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ああ、懐かしき丘の上

挿絵作成:陽一さま

http://10819.mitemin.net/


指定ジャンル・必須要素:特になし





 ゆっくりとその建物が見えてくる。

 丘の上にあるその場所は、一面、緑に覆われていた。

 ただ一つ、茶色のベンチがその存在を主張している。


挿絵(By みてみん)


「懐かしいな、よくここに座って遊んでいた」

 私はベンチの座る場所を少し手で払ってから、ゆったりと座った。

 幼い頃の思い出が、目の前に浮かぶようだ。

 瞳を閉じて、しばらくそのままでいたが、今日はそのために来たのではないことを思い出した。

 ゆっくりと立ち上がり、緑の建物を見上げる。

 誰の手がかかっていないその場所は、緑の蔓が覆っていた。

「そういえば、母がこういう植物が好きだって言ってたっけ」

 瞳を細めて、ゆっくりと建物に近づいていく。

「一応、カギを持ってきたが……」

 鍵を使う前に、その建物の扉は開いていた。いや、ドアが壊れて、取れかかっている。

「必要なかったようだね」

 壊れかけた扉が音を立てて、開かれる。

 柔らかい暖かい光が、天井から注がれていた。

 廊下は埃でいっぱいだ。二階へと続く階段も埃で灰色に染まっている。

 その埃を踏みしめながら、私は二階へと上がっていった。

 ギシギシと軋む音が響いたが、幸いにもそれだけだった。

 二階には、姉と私の部屋、それに屋根裏部屋があった。

 もうそこには、なにもない。

 がらんとした部屋に……妙な落書きがされていた。どうやらスプレー缶で色付けされており、少々不気味に見える。

「えっと……赤城、参上? もっと良い言葉はなかったのかい?」

 思わず苦笑が浮かぶ。

 屋根裏部屋に入ると、いろいろなものが置き去りにされていた。

 いくつかなくなっているようにも思うが、どれも不要なものだった。

 誰かが使うなら、役立ててもらえるのなら、何も問題ない。


 次に私は1階に戻って来た。

 錆びついたキッチンにバスルーム、トイレもそのままだ。

 そして、一番気にいっていたリビング。

 いや、リビングから眺める景色。

 そこから見える海が、私は大好きだった。

 家族と一緒に夜の海を眺めた時もあった。

 そのときは、かがり火が見えて、とても綺麗だった。


 あのときと変わらない場所に、私の家は残されていた。

 今はもう、誰かが入り込める廃屋になっていたが。

 恐らく肝試しの場所になっているのだろう。

 でも、ここはかつて、私の家族が住んでいた、暖かい家だった。

「さてと、全て見てきたし、そろそろ帰るか」

 振り返り、緑に埋もれそうな、あの茶色いベンチを見た。

「さようなら、また来るよ」

 だから今は。

「いってきます」

 何年後かにまた来ようと思っているが、いつ来れるかわからない。

 だが、足腰が動くのならば、また。

 再びここに来よう。

 私の思い出がたくさん詰まった、この家に。




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