レイン
挿絵作成:伊燈秋良さま
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ジャンル・必須要素:指定なし
時が巻き戻る。
いつからそんな機能が付いたのか。
どうして、そんなことが出来るようになったのか、分からない。
ただ、ただ。
「るーあ」
下っ足らずな声が足元から聞こえる。
「どうかしましたか、お嬢様」
「おじょーさまじゃなくて、りーや! りーやなのっ!」
甘えん坊で聞かん坊で、けれどなんとも愛らしい幼女。
それが、リーヤ様だった。
「はい、リーヤ様。何かあったのですか?」
「ねえ、どうして、リーヤにはおとうさまとおかあさまがいないの?」
「それは、この世界が終わりそうになっているからです」
「おともだちが、るーあしかいないのも?」
「ええ、そうです」
私はそう頷いた。
「じゃあ、りーやとるーあは、ずっとずっとおともだちね!」
そういって暖かな、小さな手でぎゅっと握ってくる。
「はい、ずっとずっとお友達ですよ」
「でもね、ちょっとお腹すいちゃった」
ぺたんと座り込んで、今にも泣き出しそうな顔を見せる。
「では、美味しいものを作ってきましょう。……この石の椅子に座っていてください」
「はーいっ!」
片手を上げて、リーヤ様は良い子にしていてくれた。
だから、安心して、獣を飼って、焼いてきた。それだけでは栄養が偏るので、リーヤ様の好きな果物も取って来た。これでリーヤ様も喜んでくれると思っていた。
そのときまでは。
「きゃーー!!」
その声を聞いて、急いで戻って来た時には、もう遅かった。
血まみれで倒れたリーヤ様が横たわっていて。
「ぐるるるるるぅ……」
人々を絶望へと導いたあの、忌々しい竜がそこにいた。
「リーヤ様!!」
駆け寄るも、もう遅いのだ。
「おかえりー、来てくれるって……おもってた」
にこりと微笑んで。
「さいごに、ね。……るーあにあえて、ね……よか……」
リーヤ様はまだ、幼い。
生まれて、片手で数えるくらいのほんのお小さい方だった。
いてくれるだけ、尊い方だった。
けれど、私には獣を狩ることはできても、竜を狩ることはできなかった。
ましてや、リーヤ様を救うことも。
気付けば、雨が降っていた。
私は動けずにいた。
ばちばちと、何かが弾ける音が聞こえた。
私の目にはいくつものエラーが表示されていた。
一面、赤くなっていた。
ああ、終わりなんだと、思った。
もし、この世界に、神がいるというのなら。
お願い、私に力をちょうだい。
リーヤ様を救えるくらいの、力を……。
何度目の巻き戻りだろうか。
もう一度、機能を確認する。
見知らぬ機能が山ほど増えているような気がする。
けれども、不思議なことにそれら全てが今の私に必要な気がする。
「ルーア! また、竜が出たんだ! 急いでくれ!」
たくさんの声が聞こえる。
「はい、了解しました」
私は翼を取り出し、空からそこへ向かった。
「るーあっ!!」
そこにはお小さいあの方がいて。
その方に向かって炎を吐こうとする竜に一瞥し。
「対象、リーヤ。加速展開、ブレスバリアー!!」
その炎はリーヤ様を燃やす威力はない。
なぜなら、それを遮断するバリアを私が張ったからだ。
地面に着地し、そのまま竜に突進する。
「あなたは、この世界に必要ない。消滅せよ」
手を大きな剣に、刃に変えて、固い鱗ごと、真っ二つに切り裂いた。
どうっという音ともに、竜は息絶える。
ああ、勝ったのだ。
なんと嬉しいことだろう。
「るーあ!」
「リーヤ様。まずは私の力のセーブを」
「あ、そーだった。『るーあ、お疲れさま』」
「通常モードへと変更します。……ありがとうございます、リーヤ様」
やっと抱けた、暖かいお小さい命に。
なぜだか、雨の滴が落ちた。