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第7話 イメージは大切


 うっかりグラビティで死にかけて、フロウに説教された。

 大いに懲りた俺は、慎重に安全な訓練法を考えたのだが、問題は立ったままグラビティを掛けると貧血状態になりやすいということだ。


 考えてみれば前触れなしに3Gからの重力を受けるわけで、頭に血を送る心臓の方が対処しきれないようである。

 その心臓のパワー不足は一時的なもので、いくらか時間があれば高重力にも対応するようなのだが、そこには致命的な隙が生まれてしまう。


 重力3倍だと血圧何倍必要なんだ?

 血圧はあまり関係ないのか?

 心臓に負担があるのは間違いなさそうだが。

 確か戦闘機のパイロットは対ブラックアウトの訓練をしていたはずだ。頭に血を送るため、足に力をこめるとか何とか……。

 俺も足にぐっと力を入れてみたりしたが、コツでもあるのかあまり効果はなかった。

 そこで仕方なく、床に寝そべってグラビティを掛けるという方法を取ることにした。

 もちろん石の上に直接寝そべったりはしない。

 厚くて柔らかいマットを敷いて、その上に寝そべるから安全性はバッチリだと思う。


 そうして訓練を続けた結果、グラビティの熟練度は順調に上がり続けた。

 数日後には4Gを叩き出し、まだまだこれからと気合いを入れていた俺の脳内に、エクスシステムからのインフォメーションが響いた。





《ステータス情報更新》


 新たな魔法を2つ習得しました。


 グラビティサークル……指定された地点に円形の高重力領域を作りだす。重力の大きさはグラビティの熟練度に依存する。領域半径はこの魔法の熟練度に依存する。持続時間はレベルに依存する。


 デ・グラビティ……対象に掛かる重力を減らす。減らせる重力はグラビティの熟練度に依存する。持続時間はレベルに依存する。


 2つともグラビティから派生した新魔法だった。

 グラビティサークルの方は、グラビティの範囲攻撃版といったところか。

 少し離れた場所を指定して使ってみたが、指定した場所を中心に半径1メートルほどが高重力領域になっていた。

 その領域に入ると急激に高重力が掛かる。領域内の重力はフロウの計測によれば4G。

 現在のグラビティの出力がそのままグラビティサークルにも適用されているらしい。ただ、使い勝手は微妙だ。


 グラビティなら相手が移動しても効果は変わらないが、グラビティサークルでは固定された領域から出られたら効果がない。

 相手が複数であれば効果的かもしれないが、それには熟練度を上げて有効領域を広げる必要があるだろう。

 消費魔力はグラビティの2倍で20MP、持続時間はグラビティと同じ30秒だ。


 デ・グラビティはどうだろう。危険はなさそうだったので自分に使ってみた。するといきなりふわっと軽くなり、嘘のように身軽に動くことができた。

 ただ困ったことに、身軽すぎて普通に歩くと歩幅が広くなりすぎる。そう、宇宙飛行士が月面を歩く時のアレのようになるのである。この時の重力は4分の1Gになっていた。

 どうやら分母の方に、現在のグラビティの最大出力である4Gが適応されるらしい。


 きっとグラビティの最大出力が10Gになれば、デ・グラビティの最大出力は10分の1Gになるのだろう。

 この魔法は戦闘での使いどころが難しいかもしれない。

 踏ん張りが効かなくなるというのが一番の理由だ。


 今回2つの新魔法を得られたが、差し当たって伸ばす必要があると思ったのはグラビティサークルだ。

 侵入者がパーティーを組んできたりしたら恐いので、できれば範囲魔法も鍛えておきたい。

 あと現在メインで鍛えているグラビティの出力だが、これは発動時のイメージにより変えられることが分かった。

 2Gと少なめの出力にイメージすればその通りになり、消費MPもそれに応じて減少する。


 現在グラビティは最大出力4Gで、10MPの消費だ。

 試しに2Gの出力で使ってみたところ、消費は4MP以下に抑えられた。出力が半分なら消費魔力は半分以下になるらしい。


 仮に将来の最大出力が10Gになった場合、出力5Gのグラビティを4MP以下の消費で放てるだろう。

 この点から見ても、同じ魔法の一点強化というのはおいしいのかもしれない。

 そんなわけで続けてグラビティを鍛えていたのだが、思わぬ壁にぶつかった。


 これまではグラビティを自分に掛けることで明確なイメージを掴んでいのだが、そのイメージが問題となってしまったのだ。

 グラビティの成長とともに徐々に増えていく骨の軋むような重圧は、俺に恐怖感を与えるようになっていた。

 それでも潰れて死ぬことはないだろうと、その時も自分に対してグラビティを使ったのだが……。


「グラビティ!」


 ぐっと体がマットに沈みこむ。

 ――まるで力士にのしかかられているような重圧感。

 その時、そう思ってしまったのだ。


 その力士のイメージは俺を恐怖させ、以後のグラビティ使用で集中力を欠く原因となる。

 イメージするまいと思っても、一度描いてしまったおぞましい重圧のイメージは繰り返し俺を恐怖させる。


 毎回グラビティの発動と同時に、


 俺にダイブしてくる力士!

 俺の手足を拘束する力士!

 俺に体を押し付ける力士!


「力士が……! 力士が……!」

〈どうしたのです、ラント!〉


 金縛りにあったかのような様子の俺に、フロウが呼びかける。グラビティの持続時間は切れたが、腰が抜けたように起き上がれない。


「はぁ……はぁ……」


 このトレーニング方法は……もう駄目だ。

 グラビティを体感することに恐怖を感じ始めていたうえに、幻覚さえ伴いそうな力士のイメージは致命的だった。


「フロウ……これからはクイックだと思うんだ……」

〈なにがあったのです? ……いえ、ラントがそう考えるのなら、そうすべきでしょう。少し休みなさい〉


 ああ、優しいなフロウ。

 グラビティを自分に掛けるって方法をやめればいいんだけど、威力を体感できたからこそ成長も速いと感じてたんだよな。

 でも、もう駄目なのかな……。


「ああ……このまま少しだけ、休ませてもらおうかな……」


 横になって目を閉じる。

 う……駄目だ。強烈なイメージがフラッシュバックしてしまう。

 目を閉じれば、大量の魚群のように頭上に浮かぶ力士の群れ。俺の脳裏に焼き付いた、このイメージを消すには……。


「フロウ、ちょっとだけ我が儘を聞いてくれないか?」

〈我が儘ですか? なんです?〉

「少しだけ、そ……添い寝して欲しい」


 フロウの少女成分なら、このイメージを消去できるはず。少女成分……それは、紳士を癒すスピリチュアル元素。


〈あまり顕身モードは使用したくないのですが……〉

「そうか……あまり無理は言えないよな……」


 あれは身体に負担が掛かるようなことを言っていた。

 俺としたことが、癒しを求めるあまりに何てことを頼んでしまったのか。ここは紳士らしく、潔く諦めよう。


〈まったく、人間とは不条理な存在ですね……仕方ありません〉


 えっ!?

 緑色に瞬く燐光が舞い始める。そして現れるエメラルドのような少女、フロウ。


〈少しだけですよ〉


 そう言ってクッションに腰掛け、そのまま俺の隣に身を横たえる。


 ……えっ、ええっ!? まじで?


「あ、あの、フロウさん?」

〈なんです? おかしな呼び方をして〉

「本当に添い寝してくれるとは、思わなかったんだ……」

〈そうですか。私も、こんなに手の掛かる配下とは、思いませんでした〉

「なんか、すいません……」

〈まったく、人間とは不条理です〉

「不条理ですいません……」


 チラチラと横目でフロウの顔を見て、スピリチュアル元素を補給した。それは1分程度の、短い間の出来事だった。





 ――フロウに添い寝してもらい、力士の悪夢は去った。

 そして……開眼したッ!


〈またグラビティを? 大丈夫なのですか?〉

「ああ……任せてくれ」


 クッションに仰向けに寝そべり、悪夢にリベンジを果たすため意識を集中する。イメージ……イメージだ。

 俺は両手を宙に差し出し、それをイメージした。そして魔法を発動させる。


「グラビティ!」


 イメージしたのはエメラルドの少女。それが魔法の発動と同時、腕に飛び込んでくる。それも1人ではない。


 100人のフロウが重なり合って飛び込んでくるのだ。


 俺にダイブしてくるフロウ!

 俺の手足を拘束するフロウ!

 俺に体を押し付けるフロウ!


「フロウが……! フロウが……!」

〈どうしたのです、ラント!〉


 天使に会ったかのような様子の俺に、フロウが呼びかける。

 グラビティの持続時間は切れたが、魂が抜けたように起き上がれない。


「ハァ……ハァ……」


 こうして更にグラビティの成長は続くことになった。



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