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紙飛行機

作者: 秋月カンナ

 放課後のこの時間、いつも教室には私一人。他の子たちはさっさと帰ったり、部活に行ったり、教室の中が空になるのは、びっくりするくらい早い。

 別に私もここに残る意味はないんだけど、友だちはみんな部活だし、かといって家に帰ったところで何があるわけじゃない。それに学校が終わってすぐに帰ってしまうのも、何だか淋しい。だから放課後はその日の分の宿題をやったり、雑誌を読んだりして過ごしてた。この静かな空間が、そのときだけはまるで自分だけの世界に感じるのも、この時間を気に入ってる理由の一つだと思う。

 教科書の関数とにらめっこ。数学は本当に嫌いで、こんなのを覚えて、一体将来の何に役立つんだと思うけど、担任が数学の教師だから手を抜けない。出来なかったらネチネチ言ってくるのも、ホントにむかつく。

 あー、やっぱりわからん。向き合ってるだけで頭がおかしくなりそう。私は大きく伸びをして、窓の方に向かって外を眺めてみた。大きな声でしゃべりながら下校する女子たち。ミニゲームをしているサッカー部。掛け声を合わせて素振りをしている野球部。

 同じ場所にいるはずなのに、そのひとつひとつを見てみると、全く違う世界がそこにある。不思議だなぁなんて思いながら、校庭を眺めていた。

 じゃあ、私がいるこの世界は、一体どんな風に見えるんだろう。

 ホームルームでもらった今月のスケジュールのプリントを取り出し、それで紙飛行機を作ってみた。ちょっと不恰好になってしまったけど、思いっきり投げれば、きっと飛ぶだろう。

 窓を開け、助走をつけて、えいっと投げた。でも、紙飛行機は窓から出ることなく足元にポトッと落ちた。

 は、恥ずかしい。あれだけ力いっぱい投げたのに、全然飛ばなかった。私しかいなくてよかった。こんな姿は見られたくない。

 次こそは絶対飛ばしてやると、残念な紙飛行機を取ろうとした。けど、紙飛行機は違う手に持ってかれた。

「お前、ここで何してんの?」

 見上げると、同じクラスの男子がそこにいた。

「み、見てた?」

「あんだけ勢いよく投げて真下に落ちたとこ? かっこわるっ!」

 見られてた! 私だけだと思ってたのに!

 その子はいつも後ろの席に座ってて、いつもはあんまりしゃべったりしない。そんな子に笑われたのも、余計に恥ずかしい。

「ちょっと見ててみ」

 そう言って、持っている紙飛行機を広げて作り直し始めた。出来上がると、さっきとは違うきれいなものがそこにあった。

 その生まれかわった紙飛行機を、窓の外に向かった軽くスッと投げた。すると、紙飛行機は体勢を保ちながら校庭の方に飛んで行った。

「どうよ」

 見たかと言わんばかりの顔をしていたから、私は思わず蹴りを入れた。

「いってぇな、てめぇ!」

「うっさい!」

 私は窓際に逃げた。男子も、痛がりながらも窓に寄りかかり、二人で校庭を眺めていた。

 教室は二人になって、私の世界はどう見えるだろう。

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