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イヴェディア  作者: Rais
第二章 闘争 ~生は遠く、死は近い~
12/58

問いかけ

 会議はその後、クレイグ主導の下で極めて”厳か“に取り行われた。


 参戦する兵士は職業軍人だけで1〇〇〇〇〇人強。徴用された市民や志願者を加えれば、ウェールの総軍は15〇〇〇〇人弱となった。


 内訳は、領主達が抱えている軍が四割。皇帝の直轄軍が二割。残り四割が、場当たりの市民達で構成されている。


 また、局所的な戦闘が予想される南部地域には戒厳令が発動され、都市間の行き来を制限。あらゆる商人や旅人、旅行者などには厳しい検閲が行われることとなった。


 最初の作戦行動は二日後。ログナからさらに南へ下った先にある“ニメリア平野”に野営地を置き、機を伺うという事で領主達も納得した。


 会議の主導権を握れなかったグルシスは、皇帝を前にしながらも臆することなく、クレイグに反論を続けていた。


 しかし、他の領主達は皆、皇帝の指名によって総司令官となったクレイグに逆らうという無謀は犯さなかった。


 その為、グルシスの反論は何れも一理あり、完全には否定できなかったが、以上の理由で、他の領主達から支持を得ることが出来ず、彼の主張が取り入られることは無かった。


 昼に始まった会議は夕暮れには終わった。


 長い緊張から解放された領主達は思い思いの場所に散り、二日後に迫った開戦の時まで、残された平和の時を過ごすのだった。


 それは末端の兵士達も同じで、戦友達と酒場に繰り出す者、礼拝堂で告解や祈りを捧げる者、瞑想に耽る者、武器の手入れをする者。


 ログナに駐屯する全ての軍人達が、目前に迫る戦いにそれぞれの思いを巡らせていた。


 だがただ一人、グルシスは違った。


 彼は戦いまでの一時の平穏よりも、より多くの戦功を手にする為にはどうしたらよいかで頭が一杯になっていた。


 彼は会議が終わると、誰よりも先がけて屋敷を出て、宿泊先である徴発した宿屋に向かった。


 晩秋の頃の暮れなずむ夕日が、ログナの市民や兵士達に優しく降り注ぎ、活気こそは消えないものの、どこか寂しげな印象を与えていた。


 グルシスは宿に着き、割り当てられた部屋に入ると、男が一人部屋の奥に置かれた椅子に座っていた。


 彼はグルシスが入ってきたのに気が付くと、立ち上がり、ひどく慇懃な様子で、素早く立ち上がった。彼はグルシスの副官で、名はヨルフ。歳は十八。


 髪こそはグルシスに近い物が感じられたが、瞳はどこか虚無的で、顔つきは穏やかと言えば聞こえは良く、無機質と言えば的を射ていた。グルシスとは対照的な、しかしどこか似ている。ヨルフはそんな男だった。


「いかがでしたか?」


 ヨルフはグルシスの荷物を受け取り、手慣れた様子で仕舞いながら問いかけた。


「西方、東方の各方面軍と編成は大して変わらん。戦力も当方の軍が勝っている。戦略においては、特に問題は無いだろう」


 グルシスは特に他意も無く答える。だが、勘の良い副官は、グルシスの不機嫌そうな様子をどこかで感じ取ったようだった。


「不満そうですね」


 臆面も無く問いかけるヨルフ。彼は敬語こそ使っているものの、どうにも生来の、皮肉めいた物言いが鼻に付いてしまっていて、故にグルシスの苛立ちはより顕著になっていくのだった。


「あくまで全体の話だ。俺が不満なのは、せっかくの功名の機会を、何者とも知れぬ指南役に奪われたことだよ」


「ではやはり校長が……失礼。皇帝陛下の指南役殿が、我が軍の総指揮権を任されたというわけでしょうか?」


 ヨルフは確認のつもりで問いかけたのだが、グルシスには自身の力不足を指摘された気分になり、ついに堆積した感情を決壊させるのだった。


「そうだと言っている! ああ、くそ。これではウェール最強の我が兵達も、奴の使い走りになってしまう。父上が見たらなんと言われるだろうか!」


 グルシスは苛立ちを隠しきれず、気を紛らわすように部屋の中を歩き回ったり、喉など乾いていないのに、水筒に口を付けたりしていた。


「しかし、グルシス殿。指南役ならば陛下もその力量を認めておいでです。国家に殉ずるのならば、戦功など上げられなくとも、戦争に勝てればそれでよろしいのでは?」


 あくまで冷静に問いかけを重ねるヨルフ。数々の無礼を重ねたヨルフにグルシスは怒りこそ隠さないものの、最早この副官の態度については不問にしてしまっているようだ。ヨルフは遠慮を知らず、臆面もなく物を言う。だが国家にかけた忠誠心だけは絶対であることを、グルシスは知っていた。


「貴様は何も分かっていないな。戦争に勝つのは“当然”だ。そこを云々するのは反逆者の言だぞ。私が言っているのは、その後の事だ」


 グルシスは言い放ち、上着を脱ぎ捨てると寝台に向かった。


「……俺はもう寝る。戦いになったら、もう後戻りは出来ない。今のうちにしっかり休んでおくことだ」


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