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第1話 配下になりました


 俺は今、ダンジョンコアと名乗る存在の前にいる。


 あの半分岩に埋もれた宝石のように見えるのがダンジョンコアらしい。薄い緑から黄色へと、色合いを変えながら明滅を繰り返している。


 そのほのかな明滅は、まるで生きているかのようだ。


 置かれた状況に途方にくれ、なかば放心してダンジョンコアを見詰めていたが、ふと我にかえって声の主に尋ねた。


「……ところで俺、何のために喚ばれたのかな?」

〈それですが、私はあなたではなくゴブリンキングを喚んだはずでした。しかし、なぜかあなたが現れたのです〉

「そういう間違いは良くあったりするのか? 他にも俺みたいな人間が召喚されたりとかは?」

〈そのような経験はありません。私が召喚を行ったのは今回が初めて……つまりあなたが最初です。ですがシステム的に人間が召喚されることなど有り得ないはずなのです〉

「そうなんだ……」


 正直わけが分からない。

 しかしこのまま召喚間違いの件を突っ込んでみた所で、きっとどうにもならないのだろう。


「それで……俺はなにかの間違いで召喚されたらしいけど、これからどうなるんだ? 出来ればなんとか元いた場所に帰してほしいんだが……」

〈それは先程も無理といいました。私にはあなたを元の世界に戻す力はありません。また、仮にその力があったとして、何の利益もなく帰したりはしないでしょう〉


 やはり駄目か……。


〈あなたの処遇ですが、私の配下としてダンジョンを守ってもらいます。配置はフロアガーディアンです〉

「ダンジョンを守るといっても、具体的に何から?」

〈主にダンジョンへの侵入者からです。これの撃退があなたの役目になります〉

「撃退って……もしかして人間と戦ったり? 状況によっては……殺す……とかも?」

〈そうなる可能性は高いでしょう〉

「も……もし、嫌だと言ったら……?」

〈ダンジョンに侵入する人間達の最終目的はダンジョンコアの強奪にあります。ダンジョンコアである私が強奪、もしくは破壊された場合、ほどなくして配下モンスターも活動を停止します〉

「活動停止って……」

〈端的に説明すると、死ぬ、あるいは消滅する、ということです〉


 なるほど……ダンジョンコアと配下のモンスターは一蓮托生であるらしい。ここで生き残るためにはダンジョンコアを死守しなければならないようだ。

 しかし俺に人間と戦うなんて出来るだろうか? たとえ戦えたとしても……撃退どころか返り討ちにあうんじゃないか?


 くっ、どうすれば……。この手でダンジョンコアを破壊したら? いや……ダンジョンコアの説明が事実だとしたら俺は死ぬことになる。

 ダンジョンから逃げ出す?

 逃げ切れるかはともかく、その場合、ダンジョンコアの破滅と連動した死がいつ訪れるか、怯えながら生きていくことになるだろう。


〈あなたをフロアガーディアンとして召喚する際、相応のコストを支払っています。それがあなたにとり不本意な役目であろうと、役に立ってもらわねば困ります〉

「そのさ……フロアガーディアンって何?」

〈あなたには通常持たされているはずの召喚モンスターとしての基礎知識がないようです。それを説明したいと思うのですが〉

「いや、そんなものを説明されても……たぶん俺、役に立てないと思う」

〈そうですか。しかし、役に立たないとなると維持コストが無駄になるわけです。――それならむしろ、いない方がいいですよね?〉


 やばい……このままだと処分される?

 ひとまず従う振りだけでもした方がよさそうだ。


「……是非モンスターの基礎知識? それの説明をお願いします」

〈はい。適切な判断がなされたようで何よりです〉


 こいつ妙に丁寧な言葉遣いなんだよなぁ。

 これが高飛車で横柄な態度なら、俺もカッとなって自棄になってたかもだが……。


〈ダンジョンに配属されたモンスターの役割は、第一にダンジョンを守ることにあります〉


 うん、それはそうだろう。

 ダンジョン存続に自分の命も掛かってるなら、守らざるをえないんだから。


〈モンスターが戦闘での勝利等何らかの功績をあげた場合、報酬としてEP(エクスポイント)が与えられます。EPは基本的にダンジョンからの報酬、または経験値に付随する得点と考えて構いません。モンスターはこのEPを消費することで、ステータスの強化や各種能力の獲得等が可能になります。更に相当のEPを支払うことで、ダンジョンマスターになることも可能です〉


 おお……ダンジョンマスター。

 ホントにゲームみたいな世界だな、ここは。


「ダンジョンマスターってどんな権限があるんだ?」

〈ダンジョンマスターは、私への命令権を持ちます。つまり当ダンジョンにおいてほぼすべての権限を得ます〉

「具体的には、どんなことができる?」

〈制限はありますが、ダンジョン施設の配置、新設、変更、また、モンスターの配置変え、新たなモンスターの召喚等です〉


 ちょっと面白いかもって思ってしまった。

 モンスター召喚か……。


「その召喚出来るモンスターって、どんなのがいるんだ?」

〈そうですね、主なところではスライム、コボルト、ゴブリン、オーク……〉


 ゴブリンがいたから予想はしていたが、まんまファンタジーでは定番の魔物じゃないか。


〈……アルラウネ、サキュバス……〉

「なっ……!?」


 サキュバス……だと? あの伝説のエッチなお姉さんモンスターが、実在するというのかっ!!

 いや、待て。誰がお姉さんと決めた! そうとも、可愛いお嬢ちゃんかも知れないじゃないか!


 ハァ、ハァ……。

 おっと! い、いかん……。

 俺としたことが、紳士にあるまじき妄想を……。


〈――等が挙げられます。召喚モンスターは能力に応じたコストを常に消費するため、ダンジョンマスターはその分のコストも稼ぎ続ける必要があります〉


 コストか……ここまでの話では大きな権限を持つらしいダンジョンマスターだが、落とし穴もありそうな気がする。それでも単なる配下でいるより、ダンジョンマスターになれるならその方が良さそうだ。

 問題は、俺に侵入者……つまり、人を殺す事ができるかだ。正直、できる気がしない。


 しかし……しかしだ。


 侵入者はダンジョンコアを求め、勝手にダンジョンへ押し入ってくるのだろう。

 その行為は、人のものを盗みにくる強盗と同じだ。

 そして奴らが盗もうとするものは、いわばこちらの命。

 それならダンジョンコアを守るためには相手を殺すしかない。


 シンプルに言うなら、殺し殺されの関係。殺されたくないなら、後は殺すしか残らない。

 生きていたいなら、それは絶対だ。


 ――ならば。


 そうやって死線を潜り、ダンジョンコアを守りながらダンジョンマスターを目指してしまうのは、人としてむしろ自然な流れ。


 つまり、ダンジョンマスターになった俺が女の子モンスターをたくさん召喚し、紳士的に愛でるようになるのさえ自然な流れ……いや、むしろ必然といえよう。


 不安はあるが、とにかく今は状況をあるがままに受け入れるしかないな……。

 混乱していた頭をなんとか冷静に落ち着かせる。

 ダンジョンを守るのが俺の役目と言っていたが、俺は己の肉体に自信がない。

 しかし……ダンジョンコアは、俺をフロアガーディアンと呼んでいた。ならば自分でも気づかぬうちに、隠された力がこの身に宿っているという可能性はないだろうか。


 ……実にありそうな話だ。というか、そうでもなければ話の流れ的に詰むだろう。

 ここは俺の持つフロアガーディアンとしての力、確かめておくべきか……。

 ゴブリンは恐らくザコ……力試しには最適か。


「わかった……。でもここで働くにあたり自分の力を知っておく必要があると思う。そこで力を試してみるためにゴブリンと戦ってみたいんだが……」

〈戦うまでもなく、あなたの力は把握しています。命を無駄に消費する行為は許可できません〉

「えっ……もしかして俺、ゴブリンを瞬殺?」

〈いえ、あなたがゴブリンに瞬殺されるでしょう〉


 ぐふっ……。


 俺の力、ザコに瞬殺されるほど貧弱だったとは……。

 どこからか貧弱と連呼する声が聞こえて来るようだ……立ち直れるのか、俺……?


〈あなたの能力ですが、今のままだと低すぎます。ですが、あなたにはフロアガーディアンとして400EP与えられています。これを消費することで能力強化が可能です〉


 ――能力強化、だと……?


「な、なるほど……強化のやり方は?」


〈まずは、コアコネクトと唱えてください〉

「コアコネクト!」


 口にした途端目眩がした。立ちくらみのように視界が暗くなる。


「なんだこれ……」

〈現在、EPシステムの情報共有が準備されています――準備完了。これより任意での情報共有が可能となりました。データ転送を開始します〉


 うわっ!? 頭の中に何か入ってくる……っ!


〈転送への抵抗を確認。抵抗をやめてデータを受け入れてください〉

「これなんか気持ち悪っ!」

〈気持ち悪くても害はありません。抵抗せず力を抜いて受け入れなさい〉


 仕方なく、リラックスしようと深呼吸した。


「すぅーーーっ……アッ!」


 深呼吸で脱力した瞬間、何かの情報が脳に分け入ってきた。脳の真っさらな領域にねじ込まれる膨大な情報。

 ねじねじ、ねじねじと。


〈データ転送中……転送中……〉


 ねじねじ、ねじねじ。


「アアッ!」

〈転送中……〉


 ねじねじ。ねじーーーっ。

 ペカッ!





 ――ちょっと色々やばかった。

 脳内で怪しい光が明滅し、ねじねじと脳の何かをねじられた。

 そのねじねじが止まってシステム接続が切れた瞬間、視界に青いスパークが走り、それからゆっくりと正常な視界が戻ってきた。

 気がつけば、頭の中に知らないはずの情報が存在している。

 な……なるほど……。これがEPシステム……。


〈転送完了。これでEPシステムをイメージで理解できるようになったはずです。ステータスオープンと唱えてください〉

「ステータスオープン!」


 少し休んでからそう唱えると、視界の中にモニター画面的なものが浮かんだ。人の形を簡略化した図形やら、各種シンボルマークや数値が表示されている。

 不思議な感覚だが、俺はこの表示の意味や操作方法を理解できていた。


「こ……これは……」


 ステータスの筋力や素早さといった項目が赤く表示されていた。この赤い項目は、数値を上げにくいことを示している。成長率が悪いってことだ。

 表示の色別で示される成長率は次の通り。


 暗い赤 → 超低い

  赤  → 低い

 ピンク → やや低い

  白  → 普通

 水 色 → やや高い

  青  → 高い

  紫  → 超高い


 俺、赤が多いんだよな……。

 赤い表示のひとつ、筋力だが、現在17と表示されている。ここにEPを振ってみよう。


 1EP、2EP、3EP……。


 7EPまで振ったところで筋力が17から18に上がった。

そこで400EPをすべてを筋力に振ってみる。

 すると筋力の表示は74になった。

 筋力全振りなら今の4倍以上の筋力を得るわけか……。


 決定操作をするまで、EPは消費されない。参考にさっきのゴブリンの筋力を見てみよう。

 ダンジョン内のモンスターならデータを呼び出して参照できるようで、ゴブリンAからDの中から選択できる。

 ……さっきの奴はDか。


 ゴブリンD 筋力38


 はい、素のままだと俺の二倍の筋力がありました。

 ゴブリン侮れん……うっかり戦わんでよかった。

 筋力だけならEP全振りでゴブリンの2倍に出来るが、他の項目にもEPを振ってみないとな。

 仮振りしたEPをキャンセルし、改めてステータス表示を見ていく。


 筋 力(赤) →  17

 素早さ(赤) →  19

 持久力(赤) →  18

 器用さ(白) →  22

 頑丈さ(ピンク)→ 17

 魔 力(紫) →  0


 こうして見ると明らかに戦士系には向いていない。

 筋力に全振りでゴブリンの筋力を上回るが、それではこの先、ゴブリンより少し強いかもしれない程度にしかなれない。

 しかしまだ希望はある。


 魔力だけは成長率超高いはずの紫だから、これに振ってみよう。

 この魔力という項目で示される数値は、魔法を使う時に消費されるマジックポイント、すなわちMPの最大値だ。

 魔力が高くても魔法の威力が高まるわけではないらしい。

 魔法の威力に影響を与えるのは、熟練度とレベルの方になる。


 現在の魔力は0……。

 魔法の無い世界から来たんだから、まあ納得の数値だ。


 さて、ここにEPを振って、どんな感じになるか……。



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