠った行動をすべきです。後世の人がどう解釈しようと、知ったものですか!」
「う、ううむ。しかしのぅ」
「エリス!」
回廊の突き当たりを右に曲がると、一人の少女が腕を組みながら、背の曲がった老人をじっと睨みつけていた。
「また神父さんを困らせて……」
瞳を細め、少女を見つめる。豊かな大地を思わせる、快活な茶色をした髪。純真な深緑の瞳は、穏やかな森林が醸し出す、あのぎらぎらとした森林の穏やかさを宿していた。
彼女――エリスとは歳が近い事もあって、幼い頃から共に在った。俗にいう、幼馴染と呼ばれる間柄である。
「フェリオット……」
するとエリスは、フェリオットを見るや、足早に立ち去ってしまった。
回廊には窓があり、いずれも無数に、均整にあてがわれている。外は曇りであったので、朝日は差し込まず、薄暗かった。そのせいで、彼女の表情を読み取ることができなかった。
「な、なんだよ、あいつ。人の顔見てそりゃないだろ」
「あの子は、正しいのじゃ。いや、正し過ぎるともいうべきか」
「正しいって……何が?」
フェリオットは呆れ顔で神父を顧みた。
「一人、魔族の処刑が決まった。刑はこれから、教会近くの広場で執り行われる。エリスはそのことに心を痛めておるのじゃ」
「……魔族だから、仕方ないんじゃないの?」
フェリオットにしてみれば、純粋な問いかけだった。しかし神父は苦虫を噛み潰したような顔をして。
「難しい問題じゃの」
と、答えにもならぬ返答をした。
「……難しい事は、大人がどうにかしてよ」
フェリオットの胸中には、昨日の青年の言葉が、何度も過っては途絶えた。自分の背中には青年の無色な瞳が潜んでいるようで、言葉が過る度、鼓動は早まり、次第に身体も震えていった。
フェリオットはそれを悟られないよう、腕を組んでじっとこらえていた。ただ、歳不相応な振る舞いであったので、神父は細目で穏やかに見つめるばかり。いたたまれなくなった少年は、逃げるようにして、幼馴染の後を追った。