表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

サブクエストを受けました 2

前日のくだん、偶然の連鎖は、とても刺激的だった。

平行線を辿る、味気の無い日常に訪れた変化だった。

華のある彼女の事だから、意識さえすれば、人と目を合わせない自分でも容易く見かける事が出来た。

彼女は、如何いかにも明るく楽しそうなグループの一員となっており、妙に安心した。

ああいう娘が意外にも。友人に恵まれず…と言ったパターンだってある。

しかし此れはほぼ小説の中の話だろう。

現実は友人のいない寂しい男が投影した理想とは違う。

男は1人が2人となる喜び、希望を強く持っている。

故にその喜びを与えて、あわよくばを願っているのかもしれない。

しかし、目が覚めれば、華のある娘は友人に囲まれ、男は1人なのだ。

それだとあまりに悔しいので、深層心理に逆らい、あわよくば根性を矯正すべく、彼女は何不自由なくキャンパスライフを送っているのであれば、干渉無く、今まで通り過そうと思った。

煩悩への脱却論を身にまとい部室に向かうと、想像の範疇はんちゅうを超える出来事がまだまだ続きそうだと確信した。

昨日の娘が鍵の掛かった扉の前で待ち伏せていたからだ。

相当の暇人か、物好きなのだろう。

何の用かと思ったが、なんの事は無い。

昨日のお礼を改めてする積りだったのだ。

非常に社交的で常識的。そのさがの良さからは、見識的で良識的を付け足しても良いと言える。

そこまで大それた事はしていないが、圧倒的な良心に完敗を期した為、ひん曲がったプライドが痛む。

良心対戦の敗者である自分は、彼女に従うしかあるまい。

執事の如く彼女を招き入れ、椅子を引いて差し上げるのだ。

紅茶の準備をしなくてはいけないが、そんな洒落た物は無かったので、缶ジュースで簡便して頂く。

お構いなくと困った顔をしている。

これぞ敗者の足掻き、一矢報いたのだ。

だが、これ以上の作戦は無い。

お互い沈黙が続いた。非常に気まずい。

指で頬を掻く程プレッシャーに迫られてしまった。

察してくれたのか、彼女が先に仕掛ける。

「あの、昨日は助かりました、私昔っから抜けてて…ほんとありがとうございました。」

勝者が頭を下げている。

しかしこの良心対戦において、頭を下げるというのは、圧倒的火力のある兵器なのだ。

これに勝てる術は1つしか無い。

目には目を、歯には歯を。

「いやいや、とんでもないです。」

自分は更に、深々と頭を下げる。

すると彼女は微笑んだ。

緊迫した場は一瞬で和んだ。女神の微笑みからの一時休戦である。

「ふふっ、優しいんですね。ええと…名前聞いてもいいですか。」

そういえばお互いの名前も知らなかった。

ゲームに熱中したのが小1時間程だったが、ゲーム以外の話題なんて一切しなかった。

こうやって自然な流れでお互いの情報が得られれば良いが、いきなり脈略無く名前を聞くのは愚昧ぐまいと自称ストーリーテラーは心得ている。

「藤倉です。」

「よろしく藤倉さん、私は美紗倉 椎奈。」

なにがよろしくなのか解らないが、良い名前だ。発音すると綺麗な響きがする。

それから陰の者と陽の者は、他愛の無い会話を交えた。

どうやら美紗倉さんは2年生で、オタク気質のある女の子である。

なんでも今期期待のアニメ。“死神リパちゃんと転生クロちゃん”に嵌っているらしい。

典型的な美少女アニメだ。

実は原作を買っており、アニメ化する前から気に入っていた作品なのだ。

極力ネタバレをしないよう気を付けて、今後の展開は面白いとプレゼンテーションした。

彼女は目をキラキラさせていた。

今日はサークルの主目的を忘れてしまう程、アニメ討論会に熱中してしまった。といっても話をしたのはほとんど彼女だったが。

「じゃあそろそろ帰ろうか。」

昨日のようにヘマはすまいと、部室と持ち物の点検をして、校舎を出る。

「また“しにてん”の話、聞かせてくださいね。でわ!」

彼女は敬礼し、そそくさと帰路に就いた。

今日は主活動がまったく進まなかった。明日こそはブログを更新したいものだ。

しかし、趣味を共有するのは実に楽しい。

また機会があったら、熱弁大会を繰り広げたい。

それにしても、またチャンスを逃してしまった。サークル存続の危機にひんしているというのに

勧誘するのを忘れていた。

もっと危機感を持った方が良い。非常に反省した。

勧誘というのは実に苦手であるが、サークルを継続させる為には、スカウト能力を身に着けなくてはいけない。

なんといっても、おもてなし精神を忘れてはいけない。

今日のように缶ジュースではいけない。

人には向き不向きがあるのだから、好みに合わせた飲み物を提供すべきだ。

つまり、多種多様の飲み物をストックすべきだ。

手広く構えないと、何事も過疎化を辿る時代に対応できない。

明日は買い出しに赴かざるを得ない。

茶菓子も必要になる可能性もある、適当な物を揃えておこう。

自分や先輩達のようなコアなオタクを深海魚とたとえるなら、最近のファッショナブルでコミュニケーションを好む層は、沖縄の熱帯魚である。

現在、深海魚の数は刻々と減っている為、美紗倉さんのような熱帯魚に合わせたサークルにしなければならない。

太陽の光が届くくらいの深さの水槽を作らなければいけない。

無色透明で漂うだけでなく、鮮やかに彩らないといけない。

しかし、具体的な案は出ない。

諦めて本日の1人反省会はやめる事にした。


講義を終え、買い出しに向かう。

昨日の反省を生かすべく、近くのコンビニで飲み物と茶菓子を買い、部室へ向かった。

不図ふと、美紗倉さんの顔が浮かび期待はしたものの、彼女は今日は来ていないらしい。

流石に毎日来る暇は無いだろうし、優先的になる程の場所でもない。

逆にこうして初中後しょっちゅう部室にこもる自分が変質の持ち主であると言えるのだ。

暫く買った雑誌に目を通す。

先日の討論会で話題になった“しにてん”の記事が載っていた。

声優のインタビュー、購読者の投稿したイラスト紹介、グッズの情報。

なんでも、メインヒロインである“りぱちゃん”の1/15フィギュアが出るらしい。これは買いである。

情報収集はこれくらいにして、ゲーム機の電源を付け、課題を始める。

そういえばこのゲーム機も1世代前の物で、ゲーム情報主体のブロガーとして、それではいかんせん示しが付かない。

そろそろアルバイトでもしなければいけない。

以前はスーパーマーケットでレジ打ちをしていたが、バイトが入れ替わり立ち替わりし、フォローに苦しめられた為、

脱落してしまった。

軍資金調達の為となれば苦渋を飲む決断はむを得ない。

それに先程欲しい物も見つかった。

働かざるもの萌えるべからずである。


店に貼られた広告を意識してみると、意外とアルバイトの募集をしているものである。

しかし接客業と言うのは、看板破りの如く、表の張り紙を見てと乗り込む程の積極性のある人物でないと雇ってくれない気がする。

仮に自分が、か細い声で立候補しても、いとも容易く追い払われえるだろう。

この世に楽な仕事などなかなか無い、しかし不得意に身を投じる程自虐的でも無いので、せめて裏方仕事のできる雇い先を見つけたい物だ。

調査を終え、最後に本屋で求人誌を一冊買い、帰宅した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ