あなたとわたしの事情
挿絵作成:太郎さま
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ジャンル・必須要素:指定なし
先ほどから涙を零す彼女に、私は大丈夫と告げている。
むしろ、職場の人達に知られた彼女の方が、大変だろうに。
「本当に、本当にごめんね、晶ちゃん」
「大丈夫です、梓さん。こっちは問題ないですし」
私達は、はたから見れば異色なカップルに見えるが、本人達はいたって、自然な愛の形。
「梓さん、何かあったら、知らせて下さいね?」
「わ、わたしのは、大丈夫だから。でも……晶ちゃんを、傷つけちゃった……」
……この人は……。
私が傷つくことくらい、どうってことはないのに。
「傷ついてなんて、いませんよ」
「でもでも、心無い中傷、たくさん言われちゃったよぅ……」
全くというほどではないが、こういう世界に身を置くことを決めたときから、もう覚悟は決めている。
でも、それまでは、ほんの少し梓さんに寄り添っていたい。
私達の大事な愛を、しっかりとした形に残したいから。
その意思を貫くためにも、私は今、スカートを履いているのだから。
私はそっと、彼女の手を取る。
そして、頬に触れる。私よりも、綺麗な肌。これを維持するために、どれだけのものを費やしたのだろうか。
「周りは気にしなくていいよ。それにスカートを履くのは、今だけ」
「うん、そうなのに……」
「梓さんも気にしないで。俺、梓さんが泣く方がもっと辛い」
「そ、そうだったね」
私がそういえば、梓さんは急いで涙を拭きはじめた。けれど、零れてくるものはなかなか止まらない。
「じゃあ、これでおしまい」
彼女の目元にキスを落とす。
「ちょ……晶ちゃんって……男前」
「そういう風にしたの、梓さんの所為だよ」
くすりと二人で微笑む。
「早く、生まれてくるといいね……」
そっと私のお腹をさすって、梓さんは言った。
「ん……そうしたら、元に戻ろう。俺達のあるべき姿に、ね」
梓さんが綺麗なお姉さんになるように、私は俺になる。
そして、梓さんと、これから生まれる子を守るのだ。この両腕で。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけて」
泣き止んだ梓さんは、やっと仕事に向かった。もちろん、いってらっしゃいのキスは忘れない。
「パパもママも苦労しているんだから、ちゃんと元気な子になるんだよ」
くすりと笑い、具合が悪くなる前に家事を済ませるために、ゆっくりと立ち上がったのだった。




