表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夜空の星

作者: 神葉空気

昔々というほど昔じゃないけれど、夜空が生まれるよりもずっと前、夜空のお母さんが生まれるよりも前のことだ。


私はそう語りだす。

孫の夜空が目を輝かせて話を聞いている。

しわくちゃな手で夜空の、名前のようなきれいな黒い髪を撫でてやりながら続きを語る。


あるところに一人の女の子がいました。

森の中や海の近くということもない、普通の街に住む普通の女の子です。

女の子は優しい両親に育てられすくすくと育ちました。

隣の家に住む同い年の男の子と毎日日が暮れるまで遊んでいました。

それは二人が学校に通うようになってからも変わりませんでした。

ですが、暖かな春に一緒にお花見をし、かんかんに照ったお日様の下で海水浴に行き、だんだんに日が短くなる秋に顔よりも大きな紅葉を集め、寒い寒い冬がやってきたころ次第に二人で遊ぶことが減っていきました。





「――くん一緒に」

「――!帰りに公園でサッカーしてこうぜ!」

「よっしゃ、今日は負けねえぞっ」

「あっ……」


学校のじゅぎょうがおわって――くんといっしょにかえろうと思ったのに今日もほかの男の子たちとサッカーをしに行っちゃった。

さいきんちっともいっしょにあそんでくれない。

サッカーだってほんとはあんまり好きじゃないけどいっしょにやろうとした。

でもほかの男の子たちが女なんかといっしょにやりたくないって言うから、――くんがほかの子とあそべなくならないようにもうサッカーについていくこともできない。

なんかさいきんつまんないな。

クラスには――くんいがいにもともだちはいる。

でも、やっぱりいちばんなかがいいのは――くんなのだ。

いつも――くんとあそんでいたから、おうちにあそびにいくようなともだちがいなかったことに今さら気がついた。

そのことは少しさびしい。

でも、しかたないので今日も一人でかえるしかない。


一人であるくつうがくろ。

すっかりはっぱをすべておとしてしまった木がうえられたほ道。

空は白くかすんでいて、はれているのかくもっているのかわからないちゅうとはんぱ空だった。

うすぼんやりとしたあやふやな天気は今のわたしのようで、ちらりちらりと目が上をむくのをやめることができなかった。

なんだかきのうよりもさむい。

手に白いいきをはいてこすり合わせる。

お母さんがあんでくれたマフラーを口もとまで上げて、ポッケに手を入れる。

……少しあったかくなった。


わたしはあるく。

一人で家にむかって。

かえればお母さんがいる。

よるにはお父さんもかえってくる。

でも……


白。

上を見ると白があった。


「ゆきだ」


わたしは空からふわりふわりとおりてきたそれに手をのばした。

だけどふしぎとつめたくない。

手のひらにのった小さな光。

さわれないけど手のひらにのった。

ふしぎだ。

手が、からだが、心がぽかぽかしてくる。


「あなたはだぁれ?」


しぜんと口から出たぎもん。

とくん、と手につたわる音が生きていることをおしえてくれる。

だけどへんじはない。

ただゆっくりとまいあがり、かおのまえでただよう。

ゆらゆら。

ゆうらゆうら。

その光を見つめていたら、ふいに1人の男の子のかおが思いうかんだ。


ずきんっ。


むねがいたい。

男の子のことをかんがえたらむねがいたんだ。

小学校にあがるまえからいつもいっしょにあそんでいたのに、さいきんちっともあそんでくれない。

むねがいたいのに、その子のことをかんがえたらしんぞうの音がどんどんはやくなっていく。

これはなんなの?

くるしくて立っていられない。

つめたいじめんにひざをついても光から目がはなせない。

ほっぺにあったかいなみだが一つながれていった。

それでも光を見ていたら、きゅうにわかった。

わたしは――くんが好きなんだ。

とつぜんだった。

そんなことかんがえたこともなかった。

なのにそのことに気がついたら、かわらないむねのいたみがなんだかいやなものじゃなくなっていった。

わたしはお母さんもお父さんもお友だちのみんなも先生もみんな好きだ。

でもその子への好きはそのどれともちがった。

いっしょにいるとうれしくて、くるしくて、たのしくて、むねがいたくて。


たぶんその日、わたしははじめてこいをしたんだ。






こうしてその女の子は初めての恋をしました。

もちろんそれだけですぐに何かが変わったわけではありません。

それでも自分の気持ちに正直になった女の子は男の子に自分の気持ちを気付いてもらえるよう色々なことをしました。

まずその年の冬には、初めてチョコをつくりプレゼントしました。

お母さんに作り方を教わりバレンタインデーにあげましたが、喜んだだけでバレンタインデーの意味がよく分かっていないようでした。

それから毎年作って渡しましたが、義理だと思ったのかなかなか女の子の気持ちに気がつきません。

休みの日もこれまで以上に遊びに誘いました。

ですが中学生になった頃から男の子は次第に女の子を避けるようになりました。

その頃には女の子のお母さんも女の子の気持ちが分かっていましたので、色々なアドバイスをしました。

押して駄目なら引いてみろ。

女の子は中学三年間だけだと自分に言い聞かせ男の子に素っ気ない素振りをしました。

すると男の子の方から心配してくれるようになります。

女の子は男の子を騙しているようで気が引けましたが、二人のお母さん達はあの鈍感バカ息子にはこれくらいしてやんなきゃ分かんないから気にしなくていいわと言われました。

女の子のお母さんだけならともかく、男の子のお母さんからもそう言われては後には引けません。

そして中学校の卒業式、男の子の制服の第二ボタンを狙う他の女の子達と平和的に話し合いをしてボタンを守り抜き、ボタンを貰いに行きました。

しばらくぶりに顔を合わせ頬を真っ赤に染めた女の子が第二ボタンをくれるように頼むと、そこでようやく男の子も女の子の気持ちに気が付きます。

今までのことと何で最近冷たくしていたのかの理由を言って謝りました。

それでも自分からは告白ができません。

もうほとんど告白しているようなものなのですが、女の子は好きな男の子から告白をして欲しかったのです。

そして男の子の方もそんな女の子の気持ちにようやくですが気が付きました。

そうとなれば男の子は女の子が何故自分から告白しないかも分かります。

そしてその日、女の子の9年がかりの初恋は叶いました。

こうして女の子は大好きな男の子と付き合い始め、二人は末長く幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。






「それっておじいちゃんのこと?」


私が光を見たころと同じくらいの年の女の子が顔を輝かせている。


「おじいちゃんには内緒だよ」


口元に小さくしわを作り左手の人差し指を立てて笑う。

一応名前は伏せたんだけど、やっぱり気がついちゃうか。


「うんっ」


最近の子はずいぶんと色恋が好きなんだね。

そう思うが、若いころを思い浮かべ私のころもそう変わらなかったかと思い直す。

不思議な光のことになんて大した興味を持った様子もない。これだけテレビやゲームなんかに触れる機会が多いとそのあたりは物語を面白くするための作り話だろうとしか思わないのかもしれない。

かつて私が一度だけ見た不思議な光。

私はあれを妖精なんて呼んでいたけれども、あれがなんだったのか、夢でも見ていたのかは今でもわからない。

でも確かにあったことなんだと今でも信じている。




孫ももうこの冬が終われば学校へ行くようになる。

これまでは家族という狭いコミュニティだけが夜空の世界だった。

幼稚園のお友達と遊ぶことで少しずつ広がっていったとはいえ、これからが本番だ。

これからこの子は少しずつ世界を広げていく。

もちろんつらいことや苦しいこともたくさんあるだろう。

それでも冬の澄んだ夜空に瞬く星々のように無数の出会いを見つけ、少しずつ少しずつ大人になっていってほしい。

膝の上で楽しそうに話す少女の将来に思いをはせた。

これは童話……なのでしょうか?

企画に参加しようと童話を書いてみたのですが、童話である自信がありません……


よければ感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 人が生きるにあたり、大切な「恋心」というものを子どもにも分かるように描かれた良作です。 ありがとうございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ