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宝の地図

昔々あるところに、モグさんという貧乏な青年がおりました。


モグさんは、黒猫堂という骨董品屋の店先で、不思議なモノを見ました。

それは小さな瓶に入った黒くて薄い筒状のものでした。

近寄ってみると、筒状のモノは、メタリックな質感を持っていました。

「金属かな」そう思いました。


さらに目をこらして見ると、金属板の上に何かひっかいた跡が確認できました。

それは、蜘蛛の巣状に細かく細工してあるのですが、何かの図版のように見えました。

白い紙が添付してあります。


店内に足を入れて、その解説を読むと【宝の地図(本物)】と書いていました。

モグさんは、その文字を見るとなぜだかほしくてたまらなくなり、

瓶をつかんでカウンターに持って行きました。

「この宝の地図(本物)というのは本当ですか?」


「本当じゃニャ」店主が言いました。

カウンターに座っていたのは、大きな黒猫でした。

「売ってください。買います」

「じゅうまんえんだニャ」


モグさんは全財産10万円をはたいて、そのみすぼらしい瓶を買いました。



---------------------



さっそく家に戻って、Zライトの下でその金属片を調べました。

円形の島らしきモノが描いてあり、

宝の地図、龍の沼、焦熱地獄、奈落の谷……という文字が読めました。

モグさんは正確な地図を作るために、金属片を平らにのばし、

白い紙を均等に押し当て、その上からBの鉛筆でこすりました。

すると、金属板の凹凸にそって

紙の上に白い線が浮き出てきました。

モグさんはその紙を拡大コピーしてみました。

島の中央は希望の谷と描いてあり、その中央に×印が書いてあります。

これが宝のありかに違いありません。緯度と経度が記載されていたので、

詳細な地図で調べました。すると東南アジアにある無人の島であることがわかりました。



------------------------------



モグさんは、旅の準備をはじめました。底の丈夫な靴、ロープ、コンパス、食料、医薬品などをリュックに詰めて、冒険の旅に出かけました。


その島の周りではよく船や飛行機が遭難する。つまり交通の難所として、人々に嫌われている。そういった事実もわかってきました。モグさんは船をチャーターして島に向かうことにしました。

島に到着して初めてその地名の意味がわかりました。

龍の谷というのは、大蛇のうごめく沼地でした。モグさんは木の上を伝って、なんとかその沼を切り抜けました。

奈落の谷というのは、断崖絶壁の谷でした。モグさんは片方の谷から

かぎ爪のついたロープを投げ、もう一方の谷に引っかけると、そのロープにぶら下がって渡りました。

焦熱地獄というのは、毒ガス成分を含んだ高熱の蒸気が吹き出す、温泉場でした。

モグさんは、持参した防毒マスクをかぶって、その場所をダッシュし、なんとか制覇しました。


突然モグさんの前に、絶壁が立ちはだかりました。

これが最後の難関、希望の谷に違いありません。モグさんはそう確信してその絶壁を登りました。登り切ったところで、反対側に鋭く傾斜していました。モグさんは、地形を慎重に見渡し、その高台が、カルデラふうの火口の縁になっていることを確認、ロープを使ってゆっくりと中心部にむかって降りました。




「ふう、やっと着いた……」

モグさんは大きく息をすると、火口の中を調べました。すぐに中央にある大きな岩に気づきました。そしてその岩の向こうにヘリコプターの残骸が半分土に埋まっていました。

その岩の影に倒れている人物も。

人物は何か書き物をしている様子でした。

きれいな白骨になっており、まわりに瓶や鉄板がいくつか散らばっていました。


「これは……」

モグさんは瓶を見て驚きました。というのも、モグさんが黒猫堂で購入した宝の地図、その地図を入れていた瓶と全くそっくりだったからです。

「もしかして、宝というのは……」

モグさんは人物の手元に注目しました。そして細かい文字の書いてある鉄板をむしり取ると、日の光にかざして一字ずつゆっくりと読み始めました。


------------------------------



『ようこそ。希望の谷へ。君がだれだかわからないが、誰であっても歓迎しよう。きみがこの文章を読む頃私はもうこの世にいないだろう。君は私を見るだろう。そしてなんと哀れな奴だと思うかもしれない。

そう、私は冒険家だった。そして、宝を発見したのだ。宝はこの島の地下に眠っている。私はそう思っていた。しかし現場に来てみて驚いた。宝などどこにもなかったからだ。あはははは。君もだまされたね。人はどうして冒険などするのだろう。旅などするのだろう。いやどうして今ここでなく、いつかどこか行ったことのない場所に身を置きたいなどと思うのだろう。つまり、現在というモノを軽視し、未来をこれほどまでに重視するのだろう。今いる場所をいやがり、これから行くかもしれない場所を恋い願うのだろう。そして身も心も二つに引き裂かれるのだろう。しかし実際、その場所に行ってみたら幻滅する。幻滅するのがわかっていながら、それでもやっぱり行ってみたいのだ。君も、その例に漏れず。さて、この希望の谷は、すり鉢状の器になっている。私はこの谷からの脱出を試みた。あらゆる可能性を試してみた後、すべての希望が絶たれた末、この手紙を書いている。もう時間は残されていない。もうじき、大地の怒りが吹き出すだろう。今度のマグマは致命的だ。つまりこういうことだ。すり鉢状の希望の谷は活火山の上にある。この火山は周期的に火を噴く。そうすると、希望の谷は地獄の釜の上をゆらゆらと動く。次第に熱が下から伝わってくる。すべてのモノが灼熱に焦がされ消失する。君もここへ来る途中で見ただろう。硫黄酸化物が吹き出す焦熱地獄を。あれだ。あの噴火が大規模に起こるのだ。この釜の中に。私は自分の肉を少しずつ切り裂き、海鳥に食わせた。そして、海鳥の首に瓶を掛け、瓶に入った鉄板ごと外の世界に運び出すことに成功した。はははははは、君はどうする』



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そのとき大地がごごごごごご……と震動を始めた。


崖の上に止めてあったロープが外れ、カラカラと落ちてきた。


「しまった!」

モグさんは、傾斜地を駆け上ろうとした。


しかし、ずるずるずるずると滑り落ちた。


転倒して、モグさんは天を仰いだ。

青空に白い海鳥が5~6羽飛んでいた。


ミャオミャオ、ミャオミャオ、ミャオミャオ、ミャオミャオ、

海鳥たちは次の獲物を狙っていた。



あああああああああああああああああああああああああああああああ


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